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カーディス攻防戦 3

◇◇◇◇


 時間は開戦前まで遡る。


 アリエスの密命を受けた特使は、王都に救援の早馬を走らせていた。

 しかし都を出てすぐ目と鼻の先で、偶然救援隊を率いるシャルロッテの一行と思わぬ鉢合わせをすることとなる。


(こ、こんなところまで来ていたのか!?)


 特使は大慌てで見張りの兵士に事情を説明した。

 敵は未知なる異形の軍団であり、その中に山のような巨人が控えていることを……


 寝ているシャルロッテを起こすのには命の危険を伴ったが、事態が事態である。

 特使は自ら寝室へと参上し、決死の弁明によってなんとかシャルロッテの興味をひくことに成功した。


 シャルロッテはただちに兵士達を叩き起こし、特使を案内に立てて戦場へと急行したのだが……




「おやおや? 本当にもう負けかけてるではないですか」


 救援軍は街を迂回して戦場に駆けつけた……が、既に守備側の兵士達に抵抗の様子はない。

 敵の大部分こそ街の外にたむろしているものの、城門は開かれており降伏してしまった後のようにも見える。


(ふぅむ。アリエスがこうもいいようにやられるとは。確かにただの山賊ではなさそうですね)


「い、いかがいたしましょう!?」


「そうですね。ついでなんでちょっと挨拶していくのです。ま、これで壊滅するような相手なら所詮その程度だったと言う事……」


「……はっ? あ、挨拶……で、ありますか?」


 救援に駆けつけた都市が既に陥落していたなんて事は昔からあることだ。

 引き返すものとばかり思っていた側近は、一瞬シャルロッテの発言の意図に悩んだ。


 だが、そんな部下の様子を気に掛けるシャルロッテではない。

 胸の前で上向きに掲げたシャルロッテの掌から光球が出現し、彼女の頭上7メートルほどの高さに停止して浮遊する。



「アムド・レイ」


 シャルロッテがボソリと呪文を呟いて人差し指を向ける……そして光球から放たれる虹色の魔法弾。

 光の矢は最初、「速く真っ直ぐ飛ぶ」と言う性質だけを持って超高速で飛来する。

 そしてある程度の距離を進むと(敵味方関係なく)動く物体をサーチして着弾。爆発を巻き起こす……はずであった。



ガキン! ガオン! ガオン! ズガオォン!!


 突如として敵陣に巨大な光壁が出現。落雷のような閃光と轟音と共に、シャルロッテの攻撃魔法をかき消してしまったのである。


「ばかなっ!?」


「シャルロッテ様の魔法が防がれた!?」


 この時の兵士達の驚きようはとても言葉には言い表せない。

 シャルロッテが通用しないと言うことは王国最大の火力が通用しないと言う事。自分達の住んでいた世界がまるごとひっくり返されるような衝撃である。


 だが未知の恐怖に怯える兵士達を余所に、シャルロッテは1人違うことを考えていた。


「そんな。ポコ…… 確かに殺したはずですのに……」



◆◆◆◆



 アブナイ


 キョウテキダ


 エンキョリホウゲキガクル


 瞬時に脳内ルーンを展開しながら、エルバアルの頭の中にいくつかの言葉が浮かぶ。

 そして即座に選ばれた言葉。それは彼にとってもっとも強く簡潔に危険を示す一言だった。



「っ……シャルロッテだぁぁぁぁぁ!!!!」


 意図は伝わった。戦いはまだ終わっていないどころか、これから過去最大の激戦が始まることを。

 タロスも、シンシアも、その脅威についてはエルバアルから散々言い聞かされていたのである。



 初撃は完璧に防ぎ切った。

 エルバアルの防護魔法は魔力を帯びた攻撃に対して、世界最強の防御力を誇る。


(魔法攻撃に頼るシャルロッテにとって、俺は唯一の天敵と言っていい存在…… ここから先は古典的な兵力と陣形の勝負になる……!)


「大丈夫か!?」


「問題ありません!」


 不意の閃光に皆が目をくらますなか、エルバアルは冷静に敵陣の影を見て取った。

 目に見える数でおよそ1500~1800ほど。だがカーディスの守備隊とは比べ物にならないほど装備が良い。恐らく先陣の主力部隊は騎士団だ。


「ヴォイド! 動けるかぁ!?」


「申し訳ありません! 努力はしますが……!」


「いや、いい! シンシア。アリエスを人質にとってグール達を中にいれろ。防壁を盾にしてたてこもるぞ! 壱号が援軍を連れて集結するまで持ちこたえるんだ! おい、敵の指揮官! 妙な真似をしたらアリエスがどうなるかわかっているだろうな!?」


「は、はい……」


「わかりました!」


「タロス……すまんが右手の治療が終わり次第、殿軍を頼みたい。外に置いたままで城門を閉める事になるかもしれんが……」


「任せとけ!」


 街の中の守備隊と呼応されて挟撃される心配はあった。

 しかし敵との戦力差を考えればもはや防壁の外に活路はない。グールの本懐である市街地でのゲリラ、同士討ちにエルバアルは賭けたのだ。



◇◇◇◇



「シャ、シャルロッテ様! あの光の壁は一体……!?」


「そんなこともわからないのですか? あれはポコですよ」


 シャルロッテの見解に側近達の動揺がさらに広がる。


「え? はっ!? し、しかしポコ殿はシャルロッテ様が……」


「えぇ、私も驚いているのです。しかし私の攻撃魔法を防ぐことが出来るのは世界中探してもヤツしかいない。間違いないです。あそこにポコが……」


 八つ裂きにして遺体も念入りに焼却。絶対に復活しないように骨も粉々にして遺灰もバラバラに捨てたはずだった。

 だがそんな事実はどうでもいい。どんな身分証明書よりも現実に今あそこに見える光壁こそが、ポコ本人であると言う何よりの証拠なのだ。



「さて、どうしてくれましょうかね」


(私にとってポコはほぼ唯一の天敵。どうする? 一度本当に王都に戻ってサラと協力を…… いや、しかし復活した原因を突き止めないとまた同じ事になるのでは? それならばいっそ……)


 あわてふためく側近たちにうんざりしながらも、シャルロッテは号令を出した。



「聞くのです。これより先、お互いに魔法による砲撃は決定打になりません。単純な兵力差によって押しつぶします。全軍……前進!」



◆◆◆◆



 戦局は救援隊の有利に進んだ。

 そもそも重装備の騎士達とただのグールでは一体一体の戦力が違い過ぎる。


 グール達が次々と防壁の中へと逃げ込む間に、後衛の兵士達が次々と討ち取られていく。

 そんな中……敵陣の真っただ中において1人気を吐く男がいた。


 タロスである。



「貴様ら雑兵どもにぃ! この、タロスが討ち取れるかぁっ!!」



 テスタロッサを振り回し、次々と敵をなぎ倒す。



「貴公! 名のある武芸者とお見受けした。我が名は黒狼騎士団団長。ガロフ・アースノ……」


「やかましいっ!」


ゴシャァッ!!


 

 跳躍一閃。頭上に丸太を叩きつけられた角兜が、血を噴き出しながら胴体にめり込んで馬ごと吹き飛ばされる。



「き、貴様! なんと言う事を!」


 激怒した騎士が突撃槍を構えて馬上から必殺の突きを繰り出した。だが、その切っ先を素手で掴まれてしまう!


「うおぉぉぉ!!?」


 あまりに突然な急停止に馬と体が離れてしまい、騎士は重心を浮かせてしまった。勿論そのような経験あとにも先にも生まれて初めてであろう。

 そのまま無理矢理振り回されて、地面に叩きつけられて即死してしまう。


「どうした雑魚ども! さっきの姉ちゃんの方がまだ強かったぞ!」


  

◇◇◇◇



 タロスの豪傑無双っぷりは遠目に見ても一目瞭然であった。なにせ鎧をつけた騎士や、馬までもが何メートルも宙を舞うのだから。

 その様子を後方から冷ややかな視線で見つめるシャルロッテ。今、彼女のまわりには10名ほどの側近しかいない。


 本来ならば部隊の総指揮をとらねばならない立場であるが、「全軍、前進」とだけ言い渡して自身は後方に残ったのである。



「伝令! 敵の中に鬼神のような強さの武芸者が……あびゅぁ!?」


 駆けつけてきた伝令の兵士が鼻から上を吹き飛ばされて即死する。


「シャ、シャルロッテ様!? なにを」


「あーあー。うるさいですね。そりゃポコの事ですから隠し玉の1つや2つはあるでしょう。そもそもあの男相手にまともに用兵術を競い合って勝てると思ってないです」 



 シャルロッテはつまらなそうにため息を吐き、周囲を見渡してからニコリと笑った。



「さて、誰も見てないですね……そろそろ始めましょうか」



◇◆◇◆


「タロス、もういい! 後退しろ!」


 エルバアル達は必死にグール達の移動を急がせた。

 如何にタロスが一騎当千の豪傑と言えど、あまりにも多勢に無勢。

 気闘法を身に着けた騎士達に囲まれ、背中を斬りつけられ続けては長くはもたない。


(全員を中に入れるのは無理だろうな……ヴォイドも諦めるしかないのか?)


 どのタイミングで城門を閉め、どのようにしてタロスを救出するか。

 今後の算段を考えて防壁を見上げたところで、ふと異変に気付く。



 ……空が明るい……



 深夜のはずなのに青く群青色に染まり、雲の形がハッキリ見える。


(……まさかっ!?)


「ご主人様!? どこへ!?」


 シンシアの制止を振り切ってエルバアルは前に走り出た。

 そして北西の方角に光る歪な魔法陣をその目に見て驚愕する!



「マギノメギアッ!!? バカなあいつ! 正気なのかっ!?」



 シュオン シュオン シュオン シュオン シュオンシュオンシュオンシュオン……


 古代の文字列で出来た球状の魔法陣は展開、分離され、その空間を広げていく。

 逃げ場のない魔法の閉鎖空間を破壊の光線が反射して飛びまわり、光線が追加されるごとにその光量を増していく。



 マギノメギア……その凶悪過ぎる威力ゆえに、伝承を禁忌とされた古代の破壊魔法である。



「全員ただちに戦闘を停止しろぉっ!!! こんなことをしてる場合じゃない!!!!!」


 エルバアルは絶叫した。だが、彼の声に耳を貸す者などいない。


 エルバアルは地面に杖を突き刺して魔法陣を展開。自身の持つ最大の防護魔法を詠唱する。



「アル・グレド・イグス……エル・ゼア・ノイア……」


「絶界の王。四方に御座す守護者達。今より向かい、過去より来たれ。我、最初の死者の名に置いて命ず。光あれ、彼の者の栄光と共に……」



 球状の巨大な魔法陣が展開され、エルバアルのほとんどの魔力を吸い取って結界の中が淡い碧色の光に満たされる。



「禁呪 マギノメギア」


「絶対守護魔法! エターナルガーディアン!!」



 秒間数垓往復の光線の通過により熱せられた超々高温、高圧の空気の球が迫りくる。

 だが、エルバアルの防護魔法も完成していた。魔力を帯びた攻撃ならどんな威力であろうとも防ぎきる……はずだったのだ。



「なにっ!!?」



 だが、シャルロッテの狙いはエルバアル本人ではなかった。


 近くの森に着弾したそれは、地中数メートルの地点までめりこんだところで魔法陣が崩壊。爆発的に内部の熱量を解放する。

 半径数メートル以内の岩石は蒸発。真上に宇宙まで届くような光の柱をあげた。


 更に周囲の土壌は融解してマグマとなり、まるで水面に鉄球を落としたかのように波打ち……めくれあがった土の壁が土石流となって、亜音速で迫りくる!!


「伏せろぉぉぉぉぉぉ!!!」


 エルバアルの絶叫がむなしく響いた。

 土石流は防壁をなぎ倒し、民家のいくらかを飲み込み。街に多大な損害を出して止まった。



「あ……ぁ……ぁ……」


「な、なんてこと……なんてことを……」


 降り注ぐ灰と噴石の中、側近の騎士たちは股間を濡らして慄いた……

 そこにはもう味方と敵の区分などなんの意味ももたない。


 恐怖……ただただ、現実にある真っ黒な邪悪だけがそこにある。



「よし、あなたたち。私ちょっとしばらく隠れますので、ここで死んだことにしておいてください」


「……ひゃ?」


 あまりにも大勢の人間が死んだと言うのに、まるで旅行に出かける前の娘のような顔で笑うシャルロッテ。

 自身の理解をあまりにも超えすぎた相手を目の前にして、側近の騎士は言葉を失った。



「あ、あなた…… あなたはまさか、それだけのためにこんなことを……」


「さぁ~って。どうですかね? くふふふふ。アーッハッハッハ!!」



 シャルロッテは1人闇の中へと消える……


 大地の色を変えてめくれ上がった土だけが残り。声をあげるものは誰もいなかった……

ご愛読ありがとうございました!

明日、この章……と言うよりこの攻防戦のエピローグを挟みまして、次次話からいよいよ最終章「天敵」が開始!

最終章は日常シーンなんかもあるので少し長くなる予定ですが、あともうちょっとお付き合いいただけると幸いです。でわ!

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