ハルマゲドン 5
南地区の大通り。
他に誰も動くもののいない、地中の微生物すらも死に絶えた戦場で両者は対峙していた。
「クックック……また会ったなポコよ。いや、邪悪なる魔王……バアル・ゼブブよ!」
「そ、その声は!?」
エルバアルは驚愕した。無数の人骨が連なった異形の怪物から、かつての仲間である勇者の声がしたからだ。
「マルス! お前たしかに死んだはずじゃ!」
「あぁ、確かに死んださ。お前達にいいようにコキ使われた挙句、仲間に裏切られて死んだんだ! ……復讐に囚われた僕は天国にも地獄にも行けず現世を彷徨っていた。そして偶然見つけたんだ。シャルロッテ様がその偉大なる御力を前に……顕現なされるところを!」
「こ、こいつ……!」
エルバアルは驚愕した。何故だ。自分の時もそうだったけど、何故こんな簡単に昔の知り合いを様づけで呼ぶ事が出来るんだ。
(……プライドだけ異常に高いのに、プライドが全然無い!)
「僕は勇者だ。その身に魂の力を宿して戦う事が出来る。それはつまり、他者の魂と同化出来ると言う事。 ……召喚された死の騎士と同化した僕は再び舞い戻った。それもこれも、お前達に復讐を果たすためだ!」
ズォォォォォ……
死の騎士の体から禍々しい瘴気が立ち込める。
「御託は終わりだぁ! もっとも、戦いにすらならないだろうがな…… 死ねぇっ! ポコッ!!」
ドスッ! ザザザァ…………!
ザラザラとした質感の錆びた大曲剣を地面に突き刺し、剣から津波のような死の瘴気が押し寄せる。
「グワァァーーー!」
エルバアルとスケルトン達は波にさらわれるかのように両手を投げ出して瘴気に呑まれた。
しかし、元々死んでいる彼らには何の影響もない。
「大丈夫かぁ!?」
「……?」
「……(コクコクコク)」
「なにっ!?」
無事を確かめ合うスケルトン達。
死の騎士はそれを見て再び地面に剣を突き立てた。
ドスッ ザザザァ…………
「グワァァーーー!」
剣から津波のような瘴気が押し寄せ、スケルトン達が波にさらわれるかのように流される。
「え……なに……? みんな大丈夫か?」
「……?」
「……(コクコク)」
「え……なんだ……こいつ……なにがしたいんだ……?」
実際には超強力なスキルなのだが、なんのダメージもないエルバアル達には敵の意図がわからない。
だが、これに動揺したのは彼らだけではなかった……
チリーン
死の騎士は懐から取り出した鈴を鳴らした。その音色を聞いただけで即死する最強クラスの魔道具。
しかし、元々死んでいる彼らには何の影響もない。
カッ!
死の騎士は邪眼を発動させた。浴びただけで全身が麻痺する呪いの閃光。
しかし、元々筋も神経もない彼らには何の影響もない。
「(……なんだこいつ……) あのさぁ……ちょっと、いいかな?」
エルバアルとスケルトン達はまるで不審者を相手にするかのように死の騎士に詰め寄った。
「俺、その、回復術師なんだけどさ……回復魔法ってアンデッドには効かなくて逆効果になっちゃうんだよ。スケルトンとか、グールとかにはさ……
それで、今のお前。その……どう見てもアンデッド…………だよな…………?」
「………………」
両者の間を気まずい沈黙が流れる。エルバアルはスッと右手を前に出して呪文を唱えた。
「ヒール」
「!!」
ジュワァァァァ……!
あらゆる攻撃を通さないはずの闇の衣が剥がれ落ち、天界四騎士最強を誇る死の騎士が苦痛に身悶える。
「ヒール! ヒール! ヒール! エクスヒール! メガヒール! ギガヒール!!」
ジュワッ! ジュワッ! ジュワァァァ!!!
「……ッ! ……ッ! ……ッ!!」
容赦のない回復魔法に闇の衣はすっかり剥がれ落ちてしまい、おびただしい数の頭蓋骨で構成されていた禍々しい身体も、ただのほっそりした長身の人骨のようになってしまった。
(ま、まずい……!)
形成の不利を悟った死の騎士は半歩後退し、背中を見せて一気に駆け出した。しかし
「追えぇ! 逃がすなぁぁ!!」
その時、一体のスケルトン・ウォーリアがエルバアルの指示で飛び出した。
背後から背骨を狙った悪質なタックルが死の騎士を襲う!
ドシャァッ! ガラガラガラ!
死の騎士はまるで机に立てたマッチ棒を人差し指で弾き飛ばしたかのように、足を前に放りだして後頭部から危険な倒れ方をした。
「囲めぇぇ!! ローキックだぁぁぁ!!!」
ドカドカドカッ! ベキベキベキッ! ドカドカドカッ!
スケルトン達は一斉に取り囲んだ。情け容赦のないローキックの嵐が死の騎士を襲う!
「……ッ! ……ッ! ……ッ!!」
死の騎士は後頭部を両手で抱え、膝を丸めて必死に耐え忍ぼうとした。
だが、それはじり貧と言うものである。斧が槍が、そして大量のローキックが死の騎士を襲う!
ガンガンガンッ! ゴスゴスゴスッ! ゴスゴスゴスゴスゴスッ!!
(イタイイタイイタイイタイ!! ヤメテヤメテヤメテヤメテ!!!!)
頭蓋骨にヒビが入り、破片となった骨が飛び散る。
それでもエルバアルは一切手を緩めなかった。
「やれ、潰せ! ほら、道具使え道具!」
スッ っと、エルバアルはその辺で拾ってきたレンガを次々に手渡した。
スケルトン達がそれを思いっきり振り下ろし、さらに情け容赦のない打撃が死の騎士を襲う!
ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!!!!!
更にガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!!
……どれほどの時間をそうしていただろう。
四柱の中でも獣の騎士に次ぐ体力と再生力を誇る死の騎士は、気が狂うほどの打撃の末に塩の砂となって死んだ。
「っしゃぁぁ! 次いくぞおらぁぁぁ!!」
魔王と勇者は最後まで分かり合えなかったが、まぁそれはどうでもいいので深くは考えないことにした。
そして、骨の軍団が怒涛の如く走り出したのである……
勇者と魔王の因縁はこれにてオシマイ!
もう二度と化けて出てこないので安心してください。
ちなみにですが、マルスが混入しなかった場合の死の騎士はメッチャ強いです。




