決戦 3
壱号は魔女の森に行った時に改造され、今はケンタウロス形態のリビングアーマーになってます。
「………………生意気……」
「………………」
彼らは多くを語らなかった。名前すら名乗ろうとはしない。
きっと、どんな言葉も邪魔にしかならなかっただろう。両者が只者ではない事は「見」ればわかるのだから……
「…………」
グッ グッ グッ……
サラが両手で神剣の柄を握りしめ、姿勢を低く構える。
張り詰めた弓の弦のように力が込められるのに対し、タロスは丸太を上段に構えたまま、ひどく脱力していた。
「……っ!」
矢のように。そして獣のようにサラは飛び出した。
上段よりもさらに上。まるでたなびかせるポニーテールに重なるように、大剣を地面と平行に構える。
そこに読み合いの類がしゃしゃり出る余地は無く、「大きく振りかぶって全力で叩き斬る」と言う絶対なる暴力に対する自信があるのみ。
「……ぬぅぅっ!」
タロスもまた丸太を振り下ろす。サラのそれとは違い、ほんの少し斜めに入る軌道。
神剣が丸太をチーズのように引き裂き、メリメリと刃を喰いこませる。
以前のタロスであればここで成す術もなく真っ二つにされていただろう。
だが、今のやつは違う……!
帰ってきた壱号との模擬戦に敗れ、タロスには二つの選択肢が突き付けられていた。
1つは魔女の大釜の力を借りて半獣の狂戦士となる道。1つはアリエス達に教えを請うて人としての力を極める道。
『とりあえず自分のままやれるとこまではやってみてぇんだ』
タロスは後者を選んだ。自分が打ち負かした相手に頭を下げ、体内に魔力を巡らす術を勤勉に学んだ。
気闘法……
脳内で術式を組んで魔力を体外に放出する魔法とは異なり、呼吸によって血液で術式を組むことで自身の身体能力を強化する騎士の闘技。
その生命の波紋は自身の認めた武器にも伝わり、テスタロッサはただの丸太とは思えない耐久力で神剣に喰いこんだ!
「おぉぉ!」
「なっ!!?」
神剣が僅かにその軌道をずらされ、地面にめり込んだ。
目を見開くサラの驚愕を察して図る術もない。サラの自信を彼女以上に理解する事など不可能なのだから。
「いまだぁっっ!」
「撃てぇぇ!!」
イーリスは右手で俺の体内にある賢者の石を握り、左手をサラの方に向け、ずっと呪文を構築していた。
彼女はシンシア達が攻めこんできた時に捕まえたスケルトンメイジだ。今は大釜の力を借りて復活し、デスウィザードへと進化している。
その際に習得した闇魔法…… それは人間の魂を直接弾にしてぶっぱなすと言う、禁忌中の禁忌。
あまりの燃費の悪さに普段は使用を厳重に禁止されている禁呪だが…… 今ここで全てを解き放つ!
「禁呪 グレアゴラス!」
暗い穴のような目と口を明けた怨霊達が、次々とサラに襲い掛かる。
避けようとする彼女に、タロスがしがみついて離れない!
「くっ!」
ドンッ!!!!!!
凄い音がした……
寸勁。
体重移動の要領で足、腰、肩、肘と反動をつけ、ゼロ距離からの強烈な打撃にタロスが吹き飛ばされる。
「ぐおぁ!」
そのままサラは宙がえりで跳びあがって禁呪を避けた。
だが、そこへ迫りくるもう一つの影が!
シャキィィィィィン!!
馬のような下半身で助走をつけ、跳びあがってからの大鎌の一撃。
すれ違いざまに放った壱号の斬撃が、初めてサラに血を流させた。
「タロス! 大丈夫か!」
「ぐっ……はっ……! あぁ、なんともねぇ!」
急いで駆け寄って回復呪文をかける。
振り返ると、サラが眉間にシワを寄せて鬼のような形相で睨んでいた。
「ゴミ……どもがぁぁぁ……」
噴出される闘気に真っ赤なポニーテールが逆立つ。
来た……サラの本気状態。ヤツは今、俺達を「敵」として視認している。
「おーい。 大丈夫か~い」
そしてヤツは現れた。
この日のために洗濯して畳んでおいた勇者の服を着て。
もし、この時サラが冷静だったなら不審に思われただろう。
「……マルス?」
「助けに来たよ。さぁ、一緒に戦おう!」
赤黒い輝きを放つ聖剣を握りしめ、勇者はサラの傍らに立った。そして……
「死ねぇぇぇぇぇ!!!」
ザシュァァッッ!!
勇者の一閃が、サラの背中を切り裂いた。