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2.家族離散と4年の月日

「えっ、僕は4年間も昏睡していて、家族は離散したんですか!?」


「はい、一年ほど前までは奥様がお見舞いにいらしていたのですけど……お金持ちの方と再婚されたとかで……」


 僕の頭に雷が落ちた。職業柄、『金の切れ目は、縁の切れ目』の光景を何度も目にして来たが、実際、自分が縁を切られるとなると切な過ぎる。

 しかし、本当に4年も経っているのだろうか。いや、経っているのだろう。筋肉量が明らかに減っているし、身体が老けたような気がする。


(4年も無駄にして、さらに、家族は離散……皆どこに!?)


「妻の居場所……ねぇ、知りませんか?」


「ざ、残念ながら……し、知りません……で、でも、お、奥様が世話代だとお金を払って下さったので、えっと、リョウタさんはこの教会で……」


「つまり、妻は身売りしたと!?」


 衝撃的な事だ。僕の命を救うため、金持ちの妾になったのだろうか。高い保険に入っていたのに、どうして困窮したのか。僕は苦労を早苗に負わせた事を激しく悔やむ。


(プロポーズの時、『君を一生幸せにする』と誓ったのに。)


「……いえ、多分ラブラブでしたよ……だって二人とも仲良く手を繋いで……って、睨まないで下さい!私だって、リョウタさんが居るのに再婚だなんて酷いと思ったんですから!」


 思わず目の前の女性を凝視した。早苗が不貞を働くなど、思い当たりがあり過ぎて反論出来ないので、せめてもの抵抗だ。

 結婚式を挙げるまで、3股掛けていた早苗の事だから、金の切れ目で僕とおさらばする可能性は高い。

 最近は美鈴の報告によると、家に男を連れ込んでいたみたいだし、結婚生活が破綻するのも時間の問題だったのかもしれない。


「はぁ、早苗っ……あっ、美鈴と翔太は?」


「あっ、サナエさんの息子さんと娘さんですね!お二人とも元気だと思いますよ!ミスズさんはお母さんと一緒に新しい家に……あと、ショウタさんは冒険者ギルドに登録して……は、はい、も、申し訳ありません!に、睨まないで下さいよ!今はどこに居るのか知らないんです!」


 『冒険ギルド』とは会社の名前だろうか。翔太の事だから、意味不明な宗教団体や企業に勤めでもしたのかもしれない。


(だが、二人とも行方知らずか)


「ちぇっ、使えないな……」


「うう、ひ、酷いですよ……いつもお世話していたのに……」


 落ち込んだ彼女の姿は可愛いらしい。美鈴のようだ。4年間経ったという事は、美鈴も彼女の様にドッキュンボインの美少女になっているのかもしれない。早苗と中二病はともかく、愛しの美鈴にはいつか会いたいものだ。


「さて、これからどうするか……」


「えっ、無視ですか!?謝罪とかないんですか?」


 女は顔を膨らませて怒っている。面倒くさい女だ。一応世話をしてもらった恩もあるし、謝罪はすべきだろう。


「謝ります!すみませんでした!……ところで、話戻るけど、君誰?」


「はいっ!?……あっ、名前まだ教えていませんでしたね!私はこの教会のシスター、アンと申します」


 アンは笑顔で自己紹介した。ピンク色の髪を持つ彼女がシスターとは信じられない。身体もシスターにしてはドッキュンボイン過ぎる。

 おっさんセンサーによると、Eカップはある。銀行でセクハラ課長と陰口を叩かれていた僕の目に狂いはない。


「あっ、はい……でかいね……って言うか、本当にシスターなの!?いかがわしいシスターじゃないよね?そんなプレイは嫌だよ!僕はオプションなしで十分だからね!」


「えっ?な、何の事ですか?ここは正真正銘の教会です!いかがわしい事などしておりません!」


 元ヤンキー女かと思ったが、言葉遣いはある程度出来てるし、髪は染めてなさそうだ。ピンク色の髪など日本では見かけないが、どこの国の人間だろうか。名前の由来を考えるとアメリカとかイギリスかもしれない。

 だが、今は関係ない。家に帰ってから、両親と仕事先に連絡しなければならない。そして、警察に息子と娘の捜索願を提出せねば。


「よし、過去の事は水に流そう!アン君、今後についての相談だ。ここは何県何市だ?そして、いつ退院出来る?」


「……えっ〜と、失礼ですが、『何県何市』とは何の事でしょうか……退院はいつでも構いませんけど……『何県何市』の意味が……」


「東京……いや、静岡県伊豆市だとか、長野県上田市とか……地名の事だよ!知ってるだろう?」


「シズオカ?そんな地名聞いた事ありません……ここに地図がありますけど、どこにも……」


 混乱している様子のアンから妙に豪華な地図が差し出された。僕は地図上から見覚えのある地名を探す。


(長野県……長野県……ないなぁ、なら、山梨県……ないなぁ?この地図間違ってんじゃないの?さっきの紙みたいに、字も違うし……)


「ここにはない!この地図は偽物だろ?本物の日本地図を出してくれ!」


「この地図は公明な旅行家の方が……」


「ねぇ、本物の地図出して!ここは日本の何県何市なの?教えてよ、アーン君!」


 鏡があれば見てみたい程、面白い表情をしているに違いない。アンが僕から発せられる狂気、圧の前に身体を縮こめている。


「こ、これが唯一の地図なんです……というか、本当に異世界の方なんですか!?」


「だからぁ、翔太が好きそうなアニメとかゲームの設定は良いからぁ!!僕の居場所を教えてくれっ!!あと、もし僕が異世界に居るなら、証拠見せろ!」


「ううっ、こんな人初めてです……あっ、居場所ですね!ここはノード王国のコマンスマン村です!」


「あぁもう、何だよ!フランス語みたいな……って、僕はフランスに居るの!?」


「ち、違います!ここはノード王国です!フランスなんて聞いた事ありません!」


 アンと話が噛み合わない。彼女は頭が弱いのかもしれない。彼女のような人間が会社にも居た、島根県に出張する際に、『島根って、どこすかっ?』と尋ねる新入社員が居たんだ。彼女も奴と同じタイプの人間なのだろうか。


「よろしい、もう良い!僕も怒り心頭だ!出て行く!さようなら、今まで世話してくれてありがとう!」


 僕は部屋を飛び出して教会の外に、数年ぶりに土を踏んだ。日の光が暖かい。僕は深呼吸と背伸びをして、苛々した気持ちを発散する。


「さて……近くの派出所にでも……って、ええええっ!?」


 空から人が飛び降りて来た。パラシュートやグライダーなど装備していない丸腰の人間だ。僕は驚きのあまり腰を抜かした。そして、気絶した。4年にも及ぶ昏睡状態から目醒めて、2時間も経っていなかった。アンに再び世話になったのは別の話である。

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