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討伐隊迎撃戦 2

(エルバアル視点)


「そろそろ行こうか」


 迷宮の奥の大祭壇で俺達は待機していた。

 バリケードが破壊される音が段々と近づいてきて、出撃の旨を告げるとタロスが顔をあげる。


「おう。そんじゃぁ一発かましてやるとしますか、ね」


 立ち上がるタロスは先端に三日月状の刃を取り付けた丸太を抱えていた。


 テスタロッサ……


「赤頭」と名付けられたその丸太は、これからその名の通り先端を真っ赤に染めるのだろう。



 今頃討伐隊の連中は気持ちよく侵攻してきてくれているのだろうか。

 初めに少しだけビックリしてもらい、入口付近でウンザリするほどのバリケードを撤去してもらい。

 それが奥に進めば進むほど徐々にバリケードの間隔が広くなっていって、罠が粗末なものになっていく。


 面倒な作業を片づければ片づけるほど、仕事が楽になっていくのだ。

 そんなちょっと良い気分を味わってもらうための心ばかりのアトラクション。

 少しは調子に乗って油断してくれてるといいんだが……




 俺達はタロス、俺、7体ほどのスケルトンの順に隊列を組んで廊下を進んでいった。

 他の連中はとある事情があって、勇者以外は全員出払っている。


 今回シンシアと壱号が偵察にまわってくれたおかげで、敵陣にサラとシャルロッテがいない事は知っていた。

 吸血鬼の能力を手に入れたあと、シンシアは霧に化ける能力を使って偵察員として本当によく働いてくれた。


 そんな訳で今回はもう思い切ってタロスに何もかも任せてしまうつもりでいたのだ。

 流石に遺跡から打って出て包囲された状態で戦うと面倒くさいが(と、言うか俺が死ぬ)、この狭い通路でタロスを抜けるヤツがいるとは思えなかったからだ。


 なので、とにかく敵に奥へ奥へと入り込んできてもらう。考えていたのはそれだけ。

 あとは誰も通さないように狭い通路でタロスが前衛を務め、俺が後ろから回復する。

 たったそれだけの雑な作戦だが、得てしてこういうものは単純で強力なものの方が厄介だったりする。

 


 それに、決戦の前に言われた勇者の言葉が気になるからな。

 いや、決して気にはしてはない。断じて気にしてはいないのだが……



『なんか……最近エルバアル様って影薄くないですか? 全然活躍してないですよね?w』



 いや、まぁ、その、なんだ…… お、俺には回復魔法があるから……

 まぁ、そのこととは全く関係ないのだが。とにかく今回はタロスが前衛で俺が回復。それ一本でいくことに決めていた。



 ……思いもよらず考え込んでしまったな。

 ふと顔をあげるとタロスがクックックと含み笑いを漏らしていた。



「なにがおかしい」


「いや、なぁに。こうやって心の底から誰かに背中を預けて戦うのは初めてだなぁと思ってよ……」


 そう言ってタロスが振り返る。

 そう言えば俺もこんなに誰かを信頼しきってるのは初めてだな……

 今だってこいつが裏切れば俺の体なんてたちまち粉々にされてしまうだろう。

 だと言うのにそういう恐怖感は全く感じない。


「頼りにしてるぜ。アニキ」


「任せろ。俺は世界一の回復術師だ」


 こうして俺達は遺跡の中を進み。ついに討伐達の連中と対峙した……



----------------------------



「やぁ、いらっしゃい」


「撃てぇぇぇ!!」


 

 曲がり角を曲がって相対すると、敵は顔色も変えずに問答無用で撃ってきた。

 前衛の重戦士達の前で罠の哨戒にあたっていた工兵と、隊列を入れ替えることすらせずにだ。

 咄嗟に伏せた工兵たちの頭上を、真っ赤な火球が次々と襲いかかってくる。



「ふむ、良い反応だな。人を殺すことに慣れているようだ」

 


ポフ ポフ ポフ ポフ


 俺の張った防護結界に触れた火球が次々と吸い込まれて消滅していく。

 物理攻撃ではない魔術による遠距離攻撃には、魔法によって対抗する事ができるのだ。


 本来は地面に結界を描いてからでないと発動出来ないものだが、俺は何もせずに無詠唱で即座に発動する事が出来る。

 一応効果範囲も最高位の宮廷魔術師の10倍くらいは広い。



「なっ!!?」


「か、構えろぉ! 押しつぶせぇ!」


 通路を大楯で塞ぐように立っていた重戦士達が、流れるような動きで左右に分かれて中央に道を作る。

 一糸乱れぬ動きでその中を工兵たちが後退していき……後ろの方でも槍兵と魔術師達が交代しているようだった。


 この辺の動きはやたら練度が高いな……特に前衛の連中はやけに装備が良い。盾に紋章が入っているし、本物の騎士なのかもしれない。



「殺っていいか?」


「あぁ……ぶちかましてこい」


 まるで闘牛が突進の前に頭を下げるように、タロスがテスタロッサを下段に低く構えて突きの姿勢をとる。

 これから襲いくる衝撃を大雑把にでも予想出来たものはいなかったと思う。

 なにせ、丸太の激突をその身に受けた経験のあるものがそもそも少ない。そしてそのほとんど全てが死んでいるからだ……



 タロスが助走をつけて突進する。息を呑む討伐隊の騎士達。

 そして……両者が激突した。


 重く、腹に響く激突音。

 重ねて響くは、金属の引きちぎれる耳障りな断末魔。


 大楯を構えた騎士は激しい衝撃とともに弾き飛ばされ、壁にぶつかってから床に叩きつけられた。

 苦悶の表情を浮かべながら恐る恐る開かれたその眼が、驚愕と恐怖の色に染められる。

 きっと……驚いたのだろう。

 上半身を失った自分の下半身が、血を噴き出しながら立っていたのだから。



「ぎゃぁあああああああああああああああ」


 テスタロッサは止まらない。押し負けないように重なった肉と鉄の固まりを次々と切り裂いていく。


 直径30cm、長さ2mの樫の丸太の重量は130kgにも及ぶ。先端の刃も合わせればおよそ150kg。

 一般的な槍の重量が5~8kg程度であることを考えれば、これがいかに狂気じみた値であるか伺いしれるだろう。

 こんなもの、誰も止められる訳がない。人間の耐えられる衝撃ではないのだ……



「っしゃぁ! いっちょうあがりぃ!」



 そこから先は無茶苦茶だった。

 隊列を乱された工兵や魔術師達が接近戦でタロスに敵うはずなどない。


「うわぁぁぁぁぁ!?」


「さ、さがれぇ! どいてくれぇぇ!!」


 逃げ惑う討伐隊の連中。

 だが狭い通路でパニックを起こして全速力で駆け抜けようとしたことで、かえって通路を塞いで遅くなってしまう。



 ……タロスが次々と敵兵の頭を掴んでは壁に叩きつけていく。



 俺は、これほどの男が何の評価もされずに腐っていたことがいまだに信じられない。

 タロスの身の上の話は聞いている。だが、ハッキリ言って俺だってまともな上司じゃない。

 俺についてきたせいで、こいつは一生、人の世に背を向けて生きていかなくちゃならなくなってしまった。


 だからこそ立ち止まる訳にはいかない。

 人間達の社会で日陰の道を歩んできたこいつらのためにも……いつか月と太陽をひっくり返すその日まで!




「いけ、タロス……お前こそが最強だ」



 怪力のタロス。


 不死身のタロス。


 ヤツは誰よりもバカにされてきた。


 だが……それを補って 余りあるほど強いのだ……

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