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ハルマゲドン 6


「ぐぁぁぁぁぁ!!」


バキッ! ゴリッ! メリメリメリメリ!


 獣の騎士の右手がタロスの頭を掴み、左手が両の足を押さえつける。

 そして喰いこむ牙。牙。牙。大きく裂けた口にビッシリと生えた、無数の牙がタロスの肉体を貪り喰らう。


 驚異的な耐久力を誇ったタロスの命も最早風前の灯であった。


「ぅ……ぐ……ぁ……」


 血を失い過ぎた頭が意識を手放しかけ、視界が白く染まる。

 だが不意に、目の前の白が灰色がかった薄汚れた白さに代わり、まるで紙吹雪のように視界が乱れる。


 視界を埋め尽くす骨、骨、骨。

 何十体ものスケルトンの軍勢が、一斉に獣の騎士へと襲い掛かっていた。


「GURAAAAA!!」


 相手は強力な合成人間達ですら敵わない獣の騎士だ。

 最弱クラスのスケルトン達に何が出来る訳もなく、ただの腕の一振りで簡単に薙ぎ払われてしまった。

 だが、その時である。


「でぃぁぁぁあ!!」


(この声は……師匠!?)


 タロスの背中を不思議な感触が包んだ。


「タロス殿、こっちだ!」


 見ればアリエスが自分の身体を担いで走り出していた。そして向かう先は……


「アニキ!?」


「すまん、待たせたな!」



--------------------------



 エルバアルの治療を受けて瞬く間にタロスは回復した。

 この世界の回復魔法とは本来、安静した状態で一日、数日がかりと時間をかけて治療するものだ。

 しかし世界最強の回復術師である彼だけは、異次元のスピードで瞬時に傷を治してしまえる。


 見れば地面に横たわっていたものや、腹部を貫かれて壁に串刺しにされていた者達まで再び立ち上がって戦いを繰り広げていた。



「タロス……それじゃあ、例の作戦でいくぞ」


「おうよ!」


 エルバアルが神妙な顔で後ろにつくと、タロスは力強く頷いた。


「なぁ、タロス殿……」


 タロスの抱えた丸太に静かに手を添え、アリエスは少し困ったような笑顔でこう囁いた。


「短い間ではあったが、あなたは本当に驚異的なスピードで成長してくれた。もう私では力になることは出来ないだろう。だからせめて……」


キィィィン…………


 アリエスはテスタロッサに己の闘気を込めた。不思議な耳鳴りと共に、丸太が淡い光に包まれる。


「乙女の祈りってやつだ……生きて帰ってこいよ」


 無事を祈り、印をきるアリエス。

 しかしタロスはそんなアリエスの様子を見て不謹慎に高笑いした。


「カッカッカ! なんだよ師匠。その年でまだ処女だったのか? いい加減その辺で捨てとかねぇと恥ずかしいぜ?」


カァァッ!


 アリエスはその真っ白な肌をみるみる紅潮させて


「なっ!? バカっ! 人が心配してるのに…… もう知らん! さっさと行け!」


「おうよ、そんじゃちょっくら行ってくるわ!」



--------------------



 再びタロスは走り出した。袈裟懸けに振り下ろした丸太が獣の騎士の肩を叩く。


「GURAAAAA!!」


 獣の騎士の凶悪な爪がタロスの胸を抉る。だが、先ほどまでとは事情が違った。


「ヒール!」


 タロスのすぐ真後ろにピタリとはりついたエルバアルによる回復呪文。

 抉られた胸板が魔法のように瞬時に治り、真横に振り抜いた丸太が獣の騎士の顔面をはりとばす。



「うおりゃぁぁぁぁ!!!」



ドカッ! ドカッ! ザクッ! ドカッ! ドカッ! ザクッ!


 

 タロスはこれでもかと言わんばかりに丸太を打ち付けた。

 獣の騎士も反撃に応じるが、即座にエルバアルがダメージを回復させてしまう。



「GURAAAAA!!」



 獣の騎士は馬のような下半身から前足を振り上げ、エルバアルに向けてその蹄を突き出した。



「させる訳ねぇだろ!!」


バシィッ!


 タロスが丸太を捨てて、馬のような蹴りを受け止める。


 だが、獣の騎士はその隙を狙っていた。

 歪に裂けた大口を開け、その獣性をむき出しにして頭をかじりとろうとする!


「おぁぁぁぁぁ!!」


ガンッ!


 タロスは思いっ切り獣の騎士の上あごに向かって頭突きをかました。


「ヒール!」


 その傷も瞬時にエルバアルが癒してしまう。


「息が……」


 タロスは相手の口に思いっきり左手を突っ込み、舌をひっぱった。


「くせぇんだよイヌっころがぁぁぁ!!!」



ドカァッッッ!!!!



 渾身の右ストレートが獣の騎士の顔面をぶっとばす。


 そして始まる……獣とケモノの殴り合い!



「GURAAAAA!!」



「ぅおらぁぁぁぁぁ!!!」



「いけいけいけいけいけぇぇぇぇ!!!」



ドカッ! ドカッ! ザクッ! ドカッ! ドカッ! ガブッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ! ザクッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ! ドカッ…………



 どれほどの殴り合いが続いただろう。


 そして、ついに……



「だらっしゃぁぁぁ!! 勝ったぞぉぉぉぉぉ!!!」



 最後に立っていたのはタロスだった。両腕を天に突きあげてガッツポーズをとる。


 獣の騎士はついに力尽き、崩れ落ちて真っ白な塩の灰と化した。



「やったぁ!」


「さすがタロスさんだぜ!」


 合成人間達から歓声があがり、アリエスも秘書官と手を取り合ってぴょんぴょん跳ねながら大喜びしている。



「すまん、タロス! 俺ちょっとマグダレーネが変なことしてないか見てくるから中の方任せていいか!?」


「おう! 行ってこい!」


「すぐ戻るから! んじゃぁ……




 ……えっほ! えっほ! えっほ! えっほ!」


 かくして男達は走り出した。


 それぞれの、自分達の役割を果たしに……

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