討伐隊迎撃戦 1
そしてノープル村の大虐殺から一か月余り……ついに決戦の日は訪れた。
迎え撃つエルバアル軍の陣容はスケルトン67体。スケルトンウォーリア1体。スケルトンメイジが1体。
それらを率いるはエルバアル、シンシア、タロスの3人。更には切り札として近隣住民の魂400人分と勇者マルスを温存させている形となる。
対する討伐軍は総勢500。数だけを見ればそれほど大軍には見えないだろう。
だが騎士15名及びその従者30名を中核とし、国中から金で集めた32名の魔導士部隊。4名の回復術師。
更には100名近い専門の工兵部隊を擁する、地下掃討戦に特化した精鋭部隊だ。
これは農民混じりの一般的な雑軍3000人分に匹敵する戦力である。
率いるはトーラス・バーンシュタイン。
領主代行の任にかかりっきりで身動きのとれない騎士団長のアリエスに代わり、討伐隊の総指揮を任された白鯨騎士団の副団長であった……
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決戦の様子について記す前に、少しだけトーラスについて語らねばならない。
トーラスは侯爵家の三男として生まれ、裕福な環境でお金には不自由なく育った。
だがあまりの才覚のなさに要職につくことは出来ず、しがない補給部隊の隊長の任についていた。
ある日、彼の元にとてつもない怪力の大男が配属される。
大男はタロスと名乗り、持ち前の怪力を活かしてメキメキと頭角を表しだした。
なにせその力の強いことといったらもう。ぬかるみにはまって横転した荷車を、1人でひっくり返し直してしまうほどだったのだ。
トーラスは嫉妬した。自分より目立つ稀有な才能の持ち主と言うものがとにもかくにも気に入らない。
それは、幼い頃から天才の妹と比較されて育ってきた彼の、根深いコンプレックスの故だったのであるが……
彼はまずタロスが運搬に関わったり当直にあたった備品を自分で横領し、その事で帳簿と数が合ってないと言って厳しく追及した。
念入りなことに、連帯責任としてタロスの同僚たちにも体罰や減給処分を言い渡す徹底ぶりであった。
同僚たちも巻き添えを喰らってはたまらないと、次第にタロスから離れていった。
トーラスは人望こそなかったものの、気に食わないことがあると相手の家族にまで容赦なく手を出す残忍さで恐れられていたのである。
さらにいじめは加速する。なんか面白いことをやってみせろと無理難題を押し付けては、大勢の前で恥をかかせてバカにする。
「あぁ、そいつぁどうもすいません」「おっとと、こいつぁいけねぇや」
タロスは特に気にした風もなく、ただただ飄々と耐えた。相手が反撃出来ないと思い込んでいたトーラスは、その様子をバカにするのが何よりも愉快であった。
有能な兄達や天才の妹を見返してやることなど出来はしないと思い込んでいる。だが復讐の対象に全く無関係の人物を選ぶということは、往々にしてよくあることだ。
兄妹達と同じく、稀有な才能を持つタロス。トーラスはタロスに自身のコンプレックスの相手を投影し、けちょんけちょんにやっつけた気になっていた。
そして事件は起こる。
その日もトーラスは無理矢理開いた酒の席でタロスに絡んでいた。
まずお決まりの文句で容姿をバカにし、食べ方にケチをつけ、話し方を嘲笑する。
侮辱の対象はやがてタロス自身からタロスの母親へと移っていった。
『しかしこんな大男をひりだすなんざ、お前の母親もとんだガバマンの売女だよなぁ。どうせガキの頃から身売りばっかしてたからロクな教養もないんだろ? ほれ、スープ飲む時の肘の角度が違うって言ってんじゃねぇか」
トーラスにとってはいつもと同じ何の根拠もない口から出まかせの罵倒。
だが、タロスは激怒した。
人は、本当のようで真実と違うことを言われた時に激怒する。
タロスの母親が娼婦だった事は事実である。だが、元からそうだった訳ではない。
夫に先立たれた後、残された自分達を養うために母親が頑張ってくれていたことを彼は知っていたから……
「お前 今なんつった?」
トーラスはその問いに答えることが出来なかった。
顎を掴まれた時にはもう砕けていたのだから……
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こうしてトーラスは半殺しにされ、全治半年間にも及ぶ重傷を負うことになった。
トーラスは実家に泣きついてタロスの行方を追ったが、彼は既に山賊に身をやつしていて消息は掴めなかった。
そんな彼にも転機が訪れる。
妹が魔王討伐の勇者パーティーに抜擢され、見事その任を果たして子爵位を叙勲されたのである。しかも子爵と言っても実態は辺境伯なみの待遇であった。
トーラスはここぞとばかりに父親のコネを使い、妹の名を勝手に騙り。更には実家の財力を担保にして騎士の位を買い付たばかりか、妹の留守のどさくさに紛れて自分を副団長の地位に滑り込ませたのである。
トーラスは浮かれていた。権力に酔っていた。
人をアゴで使うのが楽しくてたまらなかったのだ。
討伐隊はトーラスの命令で遺跡の奥へと進む。
階段はところどころ砕かれており、油が撒かれていた。
ワイヤートラップなどは切断してしまえば処理も楽だが、こういう地味な嫌がらせは始末が悪い。
工兵たちが小麦を撒いて油を吸わせてから丁寧に回収していく。
安全を確保して隊を組んで階段を下っていくと、突然急に側面の隠し扉からスケルトンが現れた。
石壁を砕いて穴を掘り、中にスケルトンを待機させたうえで表面だけを組みなおしておいたのだ。
突如、大量の石球とともに隊列の真ん中に現れたスケルトン。
何名かの兵士が落下に巻き込まれて重傷を負い、何名かの兵士が死亡した。
だがそれだけの事だ。奇襲に使ったスケルトンは破壊され、何度も同じ攻撃が出来る訳ではない。
罠と言うのは基本的には、一度かかってしまえばその時点で効力を失ってしまうものが大半である。
討伐隊は奥へと進んでいった。
ありったけの干し草を燃やした大量の煙を回復術師達が無効化し、レンガをくみ上げたバリケードを魔術師達の一斉射撃が破壊する。
バリケードを挟んでの撃ち合いは守備側が圧倒的に有利と思われたが、なにせ魔術師の数が違った。
前衛を務める重装備の騎士が大楯を構え、工兵が罠を解除し、魔術師が撃ち合いを制する。
罠というものはどんなに意表をついたとしても、一度発動してしまえば効力を失ってしまうものが大半である。
バリケードを崩され、穴を埋められ。どんなに頭を潰しても次々と押し寄せる人海戦術の前に、いずれ迷宮は陥落するはずであった。
そう。あの男さえいなければ……




