ハルマゲドン 4
タッタッタッタ……
一方。グールの軍勢を引き連れて北門へと向かうシンシア。
しかし彼女の胸中には誰にも言えない、ある秘められた悩みが渦巻いていた……
(どうしよう…… カッコつけて任されちゃったけど、私……戦えない……)
吸血鬼は朝が弱い。毎日昼過ぎに起きてきては、メイドに髪をとかしてもらってまた二度寝する日々。
夜の日課である屋台や酒場での食べ歩きが祟ったせいで、幼児体型の手足はプニプニのちんちくりんになってしまっている。
(大丈夫。うん、なんとかなる……よね……)
「あヴぉぁー」
「………………」
脳の腐ってしまったグール達を横目に見やると、なんとも言い知れない不安が込み上げてくる。
シンシアはパンッ! パンッ! と最近ふくよかになりつつある頬っぺたを叩いて気合いを入れ直し、コウモリのような羽をはためかせながらパタパタと戦地へ向かうのだった……
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「喉……喉が……」
現場につくとそこは地獄絵図だった。
ブクブクに膨れ上がった兵士達の死体を、反対に干からびてミイラと化した兵士達が貪り食っている。
『小麦一ますは一デナリ。大麦三ますも一デナリ。オリブ油とぶどう酒とを、ソコナウナ』
チーン
樹木にあいた空洞の貌。不気味な顔をした商人が秤を傾けると、駆けつけた兵士達も次々に倒れてもがき苦しんだ。
「あ! ……が……ぁ……」
「た、たす……け……」
膨れ上がった兵士は自分の肉に埋もれて息も出来なくなり、干からびた兵士が鎧を支える事すら出来なくなって横たわる。
「こらー! なんてことするんですかー!」
シンシア達が駆けつけたのは丁度その時だった。グール達を指揮し、まだ息のある兵士達を安全な場所へと遠ざける。
「こんな……許されませんよ、これは……!」
惨状を目の当たりにしてシンシアは憤慨した。
ワナワナと拳を震わせ、自らの怨敵に対して口上を突きつける。
「食べるって言うことはですね……救われてないといけないんです。甘くて、美味しくて、ふわふわで……
そして、幸せって言うのはいつだって『太る』って言うことと等価交換じゃなくちゃいけないんです! それを、それをこんな……!!
何もしてないのにお腹がすく? 何も食べてないのに太っちゃう?
絶対に許されない……あなたは今、全世界の恋する乙女を敵にまわしましたよ!」
ビシィッ!
「おしおきです。グールさん達! やっちゃってください!!」
シンシアは人差し指を突きつけて命令を下した。
だが、しかし……
「あ……ヴぉ……ぁぁぁ……」
ヒタ ヒタ ヒタ
グール達は命令を無視してシンシアの方に集まってきた。
小さな肩に手がかけられ、生暖かい腐った息が顔にかけられる。
ここに一つの疑問が浮かび上がる。
元々飢えている者は飢餓に対して平気となるだろうか?
いや、そんな事はない。更に飢えるだけだ。
「え、ちょ、なに? なんですか……?」
そしてグール達は一斉に襲い掛かった。
衣服が剥ぎ取られ、体中をベロベロと嘗め回し、その美味しそうにぷっくり育った肢体を本能のまま貪りつくす。
「やっ! ちょっ! 助けて! 御主人! 御主人さまぁっっっっっ!!!」
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……人々は懸命に戦った。
いや、元々の実力差を考えれば大健闘と言っても差し支えなかっただろう。
だが、いかな熟練の戦士と言えど、パンで出来た棍棒で鉄製の城門を打ち破る事が出来るだろうか?
鋼鉄よりも強い強靭な毛皮に、あらゆる打撃を無効化する分厚い皮下脂肪。
どれほどの剣や槍を命がけで叩きこもうとも、それらの行為になんら意味はない。
敵の肉体は、それらの武器よりも遥かに強かったのだから……
「GURUAAAAAA!!!」
「ぐぁぁぁぁぁ!!」
肩口にギリギリと牙がめり込み、タロスは血しぶきをあげながら苦悶の表情を浮かべた。
これまで数々の攻撃をものともしなかった強靭な肉体が、その恐るべき爪と牙によってバターのように切り裂かれる。
(……やべぇ、こいつ……マジで強ぇ……)
朦朧とする意識の中、タロスは自分達の頭領の姿を思い浮かべた。
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「………………」
「………………」
一方その頃。エルバアルはスケルトンの軍勢を率い、南の区画にて死の騎士と対峙していた。
その身に纏う闇の衣はあらゆる物理攻撃を無効化し、あらゆる属性魔法を吸収する。
見ただけで即死、音を聞いたら即死、瘴気に触れたら即死。
四柱の中でも最強の戦闘特性を誇る、天界四騎士の筆頭である…………




