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カーディス攻防戦 4

 のちにエルバアルは彼の事をこう評している。


『あいつは別に最強って訳じゃあない。でもな。いつも期待以上の成果を持って帰ってきてくれる……骨のあるナイスガイなんだよ』




 土石流に呑まれて意識を手放す直前。シンシアはグール達に最後の指令を託した。


『壱号さんの指示に従ってください!』



 異変に気付くのは容易だった。

 大地を震わす地鳴りが収まったあと、壱号は偵察隊の隊員達と手分けしてグールを誘導。現場に急行しようとする。


 道には土砂から避難してきた守備隊の残党達と……家から出てきた民間人の野次馬達。

 迂回している時間は無い。だが、無理に人混みの中を通り抜けようとすれば混乱は避けられない。


 戦うべきか。避けるべきか。


 壱号は顔を見合わせる隊員達に掌を向け、待機の合図を出すとゆっくりと頷いた。


『僕に任せろ』


 そして歩み寄る。守備隊の兵士達の方へ。


 人間達は息を呑んだ。相手は骨の化け物。しかもついさっきまで街を襲っていた張本人。

 話など通じるはずもない。しかし誰も手を出そうとは思わなかった。思えなかったのだ。


 壱号は人間の敵意、そして恐怖を敏感に感じ取り、その全てに細心の注意を払いながら受け流した。

 決して焦りや緊張を感じさせない、優雅で、繊細な、違いのわかる上質な動きで。


 壱号は右の掌を真っ直ぐに突き出し、静かに首を横に振り……これ以上戦闘の意志がない事を告げた。

 次いで自身の顔を指さし、更に土石流の方を指さし、両手を合わせ、頭を下げる。


 ……壱号の仕草は完璧だった。


『通してください。あそこに埋もれている人達を救助しなければなりません』


 もはや言葉は要らない。真実を態度で示したのだ。

 当然の事として振る舞う壱号に、隊員達が続いた。人々はただただ道をあけて見送る。



 刃物のような岩石に、崩れる足場。危険な土砂の上を軽量な体を活かした動きで乗り越え、壱号はその光景を目にした。

 一か所だけ明らかに土砂のかさが低くなっている場所があり……中から巨大な肩がはみ出している。

 あの巨人は身を挺して仲間達を守ったのだ。


 救助活動は始まった。早い段階でエルバアルを引きずり出す事が出来たのは幸いだった。

 満身創痍のエルバアルが、壱号と無言の会話を交わす。彼もまた民衆の様子を瞬時に見て取り、判断を下したのだ。

 そして繰り広げられる救助活動。敵も味方も引き揚げ、なけなしの魔力を振り絞って治療が施されていく。


 元はと言えば彼らのせい。論ずるまでもなく敵同士。だが住民達はこの日目撃してしまった。シャルロッテ・バーンシュタインと言う存在。その恐怖の片鱗を。

 そこに陰謀を挟む余地などなかった。シャルロッテが光の壁を見てポコの存在を確信したように、彼女もまた自らの魔法によって自身の悪意を証明してしまっていたのだ。


 そして奇跡は起こった。

 カーディスの街の住民達が、エルバアル軍の魔物達と共に救助活動にあたり始めたのだ。

 その様子を目の当たりにした救援隊の騎士達も、もはや戦闘を継続しようとはしなかった。そして次々と救助に加わる。



 彼らの間に隔たる溝は深く、エルバアルの軍勢も壊滅状態。

 だがそれでもカーディスは降伏宣言を履行し、双方は一応の矛を収めたのである。


 悲しみと怒り。そして憎しみ……

 大惨事の暴風が吹き荒れる中、微かに灯りかけた相互理解の光。


 壱号がしたことは、ただ住民達の横を上質に通り過ぎただけに過ぎない。しかしこの些細な邂逅から運命が分かれ、後の住民達との関係に大きく影響していく事になるのである。




 そしてまた、一つの結末を迎える者達がここに……



--------------------------



(アリエス視点)



「アリエス! アリエス! 気が付いたの!?」


 リズの声が頭にガンガン響く。

 ごめん、うるさい…… もうちょっと寝かせて……


『すぐに仕事に戻るから……』


 そう言おうと思ったはずなのに声が出ない。お布団が気持ちいい。

 

 次第に視界が定まってくる……どこだここ? わかんないけどお布団は気持ちいい。


「リズ……あなたなにやってるの?」


 気が付くと私は見知らぬ部屋のベッドの上で、隣には目元を真っ赤に腫らしたリズがいた。

 徐々に記憶が蘇ってくる……


 リズは必死に何かを訴えかけようとしているみたいだったけど、胸が詰まって言葉にならない様子だった。


「ありゃりゃ……その様子だと、もしかして私達……負けちゃった?」


「うん……でも大丈夫。そんなに酷い事はされてないの。それよりアリエスが、アリエスが生きてて良かった……」


 そう言ってリズは涙を流して抱きついてきた。まったく、仕方がないなこの甘えん坊さんは。

  

 抱きしめてあげようと思い、手をあげたところで異変に気付く。


 ……指がない。利き腕の人差し指から薬指までごっそりもってかれてる。


 あ~ぁ、もう剣は握れないか……


 ホントは少し残念。小さい頃からこればっかの人生だったから。


 でも大丈夫。人を抱きしめるのに、指の数なんて関係ないのだ。


「バカねぇ。約束したでしょ、ちゃんと生きて帰るからって。大丈夫。私、強いんだから」


「バカ……! 負けたやつの言うセリフじゃないでしょ!」


 涙を流して笑う彼女を、私は優しく抱きしめた。

 まったく、この甘えん坊さんめぇ。


 泣かなくていいんだよ。私達は強いんだから。

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