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禁忌

(エルバアル視点)


 壱号が持ち帰った魔女の大釜の欠片。

 火もくべられていないのに何がが煮えたぎる小壺。


 この人体の頭部程度の大きさしかない物体……いや、モノは今後の俺達の戦術をガラリと塗り替えてしまうだろう。

 だが、その使用について俺と博士は激しく対立していた。



「だから何度も説明しただろうが! 博士だってシャルロッテの力の前に死にかけたじゃないか。俺達には力が必要なんだよ!」


「だから何度も言ってるだろう!? そういう問題じゃないんだって!」


 話すと長くなるので経緯は省くが、博士はマグダレーネの力を恐れている。

 彼女の力を借りられるようになった経緯を話すと、博士はとても強い抗議の意を示した。


「いいかい? 君はマグダレーネのことを困った時に力を貸してくれる、都合の良い交際相手か何かと思っているのかもしれない。

 でも、彼女はそんな生易しい相手じゃない…… あれは天災なんだ。 とりかえしのつかないことになるぞ!」


「らしくない話だな、フランケンシュタイン博士! アンタだって散々倫理の網を破って人体の禁忌に手を出してきた仲じゃないか!」


「その僕でさえ容認できないと言うことの危険性が理解出来ないのか!? なぜ彼女が魔法の森から一歩も出ないのか。その理由を誰よりも知っているはずの君がどうして……!」


 ……話は平行線に終わった。取り付くシマもないとはこのことだ。

 壱号の命令違反は容認出来ないが、ヤツの持ち帰った力は我々の想像を絶する。

 この力を利用しないと言う選択肢はない……!


「……言ってもわからないみたいだね。悪いが君に協力できるのはここまでだ。もう話は王国と山賊の戦いと言う枠組みに収まらない。

 僕は北の帝国との国境沿いにある、誰もいないツンドラ地帯に隠れさせてもらうよ。 ……本当に世界が滅んでしまうかもしれないからね」



 こうして、博士はヴォイドを連れて街を出ていくことになってしまった。

 出立の日。門の近くで全員が見送る。





「すみません、ポコ。あなたには数えきれない恩があるのにこんなことになってしまって……」


「あぁ、いや。こっちこそすまん。それにこれが今生の別れって訳でもないしな。また縁があったらよろしく頼む」


 ヴォイドは申し訳なさそうに頭を下げてきた。博士も気まずげに、だが、笑みを浮かべながら手を差しだしてくる。


「こんな形になってしまって残念だけど…… それでもやっぱり感謝の気持ちの方が大きいんだ。ありがとう。一緒に研究出来た日々は楽しかったよ」


「俺もだよ……ありがとう。世話になった」


 二人は握手を交わした。俺だって別に博士のことが嫌いになったとかそういう話ではないんだ。


 壱号が申し訳なさそうにおずおずと前に出て、ペコペコと頭を下げる。

 俺はその頭をひっぱたいて苦笑した。



「ったく! 人気者なのはいいがカッコつけるのも大概にしろよ? 良い顔をしようとすれば必ずそれを利用しようとするものが現れる。まぁ、それをしなさ過ぎて排除された俺が言っても何の説得力もないが……

 とにかくもう2度と同じことはするな。動く時は必ず事前に報告しろ。それが反省ってもんだ」


「あ、あのあの! 悪いのは私なんです。壱号さんは私のために……」


「わかってるよ……マルスみたいに私利私欲でやってたらボコボコにしてるところだ。まぁ良くはないけど……権力に逆らってでも目の前の人を笑顔にしたいって心意気自体は嫌いじゃあない」


 壱号に説教していると、同じく申し訳なさそうにシンシアが前に出てきた。その頭を撫でてからヒョイっと担ぎ上げる。


「それにしてもシンシアはいけない子になったなぁ。前はあんなにしおらしかったのに…… ほーら、悪い子はおしおきだぁ。コチョコチョコチョ!」


「キャハハハ! や、やめ! ご、ごめんなさーーーい!」


 まぁ……つまるところはやっぱり俺の責任だな。こんな子供を戦力に組み込んでる俺が悪い。


 そしてそんな俺達をしりめに、タロスとヴォイドも真剣な表情で何やら話し込んでいた。



「タロスさん」


「あ、あぁ……」


「どうかポコをお願いしますね。彼は敵に対しては有能ですが、味方に対して非情になりきれません。 ……嫌われることを恐れているのです、まるで呪いのように」


「………………」


「壱号くんとポコ。2人は表裏のようでその根幹は一緒です。1人は好かれるために、1人は嫌われないために。ですが『誰かのために、よかれと思ってやったことだから許せ』と言うのは軍隊において一番やってはいけないこと。

 もし危うくなりそうになったら、あなたが止めてください。組織が崩壊し、災厄がふりまかれることのないように……」


「し、しかし俺にそんな力は……」


「大丈夫。あなたなら出来ますよ」


 何やら暗い顔を見せるタロスに、ヴォイドが優しく微笑みかける。


「ヴォイドよぉ……おめぇまで本当に行っちまうのか」


「申し訳ありませんね。うちの大将も1人じゃ何にも出来ないものでして……では、ごきげんよう」






 こうして博士たちは旅立っていった。

 俺達は防壁の修理を終えるとカーディスの地下に祭壇を作り、遺跡から魔王の胎盤を運び込んだ。


 魔女の大釜の欠片から、中身を注がれた肉団子は……骨で出来た歪な大釜へと姿を変え、その名状しがたき中身を煮えたぎらせた。


 使い方は簡単だ。中に人間と素材となる生き物を入れ、釜に手を触れて賢者の石の力を流し込む。


 合成されて生まれ出たのは人間とも動物ともつかない怪物達。


 豚や狗の頭をつけた怪人たちが街を歩き、上半身が人間で下半身が馬の男達が野を駆ける。

 鳥と融合した娘は空を飛び、オオグモから上半身を生やした女は見事な糸を紡ぎ出した。


 志願者は思いのほか多かったよ。中でも貧しい者達は未知の力に飛びつき、順番を巡って殺し合いまで起きた。

 

 ……誰もが凡人なんだ。みんな、自分だけの特別な力を欲し……何者でもないままに死んでいたから。


 訓練の段階では順調だったと思う。

 生まれ出た合成人間達の力を使って敵対する領土を襲撃し、俺達はいくつかの戦果をあげた。


 みんな新しい力に酔いしれていた風だった。

 そして……何人かが脱走し、勝手に狩りを行い、繁殖しようとした。


 この繁殖能力こそが博士が警鐘を鳴らした合成人間の最大の脅威だ。

 彼らは一切の魔術的な補助を受けずに、普通の生物のように数を増やす事が出来る。 ……しかも人間を番として。


 流出すれば世界の生態系が根本からひっくり返りかねない。

 俺は脱走者が出るたびにその都度壱号達を派遣し……そして最後は処刑してまわった。


 聖王歴1101年……

 

 人の世は未だ続いていたが、この年は後に「魔皇元年」として記されることになる……

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