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決戦 2

(エルバアル視点)



「大丈夫かぁぁぁ!!!」


 土煙の中で俺は叫んだ。建物がガラガラと崩れ落ちる。

 やはり真っ直ぐ来るか…… あんな大軍なのに包囲どころか陽動すら使うつもりはないらしい。

 かつて一緒に旅をしていた時にサラは言った。

 『小細工なんて弱いヤツのやることでしょ?』と。

 ならば……先頭に立って切り込んでくるのはヤツしかいない!



「タロス!」


「おう!」


「サラは危険だ…… 最後にもう一度確認するぞ、本当にいいんだな!?」


「はっ! 今更なに言ってやがるんだ?」


 タロスはテスタロッサを地面に突き立て、ふんぞり返って鼻をこすった。


「このタロス。戦場で恐れを見せたことなど生涯ただ一度もねぇ。今までも……これからもだ!」


 ここが一番心苦しいところだ…… サラの近接戦闘能力のそれは最早人間に許されている領域ではない。

 本音を言えば、タロスを失う危険を冒してまでサラにぶつけたくはないんだ。

 だが、いくら合成人間が強力とは言ってもサラの前では手も足も出らん……作戦を成功させるためには結局、肝心なところをこいつに頼るしか!



「わかった…… 壱号! イーリス! タロスを援護しろ!」


「……(コクリ)」


「あいよ!」


 壱号が無言で頷き、元スケルトンメイジが威勢の良い返事をする。


 俺は3人を配置につかせると、急いで被害状況を確認しながら走り回った。



-----------------------



「グレッグ! 急いで蟲車を用意しろ。『できそこない』も解き放つ!」


「あいつらを使うんですかい!? し、しかしあれは……」


「やかましい! 損得勘定抜きであの大軍に突撃していけるのはあいつらだけだ…… 決戦なんだよ!」


「ど、どうなっても知りやせんからね!」


 豚人の部隊長に一方的に指示を飛ばす。言いたいことはわかるが、今は議論している暇などない!


「くるぞぉぉぉぉぉ!!」


 崩壊した防壁に敵の大軍が迫る。

 先頭に立つ女戦士が掲げる巨大な大剣。遠目に見ても見間違えるはずもないだろう……

 神剣グラム。古代の遺跡から発掘されたとか言う構成物質不明のオーパーツ。

 もう、すぐそこにヤツが来ている!



「急げぇぇぇ!!」


「押せぇぇぇ!」


「住民達を南東方面へ避難させろぉ! 豚人部隊! 怪我をしている連中に手を貸してやれ!」


 防壁の崩壊した市街の北西方面へと次々と車両が運ばれていく。

 豚人や牛人達は車両を所定の場所に運び終えると、一目散に逃げ出した。

 荷台に積まれているのは密閉された木製の檻。その中からガサガサと不快な音をたてている。


「撤退しろ! ハーピー部隊も下がれ、撃ち落とされるぞ! 8通りから18通りまで封鎖! 隊列急げ!」


 牛人、豚人、蜥蜴人などの混成部隊が道を塞ぎ、狗人や豹人が次々と建物に入っていく。




 ついに大軍が防壁の残骸を踏み越えて、街の中へと雪崩こんできた。


 一瞬、なぜか俺の世界だけ音が止まった気がする。理由はわからない。

 キィィンと言う微かな耳鳴りの中、合図の指令を送った。


ゴォーン…… ゴォーン…… ゴォーン…… 


 不吉な鐘が鳴る。


 民家に偽装された暗い地下牢のなか、グール達がかんぬきを外し、地獄の蓋が開かれる。


 中から出てきたのは異形の中でも更に異形。

 下半身が人間で上半身がカマキリの化け物。ぶつぶつと何かを呟く血走った目のネズミ男。

 胴体にずらりと複乳の並んだ猫耳の女。体中から胞子嚢を生やしたキノコの怪人。

 そして……もはや元が何なのか判別すらつかない、ぶどう房状に人面を生やした怪物達。


 ヤツらは外に出ると味方であるはずのグールを破壊し、雄たけびを上げた。


「GYAAAAAAAAAAA!!」


「な、なんだこいつらぁ!?」


 ある者は足を引きずり、あるものは地面に頭を擦り付けながら。

 狂気じみた動きで怪物達は兵士に襲い掛かった。

 俺達を守るためではない……ただたんに敵の方が近い場所にいたからだ。  


「いまだ! タロス!」


 直径3cmを超える鋼鉄製の大弓。それに張られた強靭なクモの糸を、タロスがギリギリと引き絞る。


「おぉぉぉぉぉ!」


 鋼鉄製の矢が放たれ、蟲車に積まれた木箱を次々と破壊する。

 中から出てきたのは中途半端に人間と混ざった大きなハエ、サソリ、ムカデ、ゴキブリ。

 形容するのも悍ましい不快な蟲どもは、血と肉の味を求めて狂ったように兵士達へと襲い掛かった……





 こいつらは合成人間の出来損ないだ。

 脱走者の数が妙に多い事に悩まされていた俺達は、ある一つの原因に辿り着く。


 適合率。


 合成する素材との相性が悪かった者は、最初から人語を解さない化け物として生まれてきてしまった。

 特にサイズや生態が極端に違う虫たちとの合成実験は悲惨な結果に終わった。フェアリーやアラクネのような成功例は例外だ。

 奴らは命令を無視して卵を産み付け、しかも『できそこない』の子供は更なる『できそこない』になると言う深刻な問題を抱えている。

 

 この問題はいずれ対処しなければならない。

 だが、今は、今だけは…… どんな大軍相手でも狂ったように襲い掛かる、勇猛な尖兵となりうるはずだ!



「うわぁぁぁぁ!!」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」



 作戦はハマった。『できそこない』達に襲われ、敵の足並みが乱れる。

 そしてそんな中……


「ふんっ!」


 サラがまるで溶けたチーズを切るように、サクリと地面に剣を差し込んでそのまま土を跳ね上げる。

 矢よりも高速で飛来する土石のつぶてが蟲どもを撃ち落とし、飛び掛かる怪人も一合も許されずに両断された。



 俺やシャルロッテならば、念入りに全ての防壁を破壊してからじっくり包囲するだろう。

 だがサラやマルスは違う…… 自分が突っ込んで敵の大将を討ち取った方が手っ取り早いと考える。


 案の定、サラは1人で突出してきた。他の兵士達と戦闘力も進軍速度も違い過ぎるのだ。

 「足並みを揃える」などと言う発想は初めから存在する訳もない。

 英雄や勇者にとって「仲間」とは協力する関係ではなく、自らの活躍を褒めたたえる「観衆」なのだ。


 そして……


「おらぁ!!」


 矢羽を必要としない、大質量の鋼鉄の矢がサラに襲い掛かる。


「!」


ズガガァゥ!


 サラはそれを片手で受け止めたが、流石に無視は出来ない。

 咄嗟に踏ん張ったつま先が地面をえぐりあげ、大地に擦り付けられたブーツが摩擦で炎をあげる。



「よぉ! ねぇちゃん。ちょっと俺と遊んでいかねぇか? うちの切り札がまだ準備中なんでな」



「………………生意気……」



 合成人間達では相手にもならない。

 強者の気をひくことが出来るのは強者のみ……


 タロスが、サラの前に立ち塞がった。

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