2度目の選択肢 後編
ワイワイ ガヤガヤ キャーキャー
…………話が進まん…………
なにか一つ話を説明する度にいちいち雑談に入るので非常に苦労する。何度かの中断を挟みながら、俺は時間をかけて説明していった……
「え~。とにかく俺達は今後のためにも、次の都市は降伏による領地占領を狙いたい。
領主代行のアリエス・ホワイトウールとは挨拶をした事がある程度であまり詳しい訳ではないが、バーンシュタイン家の傀儡人形みたいなやつだ。
だが話は通じる。日和見主義者で流されやすい女でもある。 ……恐らく我々がわかりやすい形でシャルロッテの圧力以上の武威を示す事が出来れば、容易にこちらへ傾くはずだ。そこで次の作戦だが……」
「はいはいはいはいはい!」
……なんだろう。勇者が勢いよく手を挙げている時点で既にもう嫌な予感がする。 ……却下だ。
「やかましい。ぶち殺すぞ」
「ひどっ!? なんでですかっ!? 酷くないですか!?」
とりあえず勇者は保留でいいとして、いい加減本題に入りたい。
「え~、次の作戦に入る前の準備期間だが……シンシアには一旦ここの守備を頼みたい。チャンスがあれば適当な村にグールを放りこんで数を増やしておきたいところだが…… ただ、あいつら足遅いしあんまり命令聞かないから無理しなくていい」
「わかりました」
「で、俺とタロスだが……」
俺はいつぞやのように例の手配書を机の上に広げた。
「前回、結局カーミラからはロクな協力を取り付けられなかったからな…… 賢者の石の使い方に関しては結局何も聞けずじまいだ。そこで、やはりこの人に協力を仰ごうかと思うんだが……」
神の領域に踏み込んだ禁断の科学者。フランケンシュタイン博士。
彼の協力を得られればスケルトン。グールに次ぐ第三の軍勢が手に入る……はずだ。
「ただ、前も言ったがかなり辺鄙なところに住んでるんだ。山の上は雪が深いところもあるのでタロスじゃないと走破出来んかもしれん。まぁ、その辺はよろしく頼む」
「あぁ、いいぜ。背負い籠も用意していった方ががいいか?」
それから俺はタロスに地図を確認してもらいながら具体的な行路についての簡単な説明を行った。
雪山なんで遭難したら即死だからな…… まぁその心配はあまりしてないが。
「じゃぁ、そういうことで…… 以上、他に何もなければ解散したいと思うが……」
「あ、あの。私からもよろしいでしょうか!?」
「……ん? どうした?」
そろそろ解散しようかと思ったあたりでシンシアが手を挙げてきた。どうしたんだろう。
「あ、あの……この、手配書の最後の人なんですけど……」
シンシアはそう言って森の魔女の手配書を指さしてきた。
「ご主人様が以前おっしゃってましたが……この人の持ってる魔女の大釜って言うのを使えばご主人様の肉体を復活出来るって本当ですか?」
「やったことはないし、完全な復活とは違う……が、肉の体を取り戻す事は可能だろう。そもそも魔女の大釜と言うのは……」
「あ、詳しい話は別にいいです。それよりもお願いがあるのですが……」
「む……」
説明に興味を示してもらえなくて少し悲しくなる。あれ、俺ってもしかして話長いと思われてる?
「あ、あの……その、ご主人様が復活したら……その…… 血、血を……吸わせてもらえませんか……?」
シンシアは顔を赤くしながら俯き、もじもじと内股をこすり合わせながらおねだりしてきた。
いや、あの。血を吸わせるのは構わんけど普通にお願いして欲しいのだが。
「まぁ……別にいいけど……」
グールに感染する事はないと思うので別に構わんが……と、生返事をした途端、シンシアが凄い勢いでバッ! っと顔をあげたのでびっくりする。
「ほ、本当ですか!? 絶対ですよ! 約束ですからね!?」
「お、おう……ちょ、ちょっとだけだぞ?」
シンシアは目をらんらんと輝かせてぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
……なんかこの子性格変わってないか?
なぜ俺の血にそこまでの興味を示すの理解に苦しんでいると、今度はスケルトンメイジにトントンと肩を叩かれた。
「どうした?」
「カタカタカタ」
スケルトンメイジは肋骨の上のあたりでグルっと大き目にお椀を二つ作り、次にぐいっと腰のあたりでくびれを作ると、最後にお尻のところで大きな丸を描いた。
「ボン キュ ボン …………なんだ、お前も肉体を復活させたいのか?」
「コクコクコク」
どうやら女性陣二人はお菓子の家の魔女に協力を要請するのに賛成らしい。
「俺はあんまり良い予感しねぇんだがなぁ。その魔女……」
「素人さんは黙っててください!」
「し、素人さん!?」
タロスは反対、か…… それにしてもボヤボヤしている間にタロスに酷いあだ名がついてしまった。
これ以上被害が拡大する前に早々に話を切り上げなければならない。
「壱号……お前はどう思うんだ? 肉の体に戻りたいか?」
質問を向けると壱号は顔の前に垂直に手を立て、違いのわかる上質な動きでひらひらと左右に手を振った。
これは「あ、僕は別にいいです」と言う意味のハンドシグナルだったんだが……
パカーン!
「カタカタ!」
「カタカタカタ!」
意思表示を示したところ、壱号はなぜかスケルトンメイジに頭をひっぱたかれてしまった。
そのまま胸倉を掴まれてなにやら言い争っている。
ともかく壱号も反対、と。票が2:2に分かれてしまったな……
アホの勇者に聞いてもロクな意見が出てくるとは思えんし、どうしたもんか……
「まぁ、でも俺もどっちかと言うと今回は博士に協力を仰ごうと思ってるんで3:2でやっぱり……」
「異議アリ!!」
いい加減話を切り上げようとしたらシンシアに凄い勢いで人差し指を差されてしまった。
「ご主人様は大切な事を見落としています。そもそもなぜその魔女さんと博士さんのどちらか片方を選ぼうとするのか…… 否! 初めから前提が間違っていたのです! 今回、博士さんのところに行くのは確定。そのうえで議論すべきは魔女さんのところに行くべきか行かないべきかの2択ではないでしょうか!」
なんでこの子こんな急に芝居がかった口調に……いや、まぁいいけど。
「両方行くって事か? いや、しかし俺とタロスが博士のとこに行くだろ? で、シンシアがここの守備を担当するとして……」
「大丈夫ですよ! 魔女さんの方は壱号さんが1人で行ってきて何とかしてくれますから! ね? 壱号さん?」
「……っ!?」
ガタッ!
壱号は下あごをストンと胸元まで落とし、口を大きく開いたままで硬直した。
これは「え、マジで?」と言う意味の驚愕を示すスケルトンの合図だ。
「ねぇ、お願いしますよぉ。壱号さぁん」
「カタカタ カタカタカタ」
シンシアとスケルトンメイジが詰め寄り、壱号は後ずさりして壁際に追いやられた。凄い勢いで顔と手をブンブンと横に振っている。
……え。えぇぇぇぇえええ?




