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カーディス攻防戦 2

 戦いは一方的な展開から始まりを見せる。

 お互いに足を止めての撃ち合い……いや、あれを撃ち合いとは呼べないだろう。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」


 開戦当初。エルバアル達は弓矢の射程外に陣取った。

 そして事前に引き抜ぬいておいた樹木を持ち上げ、巨人が投げつける。


 巨大な木が宙を舞い、防壁を飛び越えて民家に刺さった。打ち砕かれたレンガが飛び散り、破片を浴びて兵士達は悲鳴をあげた。


 弓兵が3人いようが5人いようが射程距離が3倍5倍になったりはしない。

 撃ち合いにおいて巨人が1人いると言う事は、射程距離に置いて絶対的なアドバンテージを得る事になるのである。


 木々は砲弾のように降り注いだ。そして作戦が次の段階に移る。

 エルバアルはグール達を樹木にしがみつかせ、それを巨人に投げつけさせた。


 超遠距離からの遠投だけでは、投げたものをそのまま防壁に当てることは難しい。

 だが防壁を飛び越えるように大きく放物線を描いた樹木から、矢のようにグール達が飛び降りてきたのだ。


 着地の衝撃に体がひしゃげ、半身が吹き飛んだ者もいた。だが、彼らには痛みや恐怖と言うものが存在しない。

 身体を大きく欠損させながら向かってくるグール達に、防壁の上がたちまち大混乱に陥る。


 敵将が何ら有効的な対策を打ち出せていないと判断し、更にエルバアルは畳みかけた。

 頃合いを見て壱号、スケルトン・メイジ、偵察隊の面々を配置につかせる。

 敵の弓兵達が混乱状態にある事を確認して、巨人は助走をつけて前に出た。そして放たれる大遠投。


 壱号達は凄まじい加速度と風圧に耐えながら空を飛ぶ。

 そして着陸の直前、彼らはしがみついていた木から飛び降りて布を広げた。

 博士の考案したパラシュート部隊……それは麻布を紐で縛って穴をあけただけの簡素なものであったが、軽量な彼らには十分であった。

 

 優雅な動きで無事着陸に成功した彼らは、そのまま上空から見た地理をもとに夜の闇を走りぬける。

 ほどなくして貧民街に到着。壱号は音もなく寝ている浮浪者の1人に近づき、腰から下げたグールの頭に噛みつかせた。

 口に布を押し込まれ、浮浪者達が悲鳴をあげることも許されずに存在を作り替えられていく……


 壱号達は瞬く間に貧民街を制圧。十分にグールを増やしたところでスケルトン・メイジが家屋に火を放った。

 屋内に立てこもった民間人達をいぶりだすには火事が最も有効だ。路上に飛び出してきた避難者達が次々とグールに襲われ、街中が大混乱になる。



 何もかもが順調。


 形勢は、もはや取り返しのつかないところまで傾きかけようとしていた……



-----------------------



「そろそろいいんじゃねぇの?」


 街の方から火の手が上がり、夜の闇を朱く照らす。

 壱号達の成功を確信してタロスは口角を上げた。手にはテスタロッサと名付けた巨大な丸太が抱えられている。


「そう、だな……」


 有利に進む戦況にエルバアルも肯定の意を示す。

 だが、胸中には一抹の不安が渦巻いていた。


(シャルロッテはやはりいないか……サラも王都で軟禁状態と言うのも本当らしいな。に、してもアリエスはどこだ? あいつは何をやっている……?)


 エルバアルは戦況を見渡しながら、巨人の中にいる人造人間に声をかけた。


「ヴォイド! そろそろ勝負を決めにかかるが……準備はいいか!?」


「ふむ……問題ありませんね」


 巨人が体の感触を確かめるように足踏みをし、ズシンズシンと地面が揺れる。


「そうか……よし、シンシア。そろそろ総攻撃をかけるぞ! だが、敵の大将の位置が気になる。もしかすると伏兵を潜ませていて、防壁に取り付いた隙を狙って斬りこんでくるかもしれん。

 ヴォイドの突撃に先立ててグールを前進。城門の前を確保しつつ、ヴォイドを護衛しろ。とにかく伏兵に気をつけて辺りを警戒しろ。もう篝火もガンガン焚いて構わん」


「わかりました!」




 こうして総攻撃が始まった。

 先陣をきったグール達が虫のように雪崩れこんでくる。

 もはや守備隊に押し返す力は残っていなかった。グールが壁にへばりつき、更にその体をよじ登ってグールが這い上がってくる。


 そしてついに巨人が動き出した。



ドス  ドス  ドス  ドス ドス ドス ドス ドスドスドスドスドスドスドス!!!



「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 巨人が右手を振りかぶり、守備兵が絶叫をあげる。



ズガガガガガガガガガァァ!!



 石壁をえぐりとりながら、巨人は防壁のうえを薙ぎ払った。

 そして城門の前で壁に両手をかけると、右足を大きく振りかぶる!


 その時である!


「敵影確認! 北西の方角より騎兵およそ15!」


 報告を受けた瞬間、姿を見るまでもなくエルバアルは直感した。


「アリエスだ! 手強いぞ!」


(やはり来たか、アリエス……!)


 スケルトン達が騎兵隊に向かって矢を放った。

 だがアリエスは槍のようなフォルムの、柄の長い大剣を振り回してそのことごとくを薙ぎ払ってしまう。


「弓で仕留められる相手じゃない。馬を狙え! シンシア! グール達を指揮して他の騎兵達を止めろ!」


「うおぉぉぉ! どけぇ!!」


 長い柄を鞭のようにしならせ、アリエスが大剣を振り回して斬りこんでくる。

 まるで背の高い草を刈るかのように、切り裂かれたグール達の上半身が宙を舞った。


ブォォォン!!


 巨人が掌を広げ、まるで虫を叩き潰すように上から叩きつける。だが!


「気闘剣……!!」


 頭上でグルグルと大剣を回し、刀身に魔力を巡らす。


「おおぉぉぉぉぉ!!!」


 掌が地面につく直前。巨人は4本の指のつけねの少し下を真っ二つに切り裂かれた。

 その隙間からアリエスが馬を走らせて懐に飛び込んでくる!


「なっ!? バカな!?」


 ヴォイドは慌てて身を守ろうとするも、もう間に合わない。


ズガッ!!


 樹齢500年クラスの大木のような片足を斬り飛ばされ、巨人は前のめりに倒れた。


「いまだ。魔術師! 巨人の頭を狙え! トドメを刺すんだ!」


 アリエスは防壁の上に向かって吠えた。

 だが彼女の呼びかけに応える者はいない。他の騎兵達もグールに阻まれて足が止まっている。


「くっ!」


 アリエスは自分で巨人の首を刎ねようと馬を急反転させた。

 だがそこへ先端に三日月状の刃がついた巨大な丸太が、まるで小太鼓のバチのように凄まじい横回転をしながら飛んできたのである!


「うわぁ!?」


 流石にこれは避けきれなかった。


 直撃を受けて馬は即死。

 アリエスは落馬の瞬間、右手を地面に強く叩きつけてその反動で跳躍。空中で一回転して睨みつけた。



「よ~ぉ、ねぇちゃん! やるじゃねぇか」



(……っ!? こ、こいつ、強い……!)



 タロスの異様な雰囲気にアリエスは息を呑んだ。

 だがもうここで巨人を仕留めきれなければ敗北は確定。もはや退路などない。



「うおぉぉぉぉぉ!!」


「おおぉぉぉぉぉ!!」



 両者は真っ向から走り寄った。


 アリエスが頭上で柄の長い大剣を回転させながら跳躍し、刀身に魔力を込める。

 そして真っ直ぐ一直線に振り下ろした。


 タロスもまた、刃に向かって拳を突き出す。そして……



「かっ!!? …………堅っ!?!????」



 刃が拳の中指と薬指の間に喰いこんだ瞬間。アリエスは全身から冷や汗を吹きだした。

 ギチギチと、まるで人間の肉とは思えない恐ろしい何かに挟まれている感触。


 大剣はタロスの拳の中ほどまで喰いこみ……それ以上動くことはなかった。



「おらぁっ!」


「…………っ!!」



 絶句して硬直するアリエスの腹にタロスの前蹴りが突き刺さり、彼女は血を吐きながら花火のように打ちあがった。

 そして地面に激しくうちつけられ、タロスがその頭を掴んで高々と掲げる。



「敵将! 討ち取ったぁ!」






 これが決定打となった……


 指揮官代行を任された秘書官は泣きながらアリエスの助命を嘆願。エルバアルがこれを快諾したことにより降伏を受け入れた。


 守備兵達が武器を捨て、城門が開かれる。

 シンシアもまたそれを見てグール達への攻撃命令を停止。軍団はかちどきをあげた。



 誰もが勝利したと思い込んでいた。


 タロスも、シンシアも、ヴォイドも、博士も、そしてマルスも。


 ただ1人。エルバアルを除いては……



 北西の方角に浮かぶ白い光球を見つけた途端、エルバアルは血相を変えて地面に杖を突き刺した。


 雪の結晶のような形の巨大な魔法陣が地面に向けて垂直に出現し、その6つの頂点から更に光壁が展開されてグルグルと回る。


 北西に見える白い光球から超高速の魔導弾が次々と飛来し、エルバアルの展開した光壁と激突して弾ける。


 

 激しい落雷のような閃光と轟音の中。彼は自身の考えうる中で最も最悪で危険な警告を叫んだ。





「っ……シャルロッテだぁぁぁぁぁ!!!!」






 

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