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禁断の科学者 前編

ザス モス ザス モス……


 あれから2週間後。

 俺達は動物の足跡すらない白銀の絨毯の中を黙々と進んでいた。

 いや、俺達……と言う言い方もおかしいな。タロスが俺を背負って1人で進んでくれている。

 多分事情を知らない者が今の俺を見れば、カゴの中に入ったただの死体にしか思えないだろう。


 最初は恰好つけて自分で歩こうとしたのだが、腰の高さを優に超える積雪の前には足手まといにしかならなかった。

 それにしてもこの男もたいがい冗談みたいな存在だな…… 重たい雪の中を、まるで麦の穂をかき分けるかのごとくスイスイと進んでいく。


「しかし……難しいものだな……」


「なにが?」


「シンシアだよ……頬っぺたを膨らましてリスみたいになってただろ?」


「しゃあないだろ? 壱号はアニキから離れての長期間の任務は出来ねぇんだから」



 あのあと、俺達は話し合い(?)の末にシンシア達の提案を却下した。

 壱号は俺から魔力の補給を受けて動くスケルトンだ。あまり長期間単独で行動させるのは好ましくない。


 シンシアは馬に乗って行って帰ってくるだけだから大丈夫と主張したが、乗馬と言うのはあれで意外とエネルギーを使う作業だ。

 それでもウォーリアである壱号なら往復出来なくはないかもしれない……が、向こうで何かあった時のリスクが大きすぎる。


 シンシアはごねた……両手を放り上げて床をゴロゴロと転がり、駄々をこねた。

 初めて会った時はあんなに暗い目をしていたのになぁ。まるで別人のような変わり方だ。

 そう言えばカーミラも、気に食わない事があるとああやって地面にへばりついて駄々をこねていた記憶がある。

 もしかすると吸血鬼に成る過程で脳味噌が一部腐ってしまうんだろうか?


 ……若干叱りつけるような形になってしまったのはやむを得ない。仕方がなかったんだ。



「いや、提案を却下した事自体はいいんだ。甘やかすのだけが優しさじゃない。特に彼女は初めて自分の居場所らしい居場所を見つけ……そして今、自分がどこまで許されるかを模索している。

 その状態の時に際限なく要求をエスカレートさせてしまう事は彼女自身の精神的負担にもなってしまう。だが、否定したり叱る際は必ず本人に納得してもらうことが重要で……」


「カッカッカ!」


 俺の話の途中で、タロスはいきなり笑い出した。一体なんだと言うのだ。


「なんだよ。御託並べだすから難しい話でも始めるのかと思いきや、要は娘に嫌われないか不安なだけじゃねぇか」


「なっ!? お前っ!」


「だ~いじょうぶだって。心配しなくてもあの子はアンタにべったりだよ。それに叱る役もフォローする役も1人で全部背負い込まなくたっていいだろ? 壱号だって残ってくれてんだからさ」 


 壱号はどんなに一方的に長話を延々と続けられても、決してつまらなそうな顔をせずにマメに相槌を打ち続けるので話し相手として重宝されている。

 今頃はエンドレスで延々と愚痴を聞かされ続けているんだろう。本人曰く「表情に出ないだけなんです。勘弁してください……」と言わんばかりだったが……


「みんなでそれぞれ出来ることをやりゃぁいいんだって。感謝してんだぜ? そういう居場所を作ってくれたことにさ」


「ふんっ…… だといいがな」



 他愛のない話をしながら俺達は進んだ。

 互いの幼少期のことや、これからのことなんかについて。


 積雪をかき分けてタロスが進む。

 彼は過去の事にあまり拘らなかった。例のロクデナシの隊長のことも。

 白銀の絨毯につけられた一本の道筋が、彼の力強さを雄弁に物語っていた……


-----------------------------



「あれか……」


 そして俺達は目的に辿り着いた。

 鋭い三角形の屋根をした古めかしい木造の建物と、白い幾何学形状の石造りの部分が融合した奇妙な建物……


「……なんだこれ? 継ぎ目のないレンガ?」


「博士がコンクリートとか呼んでる謎の物質だ。詳しくは俺も知らん。 ……研究所の中にも色々あるんで驚くかもしれんが、いちいち突っ込んでたらキリがない。用件だけ済ませてさっさと帰るぞ」



 さて、どうしたもんだろう。思えば勝手に来るのは初めてなのか。

 普通にノックしたら出てきてくれるかもしれないが、今の俺達の風貌は怪しすぎるしな……


 などと思っていると。



ガチャ バァン!



「うわぁ! 本当に動いてる。そ、それ死霊術ってやつなのかい? 初めまして! 僕、ヴィクター・フランケンシュタインって言います! 良かったら中で詳しい話を聞かせてくれないかな?」


 

 勢いよくドアが開かれ、中から白衣の青年が飛び出してきた。

 金髪の天然パーマ。そばかすのある白い頬。少しずれた丸眼鏡。

 間違いない。フランケン博士だ。



「博士……素性のわからないガイコツの化け物をいきなり屋敷に招こうとするんじゃあない。まったく……興味を惹かれると後先考えなくなるところは相変わらずだな」


 まぁ、こちらとしては好都合だったんだが……いくらなんでも不用心が過ぎるだろ。


 妙に馴れ馴れしい態度のガイコツに、博士は眼鏡をかけ直して俺の顔をまじまじと見つめた。

 

「……え? ん?」


「俺だよ博士。ポコだ。 ……ヴォイドのヤツは元気かい?」


「あ、そうだったんだね! いやぁ、懐かしいなぁ。ささ、入って入って」


 博士は返事も聞かずに手招きして、中へと引っ込んでしまった。


「……動くガイコツには興味深々なのに、知り合いが化け物になってたことにはスルーかよ」


「……そういう人だ……」


 俺達は招かれるまま屋敷のなかへと足を踏み入れた。

 俺は頭を抱えながら。タロスは苦笑を浮かべて。

 だが久しぶりに会う知人の変わらない様子に、奇妙な安堵感を覚えていたのも事実だったと思う。


 俺達はこれからの成功に夢を膨らませていたんだ。


 この一見人当たりの良さそうな青年が。

 後に、世界に大きな災厄をもたらす「怪物」を生み出してしまうとも知らずに……

10/29 レビュー頂きました。ありがとうございます!

タイトル変更しようかと思ったんですが、もうちょっとだけこのまま頑張ってみます。

もしポイント評価頂けたら嬉しいです。

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