戦い終わりて夢語り 後編
(エルバアル視点)
俺は遺跡の近くの簡易休憩所にシンシアを連れて行き、そこでベッドに寝かせて介抱していた。
討伐隊の連中はここを破壊しなかったようだ……と、言うより誰かが使った形跡がある。
「ウェヒ ウェヒ ウェヒヒヒヒヒヒ……」
シンシアはなにやらうめき声をあげていた。
無理もない、相当疲れていたんだろう。苦し気な表情ではないので大丈夫だとは思うが……
「ウェヒ ウェヒ…………はっ!?」
ガバァッ!
「うおぁっ!?」
突然。シンシアが物凄い勢いで飛び起きたのでびっくりしてしまった。
「こ、ここは……?」
「お、おはよう。シンシア。もう具合の方は大丈夫なのか?」
「あれ? ご主人様……? え、え~っと」
俺は、シンシアに彼女が心労で倒れた事。迎撃戦が我々の勝利に終わって今は何の心配もないことなどを告げた。
「……そんな訳だからしばらく何も気にしなくていい。あ、起き上がれるんならリンゴ食べれるか?」
「そうだったんですね……とんだご迷惑を…… あ、すいません。頂きます」
水の入った手桶を渡すと、彼女は顔を拭いて椅子に座った。テーブルにおかれたコップに入った水をコクコクと飲み下す。
そして切り分けられたリンゴを頬張り、キョロキョロとまわりを見回してから尋ねてきた。
「あの、他のみなさんは?」
「あぁ、今タロスが指揮をとって撤収の準備を進めてるよ。シンシアもあとでグール達を遺跡の中に入れてくれ。あいつらに命令を出せるのはシンシアだけだからな」
ちなみに勇者は大祭壇のとこで寝てる。まぁあいつは今回クソの役にも立たなかったので起こさなくていいだろう。
「あ、いけない! 私もすぐに取り掛かります!」
シンシアは慌てて仕事に戻ろうとしたが、俺は彼女の手を掴んで呼び止めた。
「まぁそんな慌てなくていいじゃないか。少し二人でゆっくりしないか?」
「ふ、ふた……!? は、はい……」
シンシアは再び椅子に座りなおすと、手持無沙汰に足をブラブラさせ始めた。
ときおり手をもじもじと組んだり、チラチラこっちを見てきたりしている。
ちょっと無理に付き合わせてしまっただろうか……
まぁ、特に面白い話がある訳でもないんだが。少し聞いてもらいたいことがあったのだ。
「なぁ、シンシア…… いつもありがとうな。俺の出す粗末な食事や、暗い寝床に感謝してくれて」
「と、とんでもないです! そんな。感謝しなければならないのはこっちの方で……!」
シンシアは両手の掌をこちらに向けて、首をブンブンと振って言った。その様子にウソ偽りは感じられない。
「いや、本当のことだよ。 ……俺はもう何も生み出せない。ただ不当に人々から奪いつくすだけの存在だ。だが、そんな汚れた手からでも……お前は嫌な顔一つせずいつも幸せそうに受け取ってくれる。
初めて会った時からそうだ。お前は本当によく私のもてなしを喜んでくれた。俺は嫌われ者だったから、それが嬉しくてな……」
「え? ……え? だって、そんなの当たり前じゃないですか? 施しを受けて嫌がる人なんていないと思いますけど……」
「それは違うよシンシア。 誰もが俺と一緒にパンを食べる権利よりも、同じ金額の銅貨の方を欲しがる。銅貨ですら俺から手渡しで受け取るよりも、金だけ置いて立ち去ってくれる方を望む。
俺と言う存在そのものは無い方がいいんだ。この姿になる前からもずっとそうだった。俺を利用しようとするヤツはたくさんいたが、俺を受け入れてくれる人間などいなかったんだ」
……いや、1人だけ例外がいたっけか。
今になってわかる。結局俺も……あの頭のおかしい魔女と一緒なんだろう。
例えどんなに世界から嫌われても。誰かに喜んで欲しい、自分を受け入れて欲しいと言う願いを消しきれないでいる。
「そ、そうでしょうか……私はご主人様からもらったらなんだって嬉しいと思いますが」
「なぁ。前からそれが不思議だったんだよ…… どうしてなんだ? なにか理由があるのか?」
「え…………」
シンシアは目を見開いて硬直した。少し紅く染まった頬と、八重歯みたいに覗く吸血鬼の牙が可愛らしい。
「そ、それ聞いちゃうんですか?」
「え?」
「こ、後悔しませんか?」
「なにを?」
「私、知ってるんですよ…… ご主人様が本当はヘタレだってこと。どうせいざとなったら「娘みたいなものだと思っていた」とか言って逃げちゃいますよね?」
「…………???」
突然会話が噛み合わなくなってしまった。この子は何か俺の知らない事を知っているんだろうか?
「す、すまない。俺にもわかるように……」
「はー……」
俺の質問をシンシアはため息で遮ってしまった。上下関係を重んじる彼女にしては珍しい行為だ。
「いいんです。忘れてください。その代わり…… 抱っこしてもらえませんか? それでこの件は保留にしてあげます」
そう言ってシンシアは両手を差し出して抱きついてきた……
まだ少し寝ぼけてるんだろうか?
「………………」
シンシアが少し頬を赤く染めて上目遣いで覗き込んでくる。
俺はただ彼女を優しく抱きかかえて頭を撫でた。
優しい風が頬を撫でる。
東の空は徐々に青みを帯び出していて、もうすぐ朝日が昇ろうとしていた。
アンデットになり、太陽を忌み嫌う存在になっても。まだこんな光景を美しいと思える心が残っているのか。
「ねぇ、ご主人様…… 私、幸せです」
「………………」
シンシアは目を瞑ったまま、体を預けて夢見心地だ。
お尋ね者の山賊。明日には俺と一緒に殺されているかもしれない身。それでも彼女は優しく微笑んでくれる。
「なぁ、シンシア。次の作戦で大きな街を襲おうと思うんだ。カーディスの周りには農場も牧場もあって、中央には川が通ってる。そして何より立派な城壁がある。
あそこを占拠して軍勢を配備してしまえば、もう王国だって迂闊には手を出せない。そうしたらもう、こんなジメジメした穴倉でお前達を寝かさなくていい。
想像してみてくれないか。毎日甘くて香ばしいパンの匂いを嗅ぎ、フカフカのベッドで寝る生活を…… そして毎日綺麗なドレスを着て、一緒に夜の街をねり歩くんだ」
「それは……フフッ。とっても素敵ですね。夢みたいです」
お尋ね者の山賊が王になる。そんなあまりにも荒唐無稽な夢物語。
だが実際にあったことだ。海の向こうには巨大な島があり、そこには海賊達の作った国があるらしい。
彼らは街道を整備し、学校をたて、軍隊を作り。そして歴史を作った。今ではもう誰も彼らのことを海賊の子孫だなどと言ってバカにする者はいない。
俺達も今はただの山賊だ。だが、もし……もしも俺達も同じように力を持つことが出来たなら……
「……お前に俺達の国をくれてやろう。そして世界にお前達の価値を認めさせてやる。そしたらもう誰にもバカにされることはない。堂々と前を向いて歩いていける。
だからどうか勝利の暁には喜びを分かち合ってくれ。初めて会った時、美味しそうにリンゴを頬張ってくれた時のように……」
「……うまく務まるでしょうか。私、ちっとも可愛くないのに……」
「そんなことはないさ…… お前は本当に可愛いんだ……」
シンシアの頬を撫でると、ツーっと涙が一筋零れ落ちた。
「そんな…… ズルいです、私…… 本気にしちゃいますよ?」
「あぁ、期待しててくれ」
「もう、ホントに……ご主人様なんだから……」
優しい時間が二人を包んでいた。
今こうしている間にも……王国中の兵士たちが、俺達を殺すために動き出していることを忘れてしまいそうになるくらいに。
……嵐は……まだその姿を見せていない……
一方その頃
ミー「マ、マグダレーネ様。大変ですニャ! 早く出番こないと取り返しのつかないことに……」
魔女「うわぁあ!? え、選べぇ! 次の選択肢で私を選ぶんだぁぁ!
魔女ビーーーーーーーーーーム!!」
ミー「届けー!」
なんてやり取りがあったとかなかったとか……




