最後の審判 前編
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!
天が裂け、地が割れる。
両者の圧倒的な魔力を前に、噴煙の雲は恐れをなしたかのように渦をまいた。
「……お久しぶりですね。『元』世界最強の魔女よ」
あくまで優雅に。上品に。
上空から見下ろしたままシャルロッテが声をかけると、マグダレーネは発言の意図が掴めずに困惑した顔を浮かべた。
「……えっ!? あ、あの、ごめんなさい! 私達どこかで会ったっ……け?」
ビキッ!
シャルロッテは一瞬眉間にシワを作りそうになったが、すぐに思い直して落ち着きを取り戻す。
「くっ……ふっふっふ。なんですかその挑発は? 流石に伝説の存在だけあって骨董品みたいな手口ですね。
……いいでしょう、楽しみになってきたですよ…… お前の股から口へと剣を串刺しにして……哀れな姿を、ポコの奴に見せつけてやるのが!」
そして戦いは始まった。先に仕掛けたのはシャルロッテの方だ。
ビシュゥゥゥン!
突き出した左手から放たれるレーザー光線。
光線と言っても厳密には本物の光速ではない。拡散と減衰を抑えるために、伝導体のような役割を果たす魔力の道を先行させる必要があるからだ。
だが、それでも見てから回避することなどは到底不可能だっただろう……そう、相手がマグダレーネでなければだ。
キュイィィィン!
電撃のような速度で迫るレーザー光線はマグダレーネの前方にて突如その軌道を変えて逸れていった。
「空間歪曲……当然そうくるですよねぇ!」
空間を操るマグダレーネの前方は蜃気楼のように歪み、正確に狙いを定めることは容易ではない。
故にシャルロッテは狙いを定めると言う事を放棄した。どこを狙えばいいのかわからないのなら、周囲の空間ごと全て吹き飛ばしてしまえばいいのだ。
ギュォォォォ……
両肩の翼がねじれ、まるで砲身のような筒状の形を作る。
ドドドドドドドドドドドッ!!
そこから放たれるエネルギーグレネードの嵐。
一発一発が2000ポンド級無誘導爆弾に匹敵する威力の榴弾が、発射速度毎分240発と言う狂気じみた密度でばら撒かれる。
更には垂直に発射された魔導誘導弾がマグダレーネを感知し、その魔力を追って自動で軌道を修正しながら迫ってきている。
フワリ
マグダレーネは後退してスカートのすそを広げた。
すると中からキラキラと輝く星屑が溢れ出し、魔力を帯びたそれは誘導弾をひきつけ、榴弾を誘爆させると辺り一面に凄まじい大爆発を引き起こした。
迫りくる高温の爆風をマグダレーネは空間を操作して受け流す。
しかしその流れをシャルロッテは読んでいた。
あらかじめ大量にため込んでいた空気を一気に噴射し、凄まじい速度で接近戦を仕掛ける。
「もらったぁぁぁ!!」
すれ違いざまの一閃。神剣から成型されたレーザーブレードがマグダレーネの肩を切り裂いた。
両者の間にある空間を広げて即座に距離をとるが、傷口から血がしたたり落ちている。
「くふふふふ。どうしました? 逃げてばかりでは勝負にならないですよ」
苦痛に顔をしかめるマグダレーネの様子に、シャルロッテは思わず頬を緩ませた。しかし……
「イタ……タタタ……そうね。一応もう反撃してるつもりなんだけど……」
「………………」
シャルロッテは違和感を感じて動きを止めた。見れば自分の脇腹に、みすぼらしく薄汚れた短剣が突き刺さっている。
ジョルジェォオルオレ!!!
ゲヘナの短剣……
それは悪臭と共に不浄な炎を吐き散らし、呪いの茨のように現在進行形でシャルロッテの身体を浸食していた。
「オ?! オォォォォォォォ!!?」
シャルロッテはそのあまりにも悍ましい、耐え難き嫌悪感に絶叫した。
半狂乱になって自身の体をえぐりとり、その身の3割近い体積と一緒に短剣を捨て去る。
「この……ビヂグソがぁぁぁ!!!」
シャルロッテは激怒した。
それは、天使に触れさせるにはあまりにも汚らわしい……下賤なる、最も貧しき者の刃。
「よくも……神である私に、あのような汚物を! 許さない……絶望と屈辱の果てにコロシテヤル!!」
バッ! バッ! バッ! バッ! バッ!
三対六枚の輝ける翼が開き、シャルロッテの周囲に巨大な多重積層型魔法陣が出現する。
「避けたら街が消し飛ぶですよ」
マグダレーネはギョっとして勢いよく後ろを振り返った。
シャルロッテと自分を結ぶ線の延長上には……エルバアル達が未だ抵抗を続けているであろう、カーディスの街がある。
「『ヨハネからアジヤにある七つの教会へ。今いまし、昔いまし、やがてきたるべきかたから、また、その御座の前にある七つの霊から……』」
ベキベキと音を立てて古代の神剣グラムが変形し、圧縮され、それは不気味な輝きを放つ黒球となった。
「『アァメン、さんび、栄光、知恵、感謝、ほまれ、力、勢いが……』」
マギノ・メギアを開発した古代の魔術師達が目指したもの……それはつまるところ、反物質爆弾の生成に他ならない。
高密度に折りたたまれた粒子加速装置によって陽子と陽子を衝突させ、生成された反陽子の対消滅によってその莫大なエネルギーを得ている。
構造上の問題から、マギノ・メギアで扱える質量は目に見えないほどの極々微量なものだ。
だが、神剣グラム…… この次元に存在しないはずの物質で構成されたそれは、天使の『唄』を浴びることで質量やスピンをそのままに電荷だけが反転すると言う特異な性質を持つ。
つまりは超々々大質量の…… 完全なる反物質である。
「『耳のある者は聞くがよい……』」
輝く巨大な魔法陣の砲身が、その銃口をマグダレーネへと向ける。
マグダレーネに仲間を見捨てるという選択肢はあり得ない。杖を構え、前方に何層もの防御結界をはり巡らす。
「『我はアルファであり……オメガである…………!』」
ギュイン ギュイン ギュイン ギュイン ギュイギュイギュイギュイギュイィィィィィィィィン…………
筆舌に尽くしがたいほどのエネルギーが集まり、そして……!
「『メギドォォォ…………マギリウスッ!! メギアァァァッッッ!!!!!』」
バッッッッッッ!!!!!
バリンバリンバリンバリンバリィィィン!!!
破壊の光線は放たれた。マグダレーネの張った結界をいともたやすく貫通し、もう手の届きそうなところまで押し寄せている。
(……っ! ダメ……っ! 耐えられない……っ!)
マグダレーネは初めて敗北と……そして死を予感した。
その時
シャキィィン……
それは美しい、雪の結晶のような結界だった……
随分と姿は変わってしまったけれど。けれど絶対に間違えようのない……懐かしい手の感覚が優しく肩を包む。
「すまん! 待たせたな!」
「……ポコ……っ!」
本当は跳びあがって抱きつきたいくらい嬉しかった。
けれど恋は駆け引きだ。積極的な手段に出ると、この優柔不断な男はいつものらりくらりとすり抜けてしまう。
喰いつくのではなく、喰いつかせねばならない。
マグダレーネは相手に見えないように目の端に浮かんだ涙を拭うと、さも当然のような顔をしていつものようにうそぶいた。
「平気よ。慣れてるもの」
杖を握る手に力がともった。
二人の反撃が、今……始まろうとしている。
ゲヘナ(地獄)について。
元々はエルサレムの城門の外にある深い谷だったそうで、そこにはありとあらゆる不要な物が投げ捨てられていたそうです。
未分別のゴミが燃やされる事によって有毒なガスが発生し、罪人や身寄りのない貧しい人達の死体が投げ込まれる事で酷い悪臭を放っていたそうです。
まぁ、金持ちの家に生まれたシャルロッテには到底関わるはずもなかったような世界ですね。
デモンズソウルの腐れ谷のようなイメージと思っています。




