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幕間~諸々の事情~

(3人称視点)


 バーンシュタイン子爵領の中心都市、カーディスの執務室。

 そこで書類の山に埋もれて絶叫を上げる、若き(?)騎士団長の姿があった。



「だぁぁぁぁっ! どいっつもこいっつも! 私が25にもなって浮かれた話の1つもないなか健気に健気に頑張っているって言うのにぃぃぃぃ!!」


 この領地の本来の領主であるシャルロッテは領地の運営にまるで興味を示さず、騎士団長を務めていたアリエスに一方的に領主代行を任命した。

 それからというもの、アリエスには様々な不幸が襲いかかる事になる。


 まずは王国中の貴族界隈から、無能で扱いに困っていた者たちが続々と送り込まれ、要職にねじ込まれてしまった事から始まる。

 如何に「100人斬りのアリエス」の名で知られる剛剣の使い手と言えど、政治の世界ではただの騎士爵に過ぎない。

 家柄だけは立派で発言権は強く、無能で素行不良の部下達が好き放題に領内を荒らし……アリエスの職場は地獄と化した。



「団長。気持ちはわかりますが団長がモテないのと我々がピンチなのは関係がないかと……」


「シャラァップ! 『モテない』んじゃない……忙しすぎて『出会いがない』んだ…… 大事なことだから気をつけるんだリズ」


 秘書官の失言に語気を強めるアリエス。だが、秘書官はまるで気にも止めずにアリエスに詰め寄った。


「団長。わかってますか? 私らもう若くないんですよ…… いまさらそんなの、どっちだって世間の見る目は一緒ですよ……」


「…………」


「…………」


「……ごはぁっ!!?」


 秘書官の痛烈な一言が徹夜続きのアリエスのハートを残酷にえぐる。思えばもう何日も水浴びすらしていない。


「だ、ダメだこのままじゃ……なんとかしないと……」


「ですね……もう彼氏が欲しいとか贅沢は言いませんからせめて一日3時間は寝かせてもらえないと……」


 

 領内の苦情の処理に追われて瀕死状態だったアリエス達。そんな彼女達を更に鞭でひっぱたくかのように、厄介な仕事が舞い込んでしまった。

 荒野の遺跡に非常に強力な山賊が根城を築いているので、どうにか退治して欲しいとノープル村の住民達から強い要望が入ったのだ。


 ただでさえ領内の治安が悪化しているなか、なんとか編成をやりくりして討伐隊を差し向けるものの……まさかの大敗北。

 しかも相手はただの山賊ではなかった。人外の化け物を操る謎の軍団に討伐隊は敗走すら許されずに全滅。村人達も皆殺し。


 敵の勢力は不明だが、少なくとも500の討伐隊が完膚なきまでに叩きのめされるほどの戦力と言うことは間違いない。

 対してカーディスの兵力はおよそ3000。だがこれは騎士や魔術師をほとんど含まない、非正規兵が大半を占める雑軍である。


 もはやここが標的にされるのも時間の問題だろう。

 アリエスは王都にいる公爵、国王、シャルロッテ達に急報を送ると共に、近隣の騎士達へ急ぎ参集して守備に加わるよう通達を出した。

 だが、そのことごとくが病気や体調の不良を理由に断りの返事を寄越してきたのである。 

 勿論仮病だと言うのはアリエスもわかっているのだが、無理矢理連れてくるような手段も時間もない。


 とにもかくにも敵の正体が不明と言うのが厄介だった。だが、少数で敵陣の情報を掴んで生還出来るような有能な人材などもう残っていなかったのだ。




「ねぇ、これもしもカーディスが堕とされるようなことがあったら普通に国家の危機だよね……なんで誰も助けてくれないの?」


「頑張りましょう……いくらシャルロッテ様でもあれだけ討伐隊が壊滅的な被害を受けたとなれば、無視はしないはず……」


「…………本当にそう思う?」


「いや、私に言われても……」



 秘書官は言葉を濁したが、実は彼女の予想は当たっていたのである。


 救援の訴状を受け取ったシャルロッテは、当初勇者パーティーの女戦士であるサラ・スカーレットの派兵を提案した。

 だがこれを公然と非難したのは誰であろう、シャルロッテの実の父親でもあるバーンシュタイン公爵だった。


 これはシャルロッテからすれば完全な裏切り行為であり、公爵にとっては命がけの糾弾である。


 しかしこれ以上娘の思惑通りにことが進めば、いずれ王国にとって大きな脅威となるのではないか。そんな予感が公爵を突き動かした。


 公爵は聖騎士団随一の使い手と言われる次男と、次期当主である長男に事情を話したうえで結託。

 自身の身辺警護を完全なものとしたうえで、シャルロッテの領主としての責任を追及し始める。


 旗色の悪くなったシャルロッテはしぶしぶ王都より救援軍1500を連れてカーディスへと向かっているのだが……アリエス達はいまだその事を知らない。



 大量のお断りの手紙に心がくじけそうになりながらも、アリエスは再び救援の訴状にペンを走らせながら秘書官に呟いた……



「ねぇ……もしも、もしもよ?」


「はい?」


「もし私達が負けて敵に捕まったら……滅茶苦茶犯されるじゃない?」


「まぁ……滅茶苦茶犯されますね」


「滅茶苦茶〇ックスするじゃない?」


「まぁ……滅茶苦茶犯されますね」


「そしたら私の体に夢中になっちゃった少年兵が、夜中にこっそり助けに来て二人はそのまま愛の逃避行を……」


「団長」


 それは……妄想とも呼べないほどの、ほんの些細な現実逃避であった。だがそれすらも許されない!

 容赦なく突きつけられる現実がアリエスの幻想を打ち砕く……!


「ふざけてると今夜も寝れませんよ?」


「…………」


「…………」


「う……」


「仕事してください」


「う……う…… うわぁぁぁぁぁん!! もう嫌だぁーーー!!」



 カーディスの街に敵襲の警鐘が鳴り響くのは、それから三日後のことであった……

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