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最強の戦力

(聖書より抜粋)


 わたしはまた、一匹の獣が海から上って来るのを見た。それには角が十本、頭が七つあり、それらの角には十の冠があって、頭には神を汚す名がついていた。

 わたしの見たこの獣はひょうに似ており、その足はくまの足のようで、その口は獅子の口のようであった。龍(※サタン)は自分の力と位と大いなる権威とを、この獣に与えた。

 その頭の一つが、死ぬほどの傷を受けたが、その致命的な傷もなおってしまった。そこで、全地の人々は驚きおそれて、その獣に従い、また、龍がその権威を獣に与えたので、人々は龍を拝み、さらに、その獣を拝んで言った。


「だれが、この獣に匹敵し得ようか。だれが、これと戦うことができようか」


 この獣には、また、大言を吐き汚しごとを語る口が与えられ、四十二か月のあいだ活動する権威が与えられた。

 そこで、彼は口を開いて神を汚し、神の御名と、その幕屋、すなわち、天に住む者たちとを汚した。

 そして彼は、聖徒に戦いをいどんでこれに勝つことを許され、さらに、すべての部族、民族、国語、国民を支配する権威を与えられた。

 地に住む者で、ほふられた小羊(※イエス・キリスト)のいのちの書に、その名を世の初めからしるされていない者はみな、この獣を拝むであろう。




 耳のある者は、聞くがよい。




--------------------------


(3人称視点)


 空を、暗い雲が覆いつくしていた。

 母親たちは戸を固く閉ざし、表を往く人々はみな何かに怯えている。



ガシャガシャ ガシャガシャ   ヒヒィィィン……


「どうした。なにごとだ」


 本来ならなにごともあるはずのない、王都の中心地と言ってもいい表通り。

 そんな場所を走行中にも関わらず、急に馬車をとめた事に対して公爵は理由を尋ねた。


「申し訳ありません。閣下。あちらに人だかりが……」


 車室の窓を開けて頭を覗かせてみると、確かに前方に人だかりが見える。 


「悔い改めよ!」


 こんな往来のど真ん中で何事だと言うのか。

 即席で作ったのであろう、粗末な壇上の上に……白く長いヒゲを蓄えたみすぼらしい老人が、大袈裟に大声で何かを喚いていた。


「悔い改めよ! 王国は今、未曽有の危機に瀕している! これは神が与えたもう試練…… そしてこの地に降り注ぐ天罰である!

 何に対する罰か? 我々の罪ではない…… あそこに見える王城に鎮座する王家。そして、この国を牛耳る貴族達の罪だ!」


「……あいつか……」


 老人の姿を確認し、公爵は顔をしかめた。対面に座っている護衛の騎士が声をかける。


「まったく、衛兵は何をやっておるのか…… 斬り捨てましょうか?」


「いや、いい…… ああいう手合いに対して騒ぎを大きくすると、連中の思うツボだ。どうせもう目と鼻の先なんだ、ここからは歩いていこう」  


「は……は!」


 近くまで来ているとは言え、公爵自ら歩いていくと言う提案をしてきたことに対して護衛の騎士は驚いた。

 公爵の話し方は貴族のそれよりも平民のそれに近い。普段から領内を歩き回り、賄賂を要求する姑息な役人がいないかを調べてまわる末に身に付いたものだった。


「悔い改めよ…… 悔い改めよ!」


「まったく、あの手の不審者はすぐに湧くな」


「まるで蛆のようですな」


 公爵にとってこういう手合いを見るのは初めてではない。

 彼らは飢饉や干ばつが起きるとこうして王家の転覆を唆すような事をほのめかし、目立つだけ目立ったら適当なところでサッサと雲隠れしてしまうのだ。


 どうせいつもの与太話だろう。公爵はわき道にそれてさっさと通り過ぎようとした。だが、すぐに足を止めてしまった。


 ……老人の話の中に、聞き逃せない話があったのだ。


「王国は罪を犯した。我々が魔族と称し。犯し、殺し、皮を剥いで木に吊るしたのは人間である! たとえ肌の色が違い、異教の神を信仰しようとも人間。魔王もまた、優れた魔術師ではあったが人間であった!

 そして今、我々は真の悪魔によってその住処を追われようとしている。 あなたたちも既に耳にしていることだろう。辺境を襲う……異形の怪物達の噂を!」


 群衆達にどよめきが広がり……護衛の騎士は顔をしかめた。

 王都において怪物達の情報はいまだ機密情報扱いである。


「あいつ、どこでそれを……! やはり斬り捨てましょう!」


「よせ!」


 剣の柄に手をかけて駆けだそうとした騎士を、公爵が引き留める。


「……取るに足らん連中だ。相手が何者であろうと我々がなんとかする。そうだろう?」


 片眉をあげて堂々と笑う公爵を見て、騎士は毒気を抜かれた。

 なんのかんのとそれらしいことを言ってはいるが、要は余計な死人を出したくないだけだと理解してしまったのだ。


 通りを抜け、門番達と挨拶を交わし、城に入って階段を上がる際。騎士はふと、なんとなしに尋ねてみた。あるいはそれは独り言だったのかもしれない。


「それにしても…… 我々がなんとか出来なかったらどうなるのでしょうか……」

 

「そんなの決まってるだろう?」


 公爵は階段を上がりながら、振り返らずに笑った。


「滅ぼされるのさ……我々が異教徒達にしてきたようにな」



------------------------------



 カーディスに派遣した救援隊の壊滅と、シャルロッテ・バーンシュタインの戦死。

 その報は様々な憶測を巻き込みながらも、確かな衝撃とともに王都を駆け巡った。


 シャルロッテ本人の生死については懐疑的な見方を示す者が多かったものの、彼女と連絡をとれなくなってしまった事は疑いようのない事実。

 生き残った騎士達の不可解な証言。何者かに操られているかのように錯綜する情報。


 混乱を極める議会は必然的に王国に残された最強戦力へとその期待の目を向けることとなる。


 サラ・スカーレット。


 マルスの虚言により王女暗殺計画の濡れ衣を着せられ、表舞台から干されていた元勇者パーティーの女戦士である。



「…………で? 今更どの面下げて泣きついてきたのか、わかるように説明してもらえるかしら?」


 軟禁とは言っても、待遇が最上級のものであることには変わりはない。

 サラに与えられた個室の壁にはずらりと絵画がかけられ、高級な調度品が所狭しとならんでいる。

 ただ高級とは言ってもその趣向に統一性はなく、目に痛い金銀の光沢は見る者を決して和ませはしなかったが……


 ソファーに深く体を投げ出し、足を組んでふんぞり返る平民出の小娘……その姿に宰相は内心で歯ぎしりを我慢しながら答えた。


「で、あるから。我々としては貴公に関する余計な悪評が立たぬよう、最善の配慮を尽くした故の結果であって……」


「だ~か~ら~! そんな話どうでもいいんだって! 金よ金! あんた達のせいで私はあらぬ疑いをかけられたんだから、迷惑料ってものがあるでしょう?」


「…………ぐぅっ!」


 サラの要求は単純であった。

 だが、単純な要求とたやすい要求とはイコールではない。


 サラの要求してきた金額は国家予算に匹敵する。一体個人でそんな大金を何に使うのか……いや、使い道などある訳がない。ただ貯め込むだけだ。

 しかもこの手の手合いは手形による発行を許さず、現金を要求してくる。そんな額の現金をかき集めれば間違いなく経済は崩壊、物流はストップしてしまう。

 だが、サラにとってそんな事は「難しい話」であり、人々の生活などどうでもいいのだ。

 絞り取れるだけ絞り取り、貯め込むだけ貯め込む。そして他のどの女より、顔の良い男を連れ歩いて見せびらかす。

 それだけが正義…… 女戦士サラ・スカーレットを動かす行動理念。



「私からも頼めないだろうか」


 サラの対応に苦慮する宰相のもとへ、不意の援軍が訪れる。


「……公爵……」


「遅れて申し訳ありません、宰相殿」


「あら、公爵閣下! ようこそおいでくださいました」


 扉を開けて入室してきた公爵を見つけると、サラは上機嫌に駆け寄った。先ほどまでの仏頂面は既に影も形もない。


「こんなことになってしまって本当にすまない。だが、もう我々は君に頼るしか……」


「いいんですよいいんですよ。アドルフおじさまは、な~んにも心配せずに私に任せてくれればいいんですから。ふふふ」


(フッフッフ。シャルロッテと親戚ってのはちょっと嫌だったけど…… 一番上と2番目のお兄さんは美形なのよね~♪

 あいつがそう簡単に死ぬとは思えないけど、もし本当にこのままいなくなったとしたら……  キープしておかない手はないわ!)


 胸元を押し付けるように腕に組みついてくるサラに、公爵は咳ばらいをはさんでから口を開いた。


「すまない。恩に着る。それと…… 娘には気を付けてくれ。あの子は間違いなく生きている。そしてもう……何を考えているのかわからん」


「そうですね。私もそう思います」


 拒絶する意思を見せないように、自然な動きでサラを引き剥がしてから公爵は呟いた。


「いや、何を考えているのかわからないのは私も同じか…… 不思議なものだよ。誰よりも娘の死を信用していない私が、誰よりも娘の無事を願っている……」


 苦虫をかみつぶすような表情で独白する公爵に、サラはきょとんとした顔で声をかけた。


「それは…… 親子なら誰でもそうなんじゃないですか? 私にはその気持ちはわかりませんけども」


 それは本当になんの他意もなく、何の思いやりも込められていないただの率直な意見ではあったのだが……

 偶然、ほんの僅かに公爵の心を慰めた。



 一か月半後。各地より参集した騎士達と共に王国は討伐隊を編成。

 女戦士サラ・スカーレットを総大将とし、1万5千の兵力がカーディス奪還に向けて進軍を開始した……

お読みくださりありがとうございます。

三国志とかに比べると数がしょぼく感じるかもしれませんが、諸々の事情により王国軍の最大戦力的な感じです。

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