表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/77

とある兵士の物語

生前と壱号の口調がかなり変わってますが、就職して集団生活を送るようになってから色々あったんだとご理解して頂けると幸いです



 勝負は一瞬。そして力量の差は圧倒的だった。


 剣は折られ、盾を裂かれ、成す術を失った壱号の身体を……つるぎの騎士が、ズタズタの穴だらけにする。


ガクッ…………ドシャッ!


 ついに力尽きて壱号は倒れた。4本の足のうち一本が斬りとばされ、最早自慢の脚力も速度が出ない。



(あぁ、ダメだ……この人強すぎるよ…… 僕、僕もう十分頑張ったよね? 主人公でも……ないのにさ……)



 仮に、痛みに耐えて立ち上がったところで最早打つ手などないのだ。

 目を閉じて静かに最期を待とうとする壱号の元に、妙に気分を高揚させる耳障りなリズムが鳴り響く。



ドンドンッ! ガン! ドンドンッ! ガン!



「壱号さん! 頑張ってくれ!」


「立って! 立って壱号さん!」


 それは、彼に期待する精一杯の応援の音だった。

 騎士も、民衆も、皆が一丸になって彼へ声援を送っている。


(だから……ダメだって……僕みたいなただの凡人に……期待なんかしたって、何も……)


 その時、彼のもとへ一際耳に響く声が入る。

 それは、彼が密かに想いを寄せていたあの……


「壱号! これを使いな!」


 イーリスが何か石で出来た棒のような物を投げ入れる。

 それは、勇者マルスの墓に突き刺さっていた聖剣だった。


 輝きを失い、ただの黒ずんだ石と化した聖剣を握って壱号が辟易する。


(だから、ダメだってイーリスさん。これ、僕つかえな……え?)


パァァァァ!


 その時、奇跡が起きた。

 ただの石くれだった刀身が透き通るエメラルドグリーンに代わり、淡い光を放っている。


(え? え? なんで!? どうして!? マルス……さん?)


 不意に、壱号の脳裏にいつかの勇者の言葉が蘇る。



『いいかい、壱号くん。女の人が言う「優しい人が好き」って言うのはね。自分にだけ優しい人が好きって意味なんだ。だから誰にでも本当に優しくするとハードルが上がって損するよ。わかるかい?』



(…………あ、違う。これどうでもいい、関係ないやつだ)


 勇者の遺したアドバイスはロクでもないものだった。


 そうだ、あんなクズでも勇者になれたんだ。案外……勇者になんて誰でもなれるのかもしれない。


 ならば、凡人の自分にだって……



ドンドンッ! ガン! ドンドンッ! ガン!



「壱号しゃん! がんばれー!!」


「勝って! 勝ってくれ壱号さぁん!」



(まったく……しょうがないなぁ)


 なおも自分に期待する声援は鳴りやまない。壱号はそのやかましい喧騒に苦笑いをしたくなった。


(それじゃぁ……いっちょご期待に沿えて演じてあげましょうかね……


 自分を勇者だと思い込んでいる…………ただの一般人ってやつの役割をさぁ!)



グ グ グ…………



 聖剣を地面に突き立てて壱号は立ち上がった。

 兜の奥に再び鬼火のような眼光が灯り、つるぎの騎士が剣を構える。



ダッ!



(ゥオオオオオオ!!!)



「…………ッ!!」




ガキィィィィィン!!




 命を燃やし尽くす最後の一撃。

 両者の剣がぶつかり、火花を散らして激しくつばぜり合う。



「今だ壱号! 剣と魔法をひとつに!」



ブゥゥゥン!!



 聖剣に光が集まる。刀身から三日月状の光波が放たれ、そして……











 激しい閃光に目がくらみ、人々ははじめ何が起きたのかわからなかった。

 しばらくして視界が戻ると、まず最初に目に入ってきたのは上半身と下半身を真っ二つに裂かれて吹き飛んだつるぎの騎士の姿。


「…………ミゴ……ト……」


 そしてつるぎの騎士は死んだ。

 折れた剣を地面に突き立てて上半身を起こし、真っ白な塩の像となって死んだ。



「やったぁぁぁぁ!!」


「勝ったぞぉぉぉぉ!!」


 歓喜に湧き上がる人々。

 だがそれが最後だった。ブチリ、と壱号の中で決定的な何かがちぎれ、魂と身体が分離する。


「壱号! やるじゃないか、アンタ凄い! ……よ?」


 イーリスは壱号の元に駆け寄り、そして異変に気付いた。


「おい! おい! アンタ冗談だろ!? せっかく勝ったのに……オイって!」


 壱号の体は崩れかけていた。触る事も出来ずにうろたえる彼女に、壱号が声をかける。



「……イー……リス……サ………………テ……オ……」


 それはたどたどしい言葉だった。イーリスは必死に頭を働かせて壱号の言いたいことを探ろうとする。


「テ……オ…… テオ! ……それが……それがアンタの名前なのかい!?」


 もう壱号に返事をする力は残ってなかった。


 ジワリ、と目の端に涙が浮かびそうになるのをイーリスが必死にこらえる。


「テオ……見なよ……みんながアンタの事を認めて……凄いって……本当によくやったって……」


 しかしこらえきれなかった。彼女の頬を大粒の涙が流れる。



(アハハ……いやだなぁ。だから似合わないって。ぼくなんてただの……凡人……なんだ……から……さ……)



「テオォォォォォォォ!!!」



 壱号の身体が塵となって風に舞う。

 

 表情などあるはずのない金属で出来た鎧の身体。


 だが、その顔はどことなく満足気に笑っているように見えた……



















































 が、たとえ問屋が卸しても、それはカーミラが許さない!




「まてまてまてまて! 我がおるのにそんな終わり方にする訳がないであろうが!」




 シンシアは文字通り空から飛んで駆けつけた。


「どれどれ? うむ。ちょちょいっとな!」


 カーミラは壱号の魂を土壇場でキャッチすると、それを古代の呪法で確保する。


「シンシア!? アンタ空、飛んで……それに、その子は」


 イーリスは空から降って湧いた二人の幼女に驚いた。

 そんな彼女にシンシアがことの顛末を説明する。




「ふー。それにしても間一髪でしたね」


「うむ。魂が身体から分離して消滅しかかっておったからな!」


 カーミラのデタラメな説明を受けて、イーリスはあいた口がふさがらなかった。


「た、魂を直接キャッチって……その子、どんだけ規格外なのさ」


「ムムッ? ……ムッフッフ。そうであろう。そうであろう? もっと褒めたたえてもよいのだぞ?」


 カーミラがその平らな胸をはり、得意気に見上げながらニンマリと顔を綻ばせる。


「ま、こやつの魂はあとで適当な入れ物にでもいれてマグダレーネが復活させるであろう。我の完全復活にもどのみち時間がかかるしな。ま、それはいいとして……」


 不意に、カーミラは真剣な顔に戻って西の空を見上げた。

 空は歪にねじれ、激しい雷鳴が渦巻いている。



(……マグダレーネに限って万一の事もないとは思うが……なにやら嫌な予感がせんこともない。誰かに、悲劇的な結末が訪れてしまうような嫌な予感が……)



 きっと戦闘はまだ続いているのであろう。

 カーミラは一抹の不安とともに、北西の空を睨み続けるのであった……

自分を一般人だと思い込んでいる、ただの勇者の物語……


あと3日。金曜日に完結です!(最終日はエピローグが付くので2話投稿)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ