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吸血鬼の憂鬱

(シンシア視点)


 あの日、放ってしまった……軽はずみな言い間違いを今でも後悔している……






 その日の事は今でも鮮明に覚えています。


『壱号さんの指示に従ってください!』


 迫りくる破壊の潮流の中。

 私はグールさん達に最後のお願いを飛ばし……そして闇に呑まれました。


 どこか遠くから聞こえてくるような大きな音の中で、ゴボゴボと沈み込んでいくような音がした気がします。

 その光景を私はどこか他人事のように眺めていました。



『シンシア! しっかりしろ! シンシア!』



 あれからどれくらいの時間が経ったのかはわかりません。

 深い水の底から浮かび上がるように、私は意識を取り戻しました。

 それはまるで夢のよう……もしかすると本当に夢で何度も見ていたのかもしれません。


 私はご主人様の腕の中で目を覚ましました。しかもお姫様抱っこで。

 好きな人の腕の中で、お姫様抱っこで目を覚ましたことってありますか?


 少しばかりシチュエーションに酔ってしまったのも、致し方なかったと思います。

 感極まりながら私はご主人様の胸に抱きつき、こう言いました。



「おとうさん……!」



 やってしまいました。これは許されません。ただでさえ子ども扱いがひどくなっていた頃に……



 違うんです。本当に意味は無かったんです。言い間違えただけなんです。


 誓って嘘偽りなく、もう父親と言う存在にそれほど未練はありません。

 恨んでもないと思います…… ただ単に、あんまり覚えていないと言うだけですが。


 でも、でも……こういう時に限って妙に気を回してくるご主人様……


 あわわわ、あわ、あわわわわ…………


「あ、あの! ごめんなさい、言い間違えました!」


「あぁ。いいんだよ。お前が無事でいてくれてなによりだ」


「あの、いえ! 本当に言い間違えただけでして!」


「いいんだ、いいんだ。よしよし、怖かったな……」


 そう言って優しく抱きしめて、髪を撫でてくれるご主人様。

 優しさが…… 身に突き刺さりました……



---------------------------



 それから私は、夜中にグールさん達を指揮して土砂を撤去するお仕事をもらいました。

 と、言ってもグールさん達は損傷が酷くなった子からご主人様が魂を回収していったので、もうあまり数は残っていませんでしたが。


 さらに何日かが経ち。ご主人様が話し合いを頑張ってくれたおかげで、私達は大手を振って歩けるようになりました。

 そして始まる夢のような日々。

 えぇ、楽しかったですよ? 

 お洋服もいっぱい買ってもらえましたし。ただ、ただですね……



 ある日のことです。私はレストランでご主人様とデートしていました。


「どうだ? おいしい?」


「もふもふ! もいひいれふ~♪」


 小麦粉と卵を贅沢に使い、ハチミツまでかけられたふわっふわのパンケーキ。

 口に入れるどころか匂いを嗅がせてもらったことすらないような贅沢品です。

 私はお行儀悪いと知りながらも、ついナイフとフォークを握り座ったままで小躍りしていました。


 そんな時です。向かいの席で若いカップルがイチャついているのが、偶然目に入ってしまったのは……


「はい。あ~ん♪」


「お、おい。やめろよ。みんな見てるだろ……えへ、えへへへへ」


 よせばいいのに。私は口を半開きにしたままでその様子を見つめてしまいました。


『羨ましい……』


 そしてご主人様の顔を見上げ、そのまま視線を下に落とします。

 私がいけなかったんです。恋人としてあるまじき行為でした。

 でも、そういう時に限って気をまわしてくれるご主人様。


「シンシア。俺にも食べさせてもらっていいか?」


「え? でも、ご主人様、その体では食事は……」


 言うや否や。ご主人様はわざとらしく口を開けて、私の握ったフォークの先端をガブっと噛んだフリをしました。


「もぐもぐ♪ うん、おいしいなぁ♪」


 ……呆れてしまいます。私はつい毒気を抜かれて笑ってしまいました。


「もう……! 赤ちゃんのおままごとじゃないんですからぁ」


「ハッハッハ! 俺は楽しいけどな?」


 私は顔が熱くなるのを感じてしまいました。

 この気遣いがたまりません……

 好きです。優しいです。素敵です。


 でも、これ違う……


 圧倒的……圧倒的、親子感……!!



-------------------------



 一体どうすればご主人様に大人のレディとして見てもらえるのか……


 私はスケルトン・メイジさんと酒場で飲みながらガールズ・トークに勤しんでいました。

 私はお金持たせてもらってないので水だけですし、イーリスさんなんて空のグラスで飲んだフリしてるだけですが……

 そこはそれ。ご主人様のご威光があればこそ、追い出されたりはしません。 



「それでですね~! ご主人様ったらホント酷いんですよ? こないだお洋服買ってもらった時なんか、お店に入るなり『あぁ、すまん。娘の服を買いに来たんだが……』って!」


「ケタケタケタ!」


 イーリスさんは笑いながら手で「やぁねぇ」って仕草をしてくれました。

 良いですねこういうの。大人の女性って感じがします。


「で、ちょっとムキになって大胆な服選ぼうとするんですけど。やっぱり胸がないから胸元開けても悲しい事になるじゃないですか? そしたらご主人様が『そんなの似合わないだろう。もっと子供らしいのにしなさい』って……」


 これには流石の私もプンスカプンでした。

 そんなのわかってますよーだ! ムキィィィィィィ!!


「あ~ぁ。どうしたら大人の女性として見てもらえるんでしょうかねぇ」


 ため息をつくと、イーリスさんが肩にポンと手を置きました。

 なんだろうと思って視線を向けると、左手の親指と人差し指で作った輪っかをズボズボと右手の人差し指で突いたり抜いたりしています。


「やーだもう! それが出来たら苦労しませんってぇ!」


 アハハハハ! イーリスさんは女同士になると急に下ネタがキツくなるのが玉に瑕ですね~。


 でもそうなんですよね……イーリスさんもお菓子の家の魔女さんの協力を得られないとずっとこのまんまです。

 そしてそれはご主人様も同じ……



 催淫効果のある吸血鬼の牙……それは胸も色気もない私のとって、唯一にして最大の武器。

 腕力や魔力はたくさんの血を吸いながら少しずつ修行して鍛えていくしかないそうなんですが、グールさん達を支配下に置く魅了の力に関しては生まれつき決まっているそうで。私は特にその力が優れているそうです。

 この牙を突き立てると、みなさんとても甲高い……あられもない声をおあげになられます。その、私もその……つい、いけない気分になってしまいそうな声を。


 吸い付きたい……

 お互い裸になって胸板をこすり合わせ、絶頂を迎えた瞬間にこの牙を突き立てる事が出来たなら……!



「はぁ~……どうしたらいいんですかねぇ」


 大きく息を吐いてガックリと肩を落とす私とイーリスさん。


 その様子を影から見守る、1人のナイスガイがいた事を私はまだ知りませんでした……

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