ハルマゲドン 3
ドンドンッ! ガン! ドンドンッ! ガン!
人々は諦めてはいなかった。
足踏み。そして剣と盾を打ち合わす音。
それは、この世に軍隊が生まれるより遥か以前から存在する、最も古い鼓舞の1つ……
街の東の方角では、イナゴの群れが人々に襲い掛かっていた。
毒針を突き刺し、動けなくなった人間をその強靭なアゴで喰いちぎる。
「誰かっ! 誰か助けて! お母さんが! お母さんが!」
助けを求める声に応える者はいない。
人々を救うために剣を抜いたはずの騎士達は、些細なことでいがみ合っていた。
「ヤロウ! ぶっころしてやらぁ!」
「てめぇが先に仕掛けてきたんだろうがぁ!!」
肩がぶつかっただの。顔が前から気に入らなかっただの。
傍から見れば異常としか思えないほど些細な理由で殺し合いを始める騎士達。
最初の理由など誰も覚えてはいない、お互いにお互いが「先に向こうが手を出してきた」と思い込んで反撃の応酬に明け暮れている。
ギュイィィィィン……
つるぎの騎士の剣から赤い光が漏れる。その波動を受けた者は無性に腹が立ち、訳もわからないまま誰かを傷つけずにはいられなかった。
それは自分の思想を押し付ける洗脳とは本質的に異なる、ただ理性を剥ぎ取ってやるだけと言うとても古い魔術。
単純で人の本質に根差した魔術は強烈に人々を狂わせた。
痛みも恐怖も忘れ、血まみれになりながらお互いを斬りつけ合う憤怒の世界。
フッ
と、一陣の風が通り過ぎた。
それは地を這うように走り抜ける流星のような影。
「ッ!」
ギィンッ!! ギャリギャリギャリッ!!
すれ違いざま、火花を散らして交わる剣戟。
「………………」
「…………(コォォォォォ)」
フルフェイスガードの兜の奥から、鬼火のような眼光が交わる。
壱号はそのまま4本の足で力強く走り抜けると、大剣の形に合体させていた武器を剣と盾に変形させて構えた。
「壱号……さん?」
「戦うのか!? あの化け物と!?」
スッ
流麗な動きで壱号が剣と盾を天に掲げる。そして二拍の足踏みと共に、激しくそれを打ち鳴らした。
ドンドンッ! ガン! ドンドンッ! ガン!
足踏み。そして剣と盾を打ち鳴らす音。
それは遺伝子に刻まれた記憶。
戦場に出た経験のあるものも、ないものも。
太古の昔に互いを励まし合い、人が野蛮なる存在から群れへと変わった記憶を呼び覚ました。
「お、俺は……俺達は一体なにを……」
「うおぉぉぉぉ!! やるぞ! 我々も騎士の職務を果たすんだだ!」
騎士達はイナゴの怪物に再度立ち向かい、瓦礫の下敷きになった人々の救助にまわった。
逃げ惑うばかりだった市民たちですら、鍋やレンガを片手に老人や子供たちの誘導にまわっている。
ブゥゥゥゥン……
つるぎの騎士が剣に手をかざすと、あらゆる盾を貫かんとする真っ白なエンチャントが施される。
決着は一瞬だろう。
互いに醸し出す必殺の気配に、中央の空間がねじまがったかのように圧縮された。
「………………」
「………………」
剣を握る手に力が入る。
そして、どちらからともなくその一歩を踏み出した……




