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カーディス攻防戦 1

 その警鐘は夜半に突然鳴った。


「団長! 起きて! 起きてください!」


 なけなしの仮眠時間を邪魔され、アリエスは夢である事を祈った。

 意識を覚醒に向かわせれば頭が痛み、力を抜いて夢に沈めば甘い心地よさが広がる。


 どっちを「選びたいか」なんてのは決まりきっている。

 だが……秘書官の一言が容赦なく彼女を現実に連れ戻す。


「奇襲です……! 敵は篝火を一切使わずに夜間に強行軍を行った模様…… 暗くてよくわかりませんが、かなりの数が集まっています!」


 それは最悪の知らせであった。想定外と言ってもいい。


「うそっ!?」


「本当です……敵は南東の方角に集結しており、他の方角からは今のところ確認出来ません。もしかして森の中を抜けてきたのかも…… とにかくもう果樹園の内側にまで入り込まれています」


 アリエスは脳内の血管がブチブチと切れるような錯覚を覚えながら飛び起きた。


 防具を着ける間も惜しんで部屋を飛び出し、疾風のような速さで舗装された街路を駆け抜け、防壁の階段を駆け上がり……


「な、なにあれ……うそでしょ……」


 そして戦慄した。

 眼下に広がる異形の軍団と……生まれて初めて見る巨人の姿に。




 数分後。アリエスは守備隊の指揮官達と街の責任者達を集めて、緊急の会合を開いた。

 召集をかけたメンバーの半分も到着していなかったが、鎧をつけさせながら口早に説明する。


「今からじゃもう城門を開けて布陣をひく時間はないわ。籠城戦を始めるからマーダックさん達は住民への指示をお願い」


「わかりました!」


「リズ。そういう訳で籠城戦の指揮をお願い。出来るだけ訓練通りに頼むわね…… 今からあなたがここの総指揮官よ」


 アリエスの不可解な指示に秘書官は困惑した。


「え…… 団長、一体何を……」


「私は騎兵を率いて北門から出る。伝令を王都に向けて走らせたあと、牽制と退却を繰り返して敵をひきつけるわ。それに……」


 アリエスがちらりと南東の方角の防壁を見て、言葉を続ける。


「あなたも見たでしょ…… あの巨人は恐らく、私じゃないと倒せない」


 アリエスの作戦を理解した秘書官は驚愕に目を見開く。


「団長!? いけません! あなたが死んだらカーディスは……!!」


 秘書官と団長と言う関係になってからは、一度も見せたことのなかったリーゼロッテの悲壮な瞳。

 アリエスはそれを見てふと、二人がただの友人だった頃を思い出した。


「聞いて。お願い、リズ。時間がないの…… 大丈夫、ちゃんと生きて帰るから。私が強いの知ってるでしょ?」


 泣きそうな顔になる秘書官を、アリエスは優しく抱きしめて慰める。


「アリ……エス…… ひぐっ、約束だから、ね。絶対……絶対帰ってきて……」


 顔を離し、アリエスが力強く頷く。

 それを見て秘書官は涙を流したまま笑顔を浮かべた。


(ずるいなぁ…… そんな目で見られたら笑うしかないじゃない……)



 かくして騎士は戦場へと舞い踊る。

 友の、胸に秘めた想いになど気付くこともなく……

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