「嫌われ者」のポコ 後編
初めに、議長を務めるアリエスから会議に集まってくれたことに対する形式的な礼が述べられた。
だがその間もほぼ全員の視線が俺に突き刺さりっぱなしだ。
儀礼的な挨拶や会議の進行に際するルールを聞き流し、早速俺に話が振られる。
「まずは私の方からもこの場に集まって頂いた諸君、及びアリエス議長に対して礼を述べさせて頂く。さて、早速最初の議題についてだが……その前にこちらで用意した資料を配らせて頂きたい」
傍らに控えたヴォイドが、慣れた手つきで書類をテーブルの上に並べていく。
「ハッ! 山賊風情が何を偉そうに……この場でこいつを斬り捨ててしまえばさっさと終わる話ではないか!」
「ハーロッド卿! この場において勝手な真似は許さぬぞ!」
金髪を短く刈り上げた強面の騎士が野次を飛ばし、アリエスがそれを諫める。
俺はそれに対して、まるで動じていない風を装い……と、言うか本当に動じてないのだが、言葉を続けた。
「我々が山賊であると言うことを今更隠し立てするつもりはないよ。この街を支配権を得るべく武力によって侵攻し、そして今なお駐留している。
君たちが望むなら今すぐにでも抗戦に応じよう。だが、その前にお互いに何を要求し、何を出せるのかについて今一度確認しようじゃないか」
歯に衣着せぬ物言いに、会議場に緊張が走る。
ちなみに野次を飛ばした強面のオッサンは俺達の味方だ。いわゆるサクラってやつだな。
彼は今回の話し合いで特に得をする位置の人間なので、事前に引き込むことが出来た。
それとは逆に、本来この場にいなければならない立場の者達が何人か呼ばれていない。勿論アリエスの根回しによるものだ。
「先ほども述べたが我々に撤退の意志は無く、そして君たちがこれ以上ことを構えるつもりがないのであれば……我々も余計な武力衝突を望まない。
そのうえで領内における一切の経済活動の自由をこれまで通りに保証しよう。王都から来た救援隊の諸君についても、治安維持の名目で駐留してもらって構わない」
会議場の面々は唸った。
かみ砕いて言うとこういう話になる。
街は山賊に占領されてしまいました。住民を人質にとられていて手が出せません。
しかし、自分達が睨みを利かせることで住民達が過剰に酷い扱いを受けないように見張っていました。と、言う訳だ。
過去に同じような事例はいくつもある。一概に占領下と言っても、丸裸にして槍を突きつけている状態から服を着て経済活動を行っている状態まで色々あるのだ。
これならば救援隊の騎士たちは職務を放棄したことにはならない。王国に対して体裁を保つ事が出来る。
「あ、あの……」
左手に座った、スキンヘッドの太った男が手を挙げた。
「経済活動の自由を保証すると言われましてもですね。商売には相手と言うものがあります。山賊たちの温床になっていると見られれば通行の制限を受けるのは必至。最悪取引を中止される恐れも……」
「そうですぞ。カーディスの特産は羊毛。それの買い取りを拒否されるような事があれば……」
「そうだそうだ!」
「静粛に! 静粛に!」
ダン! ダン!
ピーチクパーチク口々にさえずりだした商人達を、アリエスが黙らせる。
「王都との取引が難しくなることについては避けられない。その点については本当に申し訳なく思う。
だが、心配する事はない。右手に座っている騎士の皆様が解決してくださるさ……中間業者として、ね」
手を向けると会議場にどよめきがわき起こった。
「なんと!」
「我々がか!?」
「待て待て、そのような事をして我々に何の得があると言うのだ」
「そう、そこだ!」
俺は指を指して割り込んだ。
「君達に何の得があるか……そこが大事だ。まず、商人諸君についてだが…… この街の統治者であるシャルロッテがほとんど顔を見せていない事は言うまでもないな?」
「あ、はい。それは……」
「街の様子を見させてもらったよ。王国中から素行不良の貴族の子息達が送り込まれ、役人気取りで好き勝手している。高額な賄賂を要求するせいで誰も水車を動かせず、町娘は強姦被害を恐れて通りを歩くことも出来ない。そこで、だ……」
呼ばれていないこの場にいなければならない立場の者達とは彼らのことだ。リストは既にヴォイドが挙げてくれている。
俺は腕を組んで商人達の顔を見つめた。
「俺の独断と責任において彼らを全員亡き者にしてやろう。君達やアリエスが手を出せば、後ろにいる貴族達に対して角が立つ。だが、俺ならば……」
「そ、それは……!」
「いや、しかし! そんな都合の悪い者だけを消してしまえば流石に疑いの目が……」
「これだけの大混乱の最中だ。街は今俺の統治下にある。連中は頭も悪いが口も態度も最悪だ。俺の反感を買ったとしても不自然ではあるまい? そもそもが送り込んできた者達も自分達で手を焼いた末の経緯だからな……」
会議場がどよめき、商人たちが顔を見合わせて口々に何か喋っている。だが、口元が笑っているのを俺は見逃さなかった。彼らも思うところがあったのだろう……
俺と言う嫌われ者のビッグネームは、その真偽に関係なくあらゆる悪事の責任を吸い込んでしまう。。
彼らとしてはまたとないチャンスだろう。このどさくさに紛れて片づけておいてしまいたい厄介ごともあるはずだ。
「さらに、君達も見ただろう。あの巨人の姿を、そして私のこの姿を。我々の未知の技術を持って3か月以内にこの街に新たな特産品を設ける事を約束する。
だが、それもこれも騎士諸君の協力による取引の継続がなければ何の意味もない話だ。そこで、次の資料に目を通して欲しい」
ページをめくるように促すと、再び議会場にどよめきが起こる。
本当にこいつら面白いように驚いてくれるな。サクラを仕込んでるせいでもあるが……
「俺達が遺跡に立てこもっていた頃、討伐隊が派遣されて多くの騎士が戦死した。家によっては代替わりがうまくいかず、混乱中の領土もある。そこでだ……俺の名義でそれらの土地を襲撃してしまおう。その後、諸君らに褒賞として土地を分割する」
次の資料は略奪の計画書だった。襲撃対象だけでなく、行軍の行程表まで事細かに記されている。
「バカな! 正気か!?」
「許されん。王家がなんと言うか……」
「だから先ほども言っただろう。治安維持の名目で駐留してしまえばいい、と。実行支配と言うやつだな。もし仮に俺が討伐されて地上から消え失せたとしても……その後の主導権を握れるかどうかは君達の手の中だ」
もしこれを単独で行えば処罰されるだろう。
だが、これだけの騎士が同時に同じ行為に手を染めたら……? 彼らは共犯になる。王家としても簡単には処罰できないはずだ。
そう言った事情があるからこそ、彼らに商人達の中間業者としての役割を頼むことが出来るのだ。
話し合いは休憩をはさみ、10時間以上に渡って続けられた。
俺は今後の詳細な略奪計画と、彼らの利益について必死に説明した。
どの順番でどこを襲えば、どの家が得をしてどの家が損をするか。そしてどの段階でどの都市が味方になるか。
計算されつくした計画を根拠に、必要な戦力を取り込んでいく。
全員が全員に公平に利益を分配する事は不可能だし、そんなことをする必要もない。
正義感の塊のような騎士もいて、まるで話の通じなかった者もいる。
だが、それすらも想定内だ。ならばそういった連中にはワリを喰うポジションに立ってもらうだけのこと。
そして俺は最後まで会議の流れを掴み切り、おおむねの主張を通すことに成功する。
ヴォイドは汗を拭ってから俺とがっちり握手を交わし、互いの健闘を称え合った。
全ては順調に動き出したかのように見えていた。
そう、あの男さえ余計なことをしなければ……
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~数日後~
バァン!
勢いよく扉を開き、俺は勇者の前に歩み寄る。
「こんの! クソバカ野郎がぁぁ!!」
ゴシャァ!
「ごはぁぁっ!?」
握りしめた拳が顔面に突き刺さり、勇者は鼻血を噴き出してぶっとんだ。
「マルス、お前! こんのクッソ微妙な時期に強姦事件なんて起こしやがって!! 今回は略奪禁止って言ってんだろうがバカ野郎!!!」
「ちょ! 落ち着いてください! 暴力はいけませんって暴力は! あのですね! 誤解があるようなので言っておきますが、あれは合意の上で……」
「だからってお前! 自重ってものを考えろよ! 脳味噌ついてんのかお前!」
胸倉を掴んでガクガクと揺らすと、勇者はさも被害者ぶってそれを制止した。ぶち殺すぞこの野郎。
「お言葉ですけどねぇ! 僕たちもう勇者パーティーじゃなくてただの山賊なんですよ? ちょっとくらい大目に見てくれたって……」
「山賊だから言ってんだろうが!!!」
実はこの世界では「都市が反政府勢力に制圧されている状態」と言うのはそこまで珍しい事例ではない。
それらの状況下においても都市は農業、漁業、果ては商業などの生活の営みを止める事はないのだ。
更に言うと、山賊が討伐されたあとでその都市の民衆が皆殺しにされたりする事は無い。だからこそ彼らは簡単に風の吹く方へ鞍替えしてくれる。
そして、そんな俺達がこうしてツケでメシを食うのに必要となるのが……
「余所から奪ってくるのはOKだけど、ここで略奪するのはやめてね」と言うたった1つの約束。
何の権威も後ろ盾も持たない俺達にとって、それは何よりの身分証明書となる。
それをこのバカは…… この、バカッ! バカッ! バカぁッ!!
「お前! 俺とヴォイドが話し合いの準備にどんだけ時間費やしたと思ってんだ!! ぶち壊しにする気か、このっ! クソバカがぁぁぁぁ!!!!」
後日。俺はボコボコにした勇者と示談金をひっさげて、被害にあった娘さんのご両親へ謝罪に赴くことになる。
変な話だとは俺も思うさ。もっと酷いこと散々やらかしてるってのに……
でもまぁ……そんなもんなんだよ。魔王なんてのはな。




