2度目の選択肢 前編
それから4日後。俺達は大祭壇に設置された会議場にて顔を突き合わせていた。
俺はあの後壱号と共に周辺を徹底的に調べたんだが、怪しい痕跡は何も見つけられなかった。
ただ、違和感が完全に消えた訳ではなく……やはり今後、人間側の都市に侵入して情報を持って帰れる人材が必要だな。
俺と壱号は論外。タロスも目立ちすぎるし、多分もう手配書がまわっていると思う。
適任はシンシアなんだが、彼女はまだ単体での戦闘能力が乏しい。いざと言う時の事を考えると不安だ。
才能はあるみたいなので、順調に血を吸って修行を進めていけばいずれ大妖になる見込みがあるらしいが……
せめて霧に化ける能力に加え、コウモリになれる能力を習得するまでは長距離の単独行動は控えるべきだろう。
で、そのシンシアはと言うと……
「うふ。うふふふふ…………」
突然ニヤニヤしだしたり、くるくる回りだしたりして完全に心ここにあらずと言った感じだった……
(あぁ、これはもう恋人同士としか言いようがないですね。こ・い・び・と……なんて……なんて甘美な響き!)
「よ、よぉ……なにかあったのか?」
見かねてタロスが声をかけると……
「やだなー! もう、聞かないでくださいよタロスさん。うぇへ。うぇへへへへへ……」
その様子を見てタロスがハッと顔を青褪める。
「ア、アニキ!? アンタ、前々からちょっとロリコンの気があるとは思っていたが……まさか本当に一線超えちまったんじゃ……」
「待て待て待て! 何の話だ!」
俺の首を掴んでガクガクと揺らすタロス。そんなタロスの服の裾を、シンシアがくいくいと引っ張った。
「うっふっふ。そんなに慌てなくてもそのうちタロスさんにも可愛い彼女が出来ますよ……素人童貞のタロスさん♪」
「……ぐっ!? (シ、シンシアのやつ、どこでそんな言葉を……って! アニキのやつか、あのペド野郎!)」
と、まぁそんなこんなで多少の混乱を含みつつ、会議は始まったのだが……
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パン パン(手を叩く音)
「はい、えー。静かにしてくれ」
ガヤガヤ ワイワイ
「大体。エルバアル様っていつも作戦立てたり外部との交渉に赴いてばっかりで、全然戦闘で役に立ってなくないですか? こないだにしたって……」
「いや、大将ってのはそういうもんだろ……いいか。後方がしっかり仕事してるから前線の兵士がだな……」
「はー。やだやだ。これだから軍隊あがりは。いいですかタロスさん。僕は勇者なんですよ? ゆ・う・しゃ。真の英雄って言うのはですね。敵陣を切り開いてこその……」
ガヤガヤ ワイワイ
「静かにしてください」
ワイワイ キャーキャー
「ねーねー。聞いてくださいよ壱号さーん。ご主人様ったら急に大胆になっちゃってぇ……」
「カタカタカタ!」
ワイワイ キャーキャー ガタガタ
「静かに…… 静かにしろぉぉぉぉ!!!」
ダァン!
まるで話を聞こうとしない面々を、机を思いっきりブッ叩くことで無理矢理静かにさせる。
「……はい! とにかく始めます! えー。今後の展望だが。我々は無事に討伐隊を迎撃する事が出来た。それも敗残兵をほとんど逃がさずに、敵をまるごと飲み込んでしまうと言う大勝利だ」
「わー」
パチパチパチ
「ありがとう。恐らくカーディスに駐屯している正規兵のほとんどを叩ききったと思っていい。つまり、次に敵が来るのは王都や他の領地からの増援が編成し終わってからだ。我々にはかなりの時間的猶予が与えられる。そこで……」
俺は地図の上に置かれた駒代わりの銀貨を、次の目標地であるカーディスの街の上に動かした。
「その前になんとかここを落としたい。バーンシュタイン子爵領の中心都市。カーディス。ここを落とせば子爵領を丸ごと手に入れたも同然だ。人的物資の量も桁違いだし、何より防壁が強固なことで知られている。だが……」
俺は一同を見回した。
「次の戦いでは皆殺しによる決着ではなく、降伏による決着を迫るつもりだ。……そろそろこの戦いの終着点を見据えて行動しなきゃならん。
残念ながら……いや、俺に残念ながらと言う資格はないか。ともかく、今現在俺も王国側も互いに民間人の非戦闘員に手を出してルール無用の無茶苦茶な殺し合いになっている。
だが村単位ならともかく、戦いの規模が拡大してくるといつまでもこんなことは続けられない。じゃないと人類が全て死に絶えるか、俺達が殺されるまで戦い続けなきゃならなくなる」
「まぁ……そうだな」
「だが、講和にあたって俺から外せない条件がある。まず王族、軍の責任者達。宰相など中央の高級役人。そして地方の執政官達。リストに挙げた150人ほどは全員殺す。わかると思うが、全面戦争にはなるぞ。そして何より……」
俺はチラリと勇者に目線を送ってから皆に向き直った。
「サラとシャルロッテ……勇者パーティーの元メンバー。この二人には私怨もあるが、それ以上に戦力的な脅威から絶対に殺しておかなければならない。異論はあるか?」
「ないぜ」
「私もありません」
「カタカタカタ」
「僕もないです」
「そうか……えっ?」
俺は少し動揺して勇者を二度見した。
「いや、お前は何か言えよ。サラはお前の恋人だろうが……」
「え、別にいいですよ。だって若くておっぱいが大きい女なんていくらでもいますもん。恋人だからって一生一緒にいる訳じゃあるまいし…… それより、カーディスを落としたら今度こそご褒美をお願いしますよ? ぐふ、ぐふふふふふ……」
「……っ!?」
「うわぁ……」
「最っ低……」
「カタカタカタ」
俺は絶句した……壱号までもが腕を組んで顔を傾け、不快そうにしている。
唯一、スケルトンメイジだけが興味なさそうに明後日の方向を向いていた……




