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ハルマゲドン 7


(ここ……どこだろう……暗くて……寂しい……な……)


 上も下も、時間の感覚さえもない。

 なにもない虚無の空間の中を、シンシアの意識は1人で彷徨っていた。


ドックン……ドックン……ドックン……ドックン……


 鳴り止まない心臓の音。そして……


『ワーッハッハッハ! どうしたシンシア? なにをしておるのだ?』


 腕を組んでふんぞり返る姿が目に浮かぶような、幼女の尊大な声が脳裏に響く。


「カー……ミラ、さん? 死んだ……はずじゃ……」


『うむ。確かに今回は大失態であった。まさか禁術まで奪われてしまうとは…… やれやれ、またマグダレーネのやつに借りが出来てしまいそうではないか……ん?』


 ひぐっ。えぐっ。っと……溢れ出した嗚咽にカーミラが目を丸くする。


「カーミラさん……! 私……本当に死んじゃったかと……!」


『ムムッ? …………うむ、そうか、フフッ』


ポンッ……ポンッ……


 暗闇の中。泣きじゃくる子供の頭を、小さく……柔らかな掌が撫でまわす。


『大丈夫。身体をバラバラにされたくらいで我は滅びぬよ。まったく……おぬしちと吸血鬼としての自覚が足りぬのではないか?』


 カーミラは八重歯のような牙をニッと見せて上を向いた。

 

『丁度良い機会だ。我が直々にレッスンを授けてやろう!』


 フッと手をひかれるような感覚。シンシアは水面に向かって浮かんでいくような浮遊感を感じ、そして……



--------------



(これ……は……?!)



「あヴぉぁー……」



 目を覚ますと辺り一面にフラフラと彷徨い歩くグールの群れ。

 そして黒く腐れた馬に乗り、ズリズリと移動を続ける飢餓の騎士。


 視線を下に向けてシンシアは驚いた。汚れた衣服。腐った肢体。これではまるで……


(え、私グールになっちゃった!?)


『いや、そうではない。見ておれ、こういう事だ』


 そう言ってカーミラはグルリと視界を360度回転させて見せた。それは眼球の稼働範囲を明らかに超えた、本来あり得ないはずの視界。


『クックック。こんな事も出来るぞ』

 

ヒュイッ ヒュイッ ヒュイッ


 っと、カーミラはまるで魂の憑依先を次々に乗り換えるかのように、別のグールからの視点に次々と切り替えて見せた。


『その身に流るる血液こそが我ら吸血鬼の本懐…… 故に我らはどこにでもいて、どこにもいない。まずはその事から理解せねばな』


「す、すごい……」


 手品などでは到底不可能な映像体験に、シンシアは自分達が人類を超越した存在である事をまざまざと思い知らされた。



『さて、時間もないので次に進むぞ…………伏せ!』


ベタッ!


『お座り』


ビシッ!


 人差し指を下や横に向けて命令を下すと、グール達が突如として一斉に統制のとれた動きに変わる。

 異変に気付いた飢餓の騎士が秤を掲げて念を込め直すが、カーミラの力がそれを上回った。


「え、なんでなんで? みんなおかしくなっちゃって言う事聞かなくなってたのに!」


 感嘆に、無いはずの口を開けるシンシア。その様子を見てカーミラはクックと笑った。


『なに。簡単な綱引きだ。どちらの主人が格上であるか、と言う事のな…… 故に我らは常に尊大で、高貴でなければならぬ。どれほど人に笑われようとも、だ。わかるかの?』


 説明を続けている間にも、グール達は終結して山のようになる。

 そして目や口からドロドロと黒い血液が流れ、集まり……


 黒く、濁った血だまり。そこからチョコレート細工のような像がゴボゴボと立ち上がり、表面の血がはじけ飛ぶ。すると中からムチムチな太ももと平らな胸の、可憐な少女の姿が現れた。


『飛べ。シンシア。今のおぬしなら出来るはずだ』


「は、はい!」


 コウモリのような羽をはばたかせて、シンシアは宙に舞った。

 飢餓の騎士の暗い穴のような視線がその様子を見つめる。


『一旦退くぞ。今の我らにあれは倒せぬからな。それに……』


 カーミラの幻影が八重歯のような牙を見せて笑う。


『なにやら、うまそうな匂いが……近づいておるからな!』



-------------------



 一方その頃。タロスは合成人間達を引き連れて北門へとひた走っていた。


キィィィィン!


「旦那ぁっ! 空から女の子が!」


「なにぃっ!? ……って! シンシア!?」


「タロスさん!?」


シュタッ


 地面に着陸すると、開口一番シンシアはタロスの首元にかぶりついた。


「失礼します!」


ガブリッ チュウウウウウウウウッ!


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」


ガクッ


 こうしてタロスは力尽きた。干からびたミイラのようになって力なく横たわっている。


「な、なんで……俺が……なにをしたって……いう……んだ……」



(う、うわぁ……えげつねぇ……)


 その、生気を吸い取られたあまりにもあんまりな様子を見て豚男は血の気がひいた。そんな彼にゆらりとシンシアが近寄ってきている事に豚男がひどく驚く。


「いやっ、ちょっと待ってください! 俺は関係ないですよね!? ブタです。ブタ野郎ですよ!!? まごうことなきブタやブッヒィィィィィィィ!!?」


ガブリッ チュウウウウウウウウッ!


「ン”モ”ォォォォォッッッ!?」


「らめぇぇぇぇぇっっっ!!」


「イクイクイクイクゥゥゥゥ!!!!!」


 豚男、牛男、鳥娘、アラクネ…………死屍累々と化した地獄絵図にただ一人、ツヤツヤのテッカテカと成ったシンシアが立っている。



「あ、あの……これ本当に良かったんでしょうか。こんな事して……」


『いいのだ、いいのだ。どうせ物理で殴ることしか知らん連中にあの化け物は倒せんから気にするな。行くぞ!』


 シンシアは再び羽を広げて飛び立った。勿論、向かう先は……



-------------------



 二人は再び戦場に舞い戻った。眼下から干からびた樹木のような体をした飢餓の騎士が見上げている。


『あやつに打撃戦を挑んでも効果が薄かろうからな。遠距離からの魔法攻撃で一気に焼き払う!』


 作戦を告げるカーミラにシンシアは困惑の表情を浮かべた。


「え! でも私、魔法なんて使えない……」


『なーに、我に任せておけ。小難しい術式などはこっちで組むから、お主はただ力を込めて撃てばよい。いくぞ!』


ブゥゥゥン パッパッパッパ……


 コウモリのような羽が開き、魔法陣がいくつも展開する。

 それは多面体のサイコロのように結集して閉ざされた空間を作り、洗練されて綺麗な球体状となる。



『アル・グレド・イグス……エル・ゼア・ノイア……』


 シュオン


 古代の文字列で出来た球状の魔法陣の中に光線が追加される。


『イル・ディス・ノイア……イグ・イールス・ゼアル……』


 シュオン シュオン シュオン シュオン シュオンシュオンシュオンシュオン……


 逃げ場のない魔法の閉鎖空間を破壊の光線が反射して飛びまわり、光線が追加されるごとにその光量を増していく。


「ちょ、これ!? これホントにこんなの撃って大丈夫なんですか!!?」


『よいのだ。我が許す! 弁償とかになったらポコが払う。やれ!』


「……っ! 知りませんからね! ……いきます。禁呪……マギノ! メギアッ!!」







ズオォォォォォ!!!



 まるで大気圏に突入する隕石のように、空気との摩擦で真っ赤になった魔法陣の塊が飢餓の騎士を襲う!



「!!!???!?!?!!!!!!??」



 飢餓の騎士は驚愕した。

 全身の魔抵抗を全開にして、両腕を広げてそれを受け止めようとする。しかし!



…………チュドォォォォォォン…………



 魔法陣が崩壊し、中から恐ろしい威力の熱量が溢れ出す。

 道も、家も、塀も壁も。それはあらゆる建造物を焼き尽くして不浄なキノコ雲を立ち上らせた。


 飢餓の騎士は死んだ。

 何もかもを焼き尽くされ、真っ白な塩の柱となって死んだ。



「……やった! 勝ちましたよカーミラさん!」


『ワーッハッハッハ! どうだ見たか!? 我は凄いであろう?!』


 シンシアは半実体化したカーミラと手と手をとりあって喜んだ。

 そして、打ち合わせたかのように腕を組み、背中をくっつけてポーズをとる。



『「せーのっ!」』



「可愛いはっ!」『正義なのだ!』

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