幕間~世界が崩れる日の前に~
物凄く更新空けてしまいました。大変申し訳ないです。
話が主人公側に戻るので、時系列が53話「王国」の後、54話でカーミラがやられる前まで戻ります。
(エルバアル視点)
カーディスの街の壁の外にある、少し寂し気な墓地の一角。
かつて聖剣だった石の塊が墓標代わりに突き立てられ、夕日を浴びて影を伸ばしている。
俺、タロス、シンシアの3人は即席で作ったマルスの墓の前で佇んでいた。
「ま、ちょっと簡素だけどこんなもんだろ」
「いや、あんなヤツには十分過ぎるくらいだ……済まないな、二人とも」
「マルスさん……本当に死んじゃったんですね……」
正直、良い思い出なんて何もないんだが……それでも何もしないのもそれはそれで気持ちが悪くて……
そんな訳で一応墓くらいは作ってやろうって事になったんだ。しばらくバタバタしていたせいで後回しになってはしまったが。
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王国軍の将軍達との和平会談を済ませた後、俺達は偵察隊を組織してシャルロッテの探索に向かわせていた。
気が急くのは確かだが、かと言って俺達が走り回ったところでタカが知れている。こういう時はドーンと構えて報告を待たなければならない。
それに……ここでやらないといけない事もあったからな。と、言うのも王国の兵士達のことだ。
一応王国軍と名目上の和平を結びはしたが、そんなものはタダの方便に過ぎない
俺達はこの隙にシャルロッテに奇襲をかけるつもりだし、向こうだっていつまでも俺を見逃すつもりはないだろう。
王国の連中も俺達とは別にシャルロッテの行方を追ってくれているはずだが、彼らの目的はあくまで行方不明の要人の捜索だ。
つまり「お前のところの子爵を殺しに行くから居場所を教えてくれ」とは聞けないので、末端の兵士達と仲良くなってうまいこと情報を横流ししてもらわなくちゃならない。
詳しい話は割愛するが、交流は概ねうまくいったと思う。
特に向こうの兵士から希望者を募って合成人間の誕生を実演してみせたのは大きかったな。
まぁ、探索の方はかなりの人海戦術であたってるのでそれほど時間も置かずに何らかの手がかりを掴めるだろう。
それより問題は……
「なぁ、昨日も言ったが次の戦いはかなり厳しいものになるかもしれない。そして、おそらく最後の戦いになるだろう。もしシャルロッテとサラが組んでいたとしたら……」
バシィン!
強い衝撃と共に背中が叩かれる。
いって! 力強すぎだろこいつ。
「大丈夫だって! 確かにあの赤髪のねぇちゃんはメチャクチャ強かったけどよぉ。なんかこう……最後までやらせてくれりゃあ、なにか掴めんじゃねぇかって気もしてたんだ。
だからもう今度は俺達の事は任せちまって……アニキはその、敵の魔法使いとしっかり決着をつけてやってくれや!」
白い歯をニッと見せて豪快に笑うタロス。俺はそれに頷き返すと、左のシンシアに振り返って声をかけようとした。
「なぁ、シンシア。俺は……」
「大丈夫ですよ。ホントは少し恐いですけど……でも、私は最後までご主人様と一緒です!」
シンシアは眉間にシワを寄せて鬼のような形相でこちらを睨んでいた。
ぎょっとして後ろを振り返ると、タロスが少し内股になって遠い目をしながら髪をかきあげている。
つまりさっきのセリフはシンシアのものではない。こいつが裏声でシンシアの口調を声真似したものだ。
「なんなんですかタロスさん、気持ち悪いですね。頭がおかしくなったんですか?」
「最初の方、ネコ被ってた頃のシンシアの真似」
「…………ッ!」
他愛のない冗談。だがそれはシンシアの逆鱗に触れたらしい。
それはつまりネコを被ってた自覚があったと言うことで……
いや、でも口に出すのはやめとこう。こないだ一緒に服買いに行った時も「ご主人様は時々空気が読めないですね!」って怒られたばっかだし……
ヒュンヒュンッ! ヒュパッ! ヒュオオオオオ!!
譲らない二人の視線が交差する。あ、これめんどくさいやつだ。
「ちょぁぁぁあ!」
「ほぁああああ!」
両手と片足を挙げて鶴のようなポーズで威嚇するシンシアを、タロスが亀のように体を丸めて待ち構える。
いや、あの、君達。最終決戦の前なんですけど……
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「ハッ! 図体ばかりデカくて何の役にも立ちませんが、肩車の見晴らしだけは褒めてあげましょう」
「へー、へー、左様でごぜぇますか」
街の中の通りを歩く帰り道。
タロスは適当に空気を読んで負けてあげた結果、最近発育の良くなりだした太ももに顔を挟まれて肩車の刑に処されている。
キャッキャキャッキャとタロスの乱れ長髪をかきむしるシンシアを横目に歩いていると、軒先で仲良さそうに話をしている壱号とイーリスの姿が目に入った。
「イーリスさーん! 壱号さーん! いいですねー。デートですかー!?」
ブンブンと手を振りながら笑顔で声をかけるシンシア。それに気づくと壱号は慌てて居住まいを正して敬礼を向けてきた。
「いーなー! 後で恋バナ聞かせてくださいねー!」
イーリスが妖艶な笑みを浮かべて豊満な谷間を腕に押し付けると、壱号は顔を真っ赤にして崩れ落ちてしまった。
ったくあのバカ、まーた手玉にとられやがって……ここは1つビシッと言ってやらねばなるまい。と、言うよりこいつには他に話がある。
「おいイーリス! 毎晩毎晩シンシアを夜遊びに連れまわしやがって! うちの可愛いシンシアに悪い虫でもついたらどうしてくれる!」
そう。元スケルトンメイジのイーリスは俺から報酬として現金を受け取り、その金で夜な夜なシンシアと酒場を飲み歩いているのだ。
吸血鬼の習性でどうしても夜型になりがちとか言うので渋々許可したが……それにしても遊ばす場所を考えろよ。
うちの子がどんだけ可愛いと思ってるんだ……寄ってくるだろう! 変な男どもが!!
「そうだそうだ! 見ろ、この太ももを! お前が美味いもんばっか食わすから……可哀想に、こんなにムチムチになっちまいやがって……」
「……へっ!? ア、アハ。アハハハハハハ! おかしなことを言いますねタロスさん。とうとう頭の中まで獣並みになっちゃったんですか? そ、そんなことないですもん。ねー? ご主人様?」
タロスも続いて苦情を申し立てるが、言ってる内容がなんかおかしい。シンシアの反応もなんかおかしい。
「ん? あぁ、そうだな。ぷにぷにしてて可愛らしいと思うぞ?」
「…………………………………………え?…………………………………………」
振り返ってフォローしてやるとシンシアは凄い顔をして固まっていた。
あれ? 俺なんかまた間違えただろうか?
「……………………」
「……………………」
「……………………ゴハぁっ!!?」
「ぎゃぁぁぁぁ!?」
頭の上からモロに吐血を浴びてタロスが絶叫する。
シンシアは口から血を吐きながら白目を向いて痙攣していた。
「シ、シンシアァ!! しっかりしろ! 傷は浅いぞ!」
「わ、私もう明日から何も食べない……血しか飲まない……」
シンシアがうわ言のように呟く。
やめなさい、そんなの……
偏るだろうが! 栄養バランスが!!
「いや……うん、大丈夫だよ。こいつの明日は明日になったらまた明日に繰り越しになるから……」
頭から血を滴らせたまま、まるで叱られた子熊のようにションボリとしてタロスはそう呟いた……




