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黙示録「天より来たる敵」

 怒号と喧騒がのし歩き、暴力が悲鳴を叩きのめす。

 シャルロッテが開いた狂宴は日常の仮面を剥ぎ取ってはしまった。

 だがその狂暴な本性が晒されようと、人々の力関係は何もひっくり返ってはいない。


 王都には約15万ほどの人口が密集しているが、そのうち3万5000ほどは異民族の奴隷達だ。

 いや、奴隷と呼ぶには語弊があるかもしれない。古代の職業奴隷と比べて彼らの生活環境は劣悪であり、日常的な暴力に脅かされてきた。


「やめて! 私達がなにをしたっていうんですか!」


「やかましい! いいから来い!!」


 怒鳴られ、殴られ、奴隷達が連行されていく。両手を縛られて数珠繋ぎに並び、彼らは見せしめのように歩かされた。


「死んじまえ、この、異教徒めが!」


「魔王の手下め!」


 彼らは王都に連れてこられた際に、元々の信仰を捨てさせられた。

 そして名を変え、言葉を変え、王国での生活に代を重ねるうちに……彼らもまた、元の神を忘れた。

 王国の生活様式に合わせて暮らし、教会に入る事自体は許されなかったものの、同じ様式の祈りを捧げた。


 だが、それでも……彼らは今、ありもしない魔王の襲撃の実行犯として生贄に捧げられようとしている。

 例えどんなに同じ言葉で祈りを捧げようとも、肌の色の違う彼らが同じ神を信じる仲間として受け入れられる事はなかったのだ。



---------------



 王都にある一際高い壁に囲まれた一角。

 普段は立ち入りを厳重に禁止されている大扉を抜け、奴隷達が指示に従って進まされていく。



「勇者の神殿、ねぇ…………なにかおかしいとは思っていたのですよ」


 1段1段の段差が1メートルほどで組まれた、全高30メートルほどのピラミッド状の祭壇。

 その頂上に設置された祭祀台に浮かぶ柔らかな石。魂を凝縮した朱き光を放つ賢者の石を前にしてシャルロッテはそう呟いた。


「これって教会の礼拝堂とかと明らかに建築様式が違うですよね? と、言うより完全に東の異教徒のアレです。つまりあなた達は異教の禁術を使い、生贄の魂を……」


「シャルロッテ!」


 突き刺さるような声にシャルロッテはピタリと口を閉じた。視線を向けると隣に立つ王が苛立ちをあらわにしながらにこちらを睨んでいる。


「そのような些事などどうでもよい。それよりも、だ。まこと嘘偽りなく我らを救ってくれるのであろうな?」


 余裕のない、そわそわした表情。それを優雅に受け流してシャルロッテは微笑んだ。


「えぇ。勿論ですとも陛下。私にお任せくだされば万事問題ないのです。それで、神官殿。話を戻しますが……」


「……はい……」


 再びシャルロッテの視線を受けて神官の男がおずおずと答える。彼は血を滲ませた脇腹に一瞬視線を向けたが、すぐに何も見なかったかのように顔を戻した。


「このエリアに魂魄を捕らえる特殊な結界を張り、そのうえで生贄の首を刎ねる。すると死後に抜けた魂がこの石に集められる……大雑把に説明するとそういう事ですよね?」


 神官は一瞬言い淀んだ。一般的に、勇者の力とは神に捧げられた人々の祈りを具現化させたものだとして公布している。

 だが、今更この場で何をどう取り繕えばいいのか…… 神官は観念して知る限りの事を正直に話した。


「えぇ、その通りです。ですがいくら賢者の石に魂魄を集めようとも、それを扱える勇者の適合者がまだ見つかっておりません。このままでは……」


「あぁ、いいんですいいんです。最近ちょっと面白い術を教えてもらいましてですね……霊媒体質の勇者だけが魂の力の使い道じゃぁないのですよ……くふ、くふふふふ……」



---------------------------



 その後、シャルロッテは神官の男達と2~3言葉を交わして術式の改変に取り掛かった。


 既に設置の完了した魔法陣に改ざんを加えると言う作業は難しい高等技術である。

 王も魔術に関する一通りの教育を受けてはいたが、流石にシャルロッテ達の作業の内容を理解するほどの域に達してはいない。


 特にやる事もなく、所在なさげにウロウロと歩き回る王の姿。その様子を神殿の階下で跪かされている奴隷達がジッと見つめている。


「…………なんだ。何が言いたい。誰に向かってそのような視線を向けておるのだ!」


 王は言い知れぬ居心地の悪さを感じて奴隷達の態度を問いただしたが、彼らは何も答えない。

 暗い穴のような眼窩に絶望を浮かべ、死を悟った家畜のようにただただ目の前の現実に跪かされている。

 奴隷達は何も訴えなかった。その沈黙が何よりも王を責め立てた。

 そして王は顔を背けた。つまるところ彼は自分の判断にそういう責任の取り方しか出来なかったのである。


「……ふん、まぁいい。ならばそのまま死んでいくがよい。案ずるな。そなた達の犠牲は我らの糧となる」


 王は早くこの時間が過ぎ去ってくれないかと思った。そしてしばらくのち……



バリバリバリバリバリ!!



「うぉぁ!?」


 その時。後ろから沸き起こった眩い光に驚いて王は祭壇を振り返った。

 石から黒い雷が溢れ出し、空間に穴が空いたような白い渦が周囲のものを吸い込んでいく。


「こ、これは……!」


「くふふふ、お待たせしました。さぁ、始めましょうか……」





 そして儀式が始まった。

 奴隷達が悲鳴をあげ、次々と首を刎ねられていく。


「な、なんと言う光景だ……」


 実のところ、王は内心ではそれほど信心深い方ではなかったし、魂と言う概念もあまり気にしてはいなかった。

 だが、呪詛を吐きながら祭壇に吸い込まれていく可視化された魂のもやを見て……彼は初めてその存在に触れたのだ。


 例えこの世界の住民にまだ認識しえないものでもあっても、それは確かにこの世界を構成する一部としてそこに在った。


 利用可能な未知なるエネルギー。一体これを使って何が出来るようになるのか……

 恐れと共に湧き出る、少年のような憧憬。王は震えと共に強欲な笑みを浮かべた。



 やがて、集積されたモヤのような魂が白い雲を形成し、その中から姿を現す者が……




「きたれ」


 最初のものは無数の目を持つ口の裂けた狼のような顔をしていた。身の丈は3メートルを超え、両足が頭の無い2頭の白い馬と同化している。


「きたれ」


 次に赤い馬に乗った騎士が現れた。金属の鎧を身に纏い、手には人々を狂わす力を持った大きなつるぎを持っていた。


「きたれ」


 そして今度は黒く腐れ、爛れた馬に乗った者が出てきた。彼は干からびた樹木のような顔に商人のような帽子を載せ、手には秤を持っていた。


「きたれ」


 最後に青白い骨の馬に乗ったおびただしい数の人骨の集合体が出てきた。その様相はまさに死そのものであった。




「おぉ!? おぉぉぉぉ!!?」


 

 そして大地が割れた。

 地の底から無数の強力ないなごが現れた。

 彼らは老若男女、身分にも職業にも問わず次々と人々に襲いかかり、その毒針によって捕らえた人々を次々へ祭壇へと運び込んだ。  


 武装した兵士達は抵抗しようとしたが、剣の騎士がつるぎを掲げた途端に彼らは人間同士で殺し合った。彼の者には地上の一切の平和を奪い去る権能が与えられていた。 

 

 獣の騎士はねじくれた巨大な木の枝の弓に矢をつがえ、狩人のように次々と人々を射殺しては死体の山を築いていった。


 飢餓の騎士が秤を掲げると人々は干からびたミイラのようになり、大地はひび割れて草木も死んでいった。


 最後に死の騎士から瘴気が放たれ、それに触れた者達は何の抵抗も出来ずに死んでいった。



「ちょ、ちょっと待てシャルロッテ!! 貴様一体なにをしておるのだ!!!」


 慌てふためく王の視線に、あってはならないはずの声が届く。


「いやぁぁぁぁ!! お父様。お助けください! お父様!!」


 それは王城に居るはずの王女だった。巨大ないなごによって宙づりにされた王女が神殿に運ばれてくる。


「リアァァァァ!! やめろぉぉぉ!!!」


 王女はそのまま剣の騎士の元へ運ばれていき……


ジョキジョキジョキ! ジョキジョキジョキジョキジョキ!!


 つるぎの魔力によって正気を失った兵士達によって端から刻まれていった。


「ギャァァァァァァァァァ!!!!!」


ジョキジョキジョキ! ジョキジョキジョキジョキジョキ!!


 ドレスごと足の先から無数の切れ目が入り、正気を失う事も許されずに体が刻まれていく。



「いやぁぁぁぁぁ!! 放して! 放してぇぇ!!」


 次に、王妃が飢餓の騎士の元へと連れてこられた。

 

 掲げられた秤が傾くと、王妃は左の半身が膨れ上がり、右の半分から一切の水分が抜け出てしまった。


「ぎゃぁぁぁ!! あがっ! あごごごご!!!」



「やめろぉ! やめてくれぇぇ!」


 そして王もまたいなごに連れ去られた。獣の騎士が大きな口を開けて地面で待っている。


「さようなら陛下。どうかご心配なく。あなた達の犠牲は私の糧となります」


「だ、騙したなシャルロッテ! 騙したなぁぁぁぁ!!!」


 バリバリゴリゴリ! ガリッ! ムシャムシャ


 そして王は骨ごとかみ砕かれて死んだ。獣の騎士の裂けた口から血がしたたり落ちる。



「くふ、くふふふふ……感じる、感じるですよ。力が集まってくる!」


 半刻も経たないうちに王都の人々は狩りつくされた。いなごの怪物が次々と人々を運び込み、天界四騎士が次々と屍の山を築いていく。


「おぉぉぉぉぉ!!」


ブチリ!


 そしてシャルロッテは賢者の石を噛みちぎった。悍ましくも柔らかな感触が喉元を通り、ついで全身がバラバラになりそうな衝撃が体中を駆け巡る。


「おぉ! おぉぉぉぉぉぉ!!!!!」





 光り輝く魂の雲の中。彼女は別の存在に生まれ変わった。


 三対六枚の翼を持ち、2つで頭を、2つで体を隠し、残り2つの翼ではばたいている。

 白き衣をまとい、右手には勝利のつるぎをもち、その体は燃え盛る炎のようであった。



「くふ。くふふふふふ!! 勝てる。勝てるですよ! これならばあのマグダレーネにも……!」


 

 空から真っ赤な火炎弾のような星々が降り注ぎ、大地が轟音と共に揺れ動いた。

 山が崩れ、海から津波が押し寄せ、川は泥の中に沈み、避けた大地から真っ赤な溶岩があふれ出す。

 あらゆる草木は焼け、死の瘴気をはらんだ灰が太陽を覆い隠した。

 

 いなごの群れは王都を飛び出し、世界中の人々に襲い掛かった。

 唯一、それに抗ったのはカーディスに布陣した魔王軍の残党達。


 これより、世界の命運をかけた最後の戦いが始まる。



 天使軍 保有魂量30万。

 保有戦力・シャルロッテ・天界四騎士・イナゴの怪物30万


 魔王軍 保有魂量約2000。

 保有戦力・エルバアル・壱号・シンシア・タロス・スケルトン40・グール120・合成人間2000・王国軍残党1万2000


 そして、もう1人…………

次話、主人公側に視点が戻る関係で時系列が前後します。

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