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野望 後編

(あ、ありえないのです! だって、私の耳には何も…… それに、あのポコがそんな簡単にやられるはずが……!)


 シャルロッテは困惑した。何がなんだかわからない。


「いやぁ、流石はヘルマン将軍ですな」


「老いてなお益々盛んとはまさに将軍のこと。懐かしいものですなぁ、私が将軍と初めてお会いしたのは……」


(何をとち狂ってやがるですかこのボンクラどもは! そんな俗物にポコをどうにか出来る訳がないのです!)


 口々に将軍を称える賛辞を述べだす大臣たち。雑多な声が混乱中のシャルロッテの頭の中に、不快なノイズのように入り込んでくる。


「お、恐れながら陛下。それは何かの間違いでは……」


 震える声で問いただすシャルロッテ。それを見た王はパンパンと手を叩いて、手押し車を持ってこさせる。陶器で出来た大皿の上には、多数の羊皮紙が載せられていた。


「ヘルマン将軍を初めとして名だたる騎士達から書状が届いておるのだ。これらの全てが買収されて利用されておるとも思えんし……やはり真実なのであろう。だがまぁ、一応確認中なのでまだ内密にな」


(じょ、上層部がまるごと言いくるめられたのですか!? クッソ、あのジジイ。そこまでモウロクしていたとは!)


ジト……


「うっ……」


 シャルロッテは大臣達の視線に含まれる猜疑心を読み取った。将軍達が言いくるめられてしまった以上、恐らく禁呪の事も報告に上がっているに違いない。

 正面切って問いただす勇気こそないものの、この目はそういう目だ。


(だって……あの時はこんな事態になるなんて思ってなかったのです。多少の疑念はどうあれ、私に頼るしかなくなると……)


 この時、初めてシャルロッテは自身の雑な手順を後悔した。


 不要に感じたモノをすぐに捨てる性格が災いした。人を人と思わず、ゴミのように扱う性分が災いした。


 そして何より……二人は天敵同士なのだ。

 ことシャルロッテから嫌われると言う才能において、ポコはまるで運命に導かれるように……彼女の最も嫌がる答えを導き出す事が出来る。


「将軍達は騙されているのです! 私は魔王の恐ろしさをよく知っているです。これは罠です。降伏したフリをして必ず王国に大きな災いを……」


「まぁまぁ。実際に矢傷を負われたシャルロッテ殿からすれば恨み、恐れがつのるのも無理からぬことでしょう」


(…………はぁ!? 今、そんな話してないです。このバカ!)


「しかし、憎い相手も許す心を持たねば、いつまでも争いは終わりませぬ。聞くところによるとエルバアルなる者、賊にしてはなかなか出来た男のようで……」


「左様。アリエスの報告にもありますが……スケルトンなる役人は文句も言わずにまる一日立ち続け、ウソをつかずに公平に税を徴収するので民衆からの評判も上々とのこと」


「左様左様。商会からの報告にもある通り、鳥娘を使った便箋の輸送やクモの糸を使った特産品は、新たな王国の財源に……」


(しまった! 鳥娘による密書の空輸……そこで出し抜かれたのか! いや、でもあいつ今、ガイコツの化け物なのですよ!? こいつら頭大丈夫ですか!!?)


 シャルロッテは大臣達の正気を疑った。だが、同時に理解してしまっている。

 ここにいる者達は元々奴隷や異民族、貧乏人達を同じ人間とは思っていない。直接会うこともない。故に慣れているのだ。自分と違う存在を使い……富を生み出すと言う思考に。



「い、いけません陛下。そんな有象無象の情報など何の役にも立ちません。ヤツは恐ろしい男です。私が一番それをよく知っているのです!」


「敵に回せば凶悪。味方には寛大……大した男ではないか」


「そんな話ではありません! ヤツは……ヤツは私の……!」



「卿の……なんなのだ?」



「う……! ぐぅ……! うっ……!」


(ダメだ……ここで魔王がポコだとバラしても、そもそもこいつらはポコを見下してやがるです。あいつの恐ろしさを本当に知っているのは私だけ……!)



 シャルロッテは血が出るくらいに拳を握りしめて歯噛みした。


 あと、もう少し……もう少しで何もかもが手に入るのに……



「な、なんでもありません……失礼いたしましたのです…………申し訳ありません、少し疲れているみたいなので私はこれで……」


 シャルロッテは額に青筋を浮かべ、精いっぱいの作り笑いをヒクヒクと痙攣させながら立ち上がった。



------------------------



「やってくれるじゃないですかぁ。ポコぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 謁見の間を後にし、シャルロッテからまるで瘴気を帯びているかのような呪詛が漏れる。


(どうする? もう面倒くさいからいっそ王都を武力で制圧して…… いや、間に合わないですね。ポコは今頃死に物狂いで私を探しているはず。王都に帰還したのがバレた以上、すぐに次の手を打ってくる……クソッ。こんなことになるならサラを生かしておけば良かったのです)


「シャ、シャルロッテ様。いかがいたしま……へばっ!?」


バキィッ!


 考え事の邪魔とでも言わんばかりに、シャルロッテの裏拳がめり込む。従者は前歯を折られて顔を手で覆った。


(まったく、厄介な…… 大体、最初からあの男は気に喰わなかったのです。空気を読まずにいつもいつも私の計画に水をさすような発言ばかり。だから殺してやったのに…… クソッ! クソッ! クソッ!)


 地団駄を踏む、と言う言葉がある。シャルロッテは何度も地面を蹴りつけてから歩き出した。


「行きますよ…… このまま黙って引き下がる私ではないのです」


 従者に棺をかつがせ、シャルロッテが城を後にする。

 その様子を、公爵が心配そうに柱の陰から見守っていた……

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