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「働き者」のスケルトン

(三人称視点)



「テオ! あんたはまた勝てもしないくせに博打なんかいってきて!」


「うっせぇなババア! 俺の金をどう使おうが俺の勝手だろうが!」


 ここは荒野近くにあるノープル村。地理的に商人や流れ者が立ち寄る事が多く、人口300人ほどの少し大きな村だ。


 テオの父親は気の良い職人だったが、流行り病にかかって死んでしまった。

 母親は親戚の農家の手伝いに出て日銭を稼いできたが、いつもいつも同じ仕事がある訳ではなく。工房を売って得た貯金が徐々に目減りしていく事に不安を募らせていた。


 テオはもうお嫁をもらってもいいような年頃だと言うのに、いまだに定職につかずに日中は家でゴロゴロしていた。

 根気がない訳ではない、好きな事にはのめりこむのだ。だが、いかんせん気にくわない事を我慢するのと人に頭を下げるのが大嫌いな性分が災いした。


「俺の金? 俺の金だってぇ!? あんたが夜中にゴソゴソと何やってんのか、アタシが知らないとでも思ってんのかい? ったく、このバチアタリが!」


「……ぐっ……」


 テオは母親の罵倒に言い返せなかった。まっとうな仕事ではない事を自分でもわかっているからだ。

 テオの小遣いの元。それは、夜中に墓を掘り返して埋葬品を頂く墓泥棒だ。

 しかし、こんな村の墓場に大した値打ちのものなど埋葬されはしない。大抵が使い古したキセルだの帽子だのの類で、換金出来るようなものではなかった。


 到底、食費だのなんだのを賄えるようなまとまった金は入らない。テオは時たま銅貨数枚を握っては、いつも博打でスッて文無しで帰ってくるのであった。


------------------------------------------


 

 ある日の事。テオは珍しく博打に勝って酒場に来ていた。

 カウンターに座ってビールを頼む。だが、酒なんてそんなに飲めないもんだからエラくチビチビやるもんで、すっかり気が抜けて泡も立たなくなっていた。


 テーブル席ではそれこそ色んな職業の連中が和気あいあいと喋っている。

 中には同伴相手を探す商売女らしき者達もいたが、テオの方にはまるで寄り付かなかった。


『なんか……思ってたより楽しくないな……』


 ずっとこの日を夢見て博打に通い続けてきたと言うのに、テオの心は晴れなかった。


『こんなんじゃダメだ。もっとこう、両手に女を侍らして、なんでも好きな物頼んでいいよって言えるくらいじゃないと……何も変わらない』



 そんな事を思いながらチビチビやっていると、酒場に怪しげな風貌の男が入ってきた。

 仮面を被り、全身にローブを巻き付けた妙な男。そいつは二人で飲んでいた中年男性の席に遠慮なく座ると、他の客にも聞こえるように大仰な口調で語りだした。


「やぁやぁ、お集まりのみなさん。ごきげんよう。実は今日、と~っても良い話を持ってきたんだ。荒野の奥にある、デカイ像のある遺跡は知ってるかな?」


 客の男達は眉をしかめた。遺跡の事なんてこの辺の連中なら誰でも知っている。昔から何度も盗賊や墓荒らしに入られて、金目のものなど残っていない事も含めてだ。

 男達は手を「シッシッ」と払ってあっちへ行けという意を示したが、仮面の男は気にせずに語り続けた。


「まぁまぁ、そう慌てなさんなって。実は偶然、あそこで隠し通路を見つけたのさ……流石に1人で最後までは調査出来なかったけど、入口の方でこんなものを見つけたんだよ」


 そう言って男はゴトリ、と、テーブルの上に剣を置いた。

 柄と鞘は実に見事なもので、柄にはかなり大きめの宝石があしらわれている。だが、肝心の刀身の部分が石で出来ているのだ。

 たしかにこれは実戦用の剣ではない。なにかの儀式に使うものだと言われても納得のいく珍品だ。


「どうだい? まだ奥の方にはお宝が眠っていると思わないかい?」


 客の反応はイマイチだったが。男は気にせずにひょうひょうと話を続けたあと、しばらくして帰っていった。






「………………どう思う? さっきの話」


「あぁ? 確かに奇妙な剣だったが……もし本当にお宝が眠ってたら俺達にタダで教える訳がねーだろう。逆に、本当だったらどんな罠があるかわかんねーんだ。俺達なんかの出る幕じゃねぇよ」


「……それもそうだな」


「ま、酒の肴くらいにはなったがよぅ…………どっちにしろ、仕事を休む訳にゃあいかねーから出かけらんねぇわな。アッハッハ」


「そりゃそうだ! ガッハッハ!」


 結局、酒場にいた誰もまともに取り合おうとはしなかった。ただ1人を除いては…………


「隠し…………通路かぁ……」


 結局、テオは好奇心を抑えきれずに遺跡に侵入してしまった。

 

-----------------------------



カツーン カツーン


「な、なんかすっげぇとこだなここ……」


 階段を滑り落ちないように壁に手をつきながら下りていく。

 長い年月に浸食された石のザラザラとした感触に、なんだか背中の毛が逆立ちそうになる。


カツーン カツーン



「うぉっ!?」


 突然、脇に人が現れたのかと思ってテオがビックリする。

 よくよく見ると、それは修道女の姿を模した像だった。

 ただ、服装がトゥニカにベールを被せた教会の様式ではなく、一枚の大きなローブを羽織った独特の様式をしていたが……


 さらに進むと、人ひとりがようやく通れる程度の石の門を潜り抜け、大きな石柱の並ぶ広間に出た。

 中には巨大な石棺がいくつも並んでいる。

 石で出来た蓋は重たく、とてもテオには動かせそうになかったが、蓋がズレていて中が覗き込めるものもあった。


「こいつは……すげぇな」


 中に横たわっているミイラがテオの気をひき、彼が覗き込んだその隙。棺の影からヌルリと動き出す者があった。


ガバッ!!


「!!!!!?? あっっっっっっ!! がっっっ!! はっ!!!!!」


 テオが何が起きたのかわからなかった。

 彼は後ろから細いロープを首に巻き付けられ、思い切り首を絞められていたのだ。


「へっ……へっへっへ! わりぃな、お前に恨みはないんだが……言う通りにしないとエルバアル様に怒られちまうんだよ……」


「…………!!! ……っ!!!!!」


 あまりの苦しさにパニックになったテオは、なんとかロープを掴もうとするものの、完全に首に食い込んでしまって指にひっかける事が出来ない。

 血流の止まった顔が真っ赤にむくみ、死が一歩一歩近づいてくる。

 必死にロープを掴もうとしてガリガリと首をかきむしった。そして……


ドスッ!!


 死の直前、血流と思考の止まった脳の命令を放棄し、体が本能で動いた。

 思い切り後ろに打ち込んだ肘打ちが襲撃者のみぞおちを捉える。


「うげぇっ!?」


 襲撃者は横隔膜を麻痺させて膝をついた。

 本来、後方から羽交い絞めにした際は肘打ちを警戒して、足を絡めて相手の背中に密着するのが常識である。

 有利な状況に慢心した襲撃者の、詰めの甘さが招いた事態だ。


「ハァ、ハァ……チクショウ、なんだってんだ! やってやる……殺ってやるぞ!」


 テオは短剣を引き抜いて腰を落とし、襲撃者に敵意を向ける。だが、本当の脅威は彼ではなかった。



「やれやれ。マルスには任せきれんか……」


 燃え上がりかけたテオの闘志は、吹き消されたロウソクの炎のようにフッとかき消えた。

 蓋の外れた石棺の中からゆっくりと起き上がってきたソレは……全身が真っ黒なガイコツのような姿をしていた。

 恐ろしい冷気のような何かを纏い、ゆっくりと近づいてくる。テオは、それが自身の恐怖心が作り出した悪寒である事に気付く事はなかった。


(なんだあれ!!? やばい…………やばいやばいやばいやばい!!)


 短剣を落とし、尻餅をついて後ずさる。しかし、後ろを確認せずに行ったそれは、自身を部屋の角に追い込んでしまっただけだった。


「あ……ぁ……ぁ……」


 冷たく、細い、骸骨の指が首に食い込む。今度はもう本能も反撃する気力を失っていた。

 骸骨の、からっぽの肋骨の中に浮かぶ赤い石がキィィィィンと言う音を立てて光る。



「なにか……言い残す事はあるかね?」


 黒い骸骨が口を開く。それは、恐ろしくも優しい声だった。

 テオは言った。


「ご、ごめん…………なさい……」


 それは謝罪の言葉。だが、目の前の化け物に向けた言葉ではなかった。


「ごめん、母ちゃん……俺……生まれ変わったら今度こそちゃんと働くから……」


 テオの脳裏に、いつかの母親の言葉が浮かぶ。



『テオ。あんたもう働きに出ろとは言わないよ。でもね、墓荒らしなんてバカな真似だけはよしておくれ。母ちゃん、いつかあんたにバチがあたるんじゃないかって……」



「…………そうか……。お前の後悔、確かに聞き届けた」


グシャッ!


 黒い骸骨がテオの喉を潰す。だが、テオは死ねなかった。いや、確かに死んだのだが、成仏できなかった。

 魔法によって捉えられた魂が骨に固定され、禁断の死霊術によって肉を剥がされていく。


 骨と骨を魔法で接着し、黒い骸骨の魔力によって動く操り人形の死霊兵……スケルトンが誕生した。



「……生まれ変わった気分はどうだ?」


 黒い骸骨の問いに、スケルトンは言葉を返す事が出来ない。ただ、骨と歯だけの顎をカタカタと鳴らすだけ。

 しかしその声無き返答を受けて、黒い骸骨は頷いた。


「働いてもらうぞ……存分にな」 

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