決戦 4
「死ねぇぇぇぇぇ!!!」
ザシュッッ!!
勇者の一閃がサラの背中を切り裂き、鮮血が迸った。
「あぁぁぁぁぁっ!!」
「おっと!」
悲鳴をあげながらも怯まずに剣閃を薙いだのは流石と言うべきか……
バックステップでマルスが剣撃を躱して距離をとる。
「マルス…… どうしてっ!」
「どうして、だと? ハッ! そんなの決まってるじゃないか!」
膝を震わせながら非難の目を浴びせるサラに、マルスは前髪をかき上げて笑った。
「復讐だよ…… どいつもこいつも、僕をバカにしやがって……! 許さないぞ、僕を犯罪者扱いした王国のやつらも。勇者の力を奪った神殿のやつらも…… 皆殺しだぁ。男達は全員殺し、女どもは手足をもいで奴隷にしてやる!」
予定通り…… 予定通りではある。でも、こいつ本当に頭大丈夫なんだろうか……
今回マルスに注いだ魂の力はおよそ1200人分。全盛期の勇者の力には程遠いだろう。だが、それでもこいつに力を渡すのは危険な賭けだった。
そもそも冷静に考えればこいつが今ここで俺達に協力する道理はない。サラと共闘して俺達を倒せば大手を振って国へ帰れるのだ。
しかし、それはしないだろうと言う、ある種の確信めいたものもあったんだ。
ヤツの思考は成人よりも赤ん坊のそれに近い。常に自分が中心で、「自分から何かを取り上げた者」を異常なまでに憎む。
最初からヤツに勇者の力を渡せばもっと話は楽に進んだのかもしれない。
だが、出来なかった…… ヤツに力を渡した状態で長時間放置すれば必ず調子に乗る。
かと言って一度渡した力を取り上げれば、必ずその矛先を俺達に向けただろう。
今しかなかったんだ……俺にとって最悪の天敵が牙を剥く、今この瞬間しか!
「くっ……! このっ!」
「ハッハッハ! その程度かい?」
必死に斬撃を繰り出すサラを、マルスが聖剣でいなしながらバックステップと同時に魔法の矢を放つ!
「あぁ……っ! くっ!」
「そらそらそらそらぁ!」
ガキンガキンガキィン! ズド! バリバリ! ズドォ!
炎、氷、雷…… 色とりどりの魔法の矢が飛び交う。
この、片手で放つ事の出来る無詠唱魔法こそがマルスの真骨頂。最強の戦士であるサラの「天敵」たる由縁!
マルスではシャルロッテに勝てない。撃ち合いでは勿論、懐に飛び込むにも耐久力と機動力が足りない。
それを可能とするのは最強の耐久力と機動力を誇るサラだけだ。
しかしサラもまたマルスには勝てないのだ。
斬撃で勝負を決めなければならないサラに対し、適当に防御しながらバックステップ射撃を繰り出すだけでじわじわと体力を削る事が出来る。
「くっ……! なんてことなの!」
サラも当然マルスとの相性の悪さは知ってるはずだ。無理にマルスを追うことを諦め、退路を見出そうとするが……
「悪いな、ねえちゃん。俺もホントはこんな決着は納得いかねぇんだが……」
「…………」
タロスと壱号がそれを許さない。イーリスも照準を合わせたままだ。
「なんということだ!」
「サラ様をお守りしろ!」
敵の騎士達が援護にまわろうとする。だがそれも……
ズド! バリバリ! ズドォ!
「雑魚どもはひっこんでいろ…… すぐにお前達も皆殺しにしてやる!」
「……ヒッ!」
地面に撃ち込まれた魔法の矢によって近づく事も出来ない。
炎の矢を撃ち込まれた箇所からは炎柱が噴き出し、氷の矢はそのまま大きな壁となる。
「崇めろ……ひれ伏せ……僕は……勇者なんだぁ!」
強い……! 本当に腹立つくらい強い!
恐らく戦闘力だけで言えば4人の中でも最強を誇るだろう。頭の方がアレだが。
俺は戦慄を覚えながら、隣に立つイーリスに耳打ちした。
「イーリス。マルスがサラを倒したら時間を稼いでくれるか…… やはりヤツの力は危険だ。人格的にも全く信用出来ん」
「任せときな! まぁマルスは調子にのりやすいからねぇ…… ちょいと色気出しておだててやりゃぁイチコロさね」
そう言ってイーリスは胸の谷間を寄せて見せつけるようにウインクしてきた。
彼女は自分の体に随分と自信を持っているようだった。確かにマルスの好きそうな体をしている。
思えば俺が有無を言わさずスケルトンにした事に対してひどく憤慨していたな……
大釜から復活した時、彼女はいきなり俺の顔をひっぱたいてこう言った。
『このバカっ! 話も聞かずにいきなりスケルトンにしちまいやがって! アタシはちゃんと金さえ払ってくれれば山賊だろうが化け物だろうが協力してたんだよ!』
その結果、金貨55枚と言う山賊の戦闘員にしては法外な金額をふんだくられたのだが……まぁそれはともかくとして今は俺達に協力してくれている。
そういう意味では俺だって今では街の運営とかで色々あったし、少しは人を信用するって事を学んだんだよ。
でも、マルスは…… あいつだけは本当に何をしでかすかわからん。
最初はシンシアも決戦に参加すると言っていたが、今回だけは絶対に出てくるなときつく言い聞かせてアリエスに預けておいた。
……マルスが何をするかわからなかったからだ。
勇者の力をはく奪するには、俺が祭壇に戻る必要がある。
そして…… その後はもう二度とこいつが俺達に協力することはないだろう。
それでもいい。シャルロッテは俺が壱号の背に乗って移動し、魔法を無効化しながら近接戦に持ち込めばなんとかなるはずだ。
サラとマルス。この二人こそが王国にとっての真の希望。魔王に仇成す天敵なのだから……!
「さようなら。マルス…… 本当に。色々やらかしてくれるヤツだったよ……」
ザシュァァッッ!!
血しぶきが舞い、力を失った身体が膝をつく。
この日……ついに勇者パーティーの一角が崩れ落ちた。




