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「嫌われ者」のポコ 前編

(エルバアル視点)


ヒヨヒヨ ヒヨヒヨ ピッピッピー


 戦いは終わった……お互いの陣営に想像を絶する爪痕を残して。


 それでも街は再びその営みを始める。

 通りを歩けば小鳥が歌い、通りを歩けばパンの匂いが。


 俺は今、ヴォイドを連れて市街の大通りを歩いていた。

 書類鞄を持った執事風の男を連れて歩いていると、なんだか自分が金持ちになった気がしてつい胸を張ってしまう。


 やがて俺達は南門に辿り着き、大きな岩を持ち上げて汗をかくタロスの姿を発見した。


「おーい、タロスさん! 次はこっちの岩をお願いしますー!」


「おう! 任せとけ!」


 ヤツはその怪力を活かして、普通の人が持ち上げられないような岩やガレキを次々と撤去していた。

 街の住人との接触にも少しは慣れたようで、随分と頼られてる様子が見て取れる。



「おーい、タロスー! 俺達そろそろ例の会談いってくるからー!」


「おう。もうそんな時間か! 頑張れよ!」


「うむ。お前もちゃんと適当に休憩をとって水分の補給を忘れるなよ!」


 頭上で大きく手を振ると、タロスは筋骨隆々の体から蒸気を昇らせて手を振り返してきた。



 地中には目に見えない菌が大量に埋まっていて、それが掘り起こされて空気に触れると活性化してしまう。

 しかもバラバラになってしまった大量のグールと王都から来た兵士達の死体、そして巨人の残骸を含んだ土壌だ。

 街の衛生状態のためにもこれらの土壌は早急に撤去し、埋めてしまわなければならない。



「それにしてもお前には助けられてしまったなぁ」


「いえいえ、こちらこそ。いいようにやられてしまいまして……」


 踵を返して再び大通りを引き返す。隣に目を向けると、ヴォイドは目を細めて涼やかな微笑を浮かべた。


 禁呪の余波に飲み込まれる直前、ヴォイドは巨人を無理矢理倒れこませることで俺達の盾となってくれた。

 それでも俺達は横から流れ込んできた土砂に挟まれて埋もれてしまった訳だが……もしあのまま流れの直撃を受けていたらと思うとゾっとする。 


 土石流の威力については今更語るべくもないだろう。巨大なすり鉢に砂とカエルを入れてゴリゴリとかき回すようなもんだ。

 巨人は許容出来るダメージ量を超えて大破。もはやヴォイドを切り離して破棄する他にどうしようもなかった。

 ちなみに博士は土石流に巻き込まれたダメージと、無理をおして神経接続解除の手術を行った疲れからまだ寝込んでいる。



「ふむ、それにしても……」


「どうした?」


「いえ、なに。随分と受け入れられたものですね。元はと言えば我々が街を襲ったものがそもそもの元凶。もっと憎悪の視線を向けられてもよさそうなものですが……」


 不意にヴォイドが顎に手をあてて何やら考え込む。


「不思議か?」


 ふと視線を左に向けると、民家の影から3~4人の少年たちが親の仇を見るような目で俺達を睨んでいた。多分比喩じゃなくて本当に親の仇なんだろう。


「個人個人では憎くてたまらない者もいるだろうな。ただ……やっぱり制服を着て仕事として人を殺すのと、自らの意志だけで刃を向けるのとでは大きな違いがある。ほとんどの人間にとって仕事かそうでないかと言う違いは、個人の感情よりも優先されるものだ」


 戦争は勢いだ。歴史とは流れだ。そしてその流れは不思議なほどに、人々の心の内側を反映しない。

 誰もが平和を願いながら人を殺すことがあるように……誰もが自分達を蝕む余所者に憎しみを募らせながらも、誰も声をあげられないと言う状況もある。

 いつだって得体の知れない何者かがその流れを掴んでいる。そして今回、仕事の時間は唐突に終わりを迎えてしまった。禁呪と言う名の、少し派手なベルによって…… 


 わからないのがシャルロッテだ。

 ……あいつは本当に頭大丈夫なんだろうか?

 禁呪と言うのは使用どころか、やり方を人に伝えただけで重犯罪だ。それを無視してまであの場面で撃つ必要がどこにあった?


 結果として兵士達も住民達も、そして王都から来た騎士達までもが俺達の要求を受け入れてまで停戦を望む方向に傾いてしまった。

 禁呪の余波を受けて壊滅したのは俺達も同じだ。武力による完全制圧は成らなかった。

 だが衝撃の余波は大きな空白を生み、俺達に付け入る隙を与えたのだ。


 まるで、それすらもシャルロッテの掌の上のような気がして気持ちが悪いのも事実だが……



「ヴォイド。もし万が一荒事になった時は……」


「えぇ、お任せください」


 片眼鏡をキラリと光らせ、ヴォイドは隙のない佇まいで笑顔を貼り付けた。

 その後は特に会話もなく議会場に辿り着き、係の者に案内されて会議室のドアをくぐる。


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「お待たせした」


 会議場には既にメンバーが揃っていた。

 一番奥にアリエス。隣に秘書官。左手には街の責任者や商人組合の重鎮達。右手には救援隊の生き残りの騎士達。

 少し遅刻してきたのはわざとだ。もし平騎士の誰かが遅刻したのならただの失態になるが、この場を俺抜きで開催出来ないことはわかりきっている。

 何人かの表情には苛立ちの色が伺えるな。それでいい。こういうのは冷静さを欠いた方の負けだ。


 現在水面下での交渉は俺達に有利に動いている。アリエス達も既にこちらの味方だ。


 壱号は本当によくやってくれたと思う。個人個人の感情を差し置いて、住民達の流れを掴んでくれた。

 俺は壱号には成れない。いるだけで場の空気が悪くなり、いつの間にか何もかも俺のせいになってしまう。

 昔はその事を嘆きもした。だけどもういいんだ。壱号だってタロスには成れないし、タロスだって俺には成れない。


 どうすれば相手の嫌がるポイントを突けるのか。いつもそんなことばかり考えて生きてきた。

 そして今、そんな俺を頼ってくれている奴らがいる。



「さぁ、話し合いを始めようか」



 仕事をしよう。ここらで1つ、つかの間の休息を得るために。


 ここで俺がヘマをすれば、また余計な血が流れてしまうだろう。だがそんな事は許さない。


 魔王にとっての平和とは、常に恐怖の先に勝ち取るものなのだ……

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