プロローグ
プロローグ
人は高所を求める。高ければ高いほどいい。
人が空を飛べないから求めるというのは、本質ではない。背に翼を生やし、自由に大空を飛んだとしても、地を舐めるように飛ぶカモメやツバメと何ら変わらないだろう。果たしてそれが自由と呼べるのか。
手に入らないものを強く欲する性質を人が持っている限り、人は高所を求め続ける。
超高層タワーマンションの最上階。ヘリコプター遊覧飛行。遥か上空のスリルを味わうスカイダイビング。そのどれもが想像の範囲を脱しない低空である。
二〇二四年。火星に片道旅行をした宇宙飛行士のジョバイロ船長は、衛星通信でこう発言した。
「どうやら、火星にエネルギーに代わるような資源はないようだ」
ジョバイロ船長が地球に戻ることは二度とない。
往復分の燃料を積んだ宇宙船は、その重量に飛び立つことができない。それでも、火星を目指したジョバイロ船長は、打開策として、行きの燃料だけを宇宙船に乗せ、帰りは現地で調達する方法を選んだ。この方法は賭けであった。そして、ジョバイロ船長のチームは賭けに負けた。
しかし、この計画は失敗ではない。彼らの命を賭けた挑戦のおかげで、人類は火星への移住を諦めることができた。これは人類史上、最も有益な進歩である。
そして、ジョバイロ船長は地球に帰れない代償に、地球上の誰も到達できない高所を手に入れたのである。