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吸血鬼の夜 後編

 ありのまま今起こった事を話そう。

 「耳を貸してください」と言われて屈んだら、頬っぺたに柔らかい感触があった。


 …………なにがなんだかわからない。いや、わからない事は後で考えよう。

 今はとにかくシンシアが無事に進化出来るか見届けなければならない。


「そ、それでは吸うが……よいのだな?」


「くっくっくっ……殺せ~。私を殺してください~」


「いや、死ねぬぞ。不死になるのだからな」


「大丈夫。痛いのは一瞬のはずだ……と聞いている」


 吸血鬼に噛まれる際、体液が甘い麻酔のような効果を発揮して痛みはほとんどないらしい。

 だが、俺自身が吸血鬼になった経験がある訳じゃない。人伝えに聞いただけの……ただの気休めだ。


 シンシアが俺に振り返る。彼女は瞳に深い闇をたたえていた。

 なんて暗い目をしているんだ……これが……永遠に夜と共に生きる決意をした者の覚悟!



「では……」


 カーミラの唇がシンシアの首筋を覆うように吸い付く。

 そして……牙が突き立てられたのだろう。


プツリ



「…………ふぐっっっっっ!?」


 突然、シンシアが目を見開いた。

 やっぱり痛みは無いなんて迷信だったのか!?


「どうした、シンシア! 痛いのか!?」



 シンシアは大きく目を見開いたまま口に手を当ててブルブルと顔を横に振った。



(な、なにこれ……!??! き、気持ち良す……ぎぃっ!!?)



「……んん!! ……ぎ……う……」


 シンシアは足を突っ張らせて背中をのけ反らせた。

 咄嗟に背中を抱えて顔を覗き込む。これ、本当に大丈夫なのか?

 舌噛んだりしないだろうか!?



「ご……しゅじ……か……お……」


「大丈夫シンシア!? そんなに痛いのか!?」


 シンシアはぎゅっと服の裾を掴んで息を荒くしている。



「頑張れシンシア! ヒッヒッフー! ヒッヒッフー!」


「あ”……お”……(ち、ちがう。顔……見ないで。見ないで!)」


 シンシアは左手で口を押さえて必死に痛みに耐えていた。

 右手を握ってあげて俺も必死に励ます。


チュー チュー ペロペロ ゴク ゴク


「頑張れ! もうちょっとだぞ!」


 シンシアは小刻みに体を震わせて必死に痛みに耐えている。



(だ、だめ。もう……もう……ひぐぅぅぅぅぅぅ!!!)



「ん”ん”ん”ん”!!!!!!!!!」(※ 血を吸われてるだけです)



 シンシアは口を押えたままビクビクと体を痙攣させて声にならない絶叫をあげた。



------------------------------------------------




「プハー! うまい! コクのある濃厚な黒歴史をベースにして、清純な外面に包まれた持て余し気味の欲情がシュワーっと弾けるようじゃ。凄まじい魔力を感じるぞ。 こやつはいずれ吸血鬼として大成するだろうな!」


 カーミラが首から口を離して満足気にケフっと息を吐いた。


 シンシアが荒く息をついたまま上半身を起こす。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


「良かったなシンシア! 才能あるらしいぞ!」


「うむ! 我が太鼓判を押してやろう!」


 そしてシンシアはよろよろと立ち上がった。まだ息は荒く、体力を消耗しているのがわかる。


「ハァ、ハァ……」


「さぁ、あともうちょっとだ。カーミラの血を吸って完了だぞ!」


「うむ! どんとくるがよい!」


 カーミラが腕を組んで待ち構え、俺はシンシアを励ましながら肩にポンと手をのせる。そして次の瞬間



ペシッ!



 一瞬、何が起きたかわからなかった。

 あのシンシアが……無言で俺の手を払いのけたのだ。


ユラリ


「……お前の……せいだ……」


 揺れる動きはまさにグールのそれ。だが、その迫力は最高位の吸血鬼をもたじろがせた。


「見られたぞ……まだ……ちゃんとキスもしてないのに……イッてるところ……」


「お、おい。ポコ? な、なんだかこやつ。目が恐いのだが?!」


 カーミラが一歩後ずさりすると、同じくシンシアが一歩間合いを詰める。そして徐々に差は縮まっていった。


「お、おい? シンシア? ……さん?」


 今の彼女に俺の声は届かない。


「…………許さん…………!!」


「ちょ! 吸うのは少しでよいのだからな? 優しくだぞ? やさし…… ッアーーーー!!!」


ズブゥ!!


 生えたてのシンシアの牙がカーミラの首に深々と刺さった。

 あまりの激痛(?)にカーミラが舌をつきだして白目を向いて痙攣する。




「おごぉぉぉぉぉ!! す、吸われる! われの! 我の魔力がぁぁぁぁぁ!!!!?」



ゴックゴックゴックゴック!


 ちょ、大丈夫かこれ。吸い過ぎじゃないか!?


ヂュゥゥゥゥゥゥ!!


 大量に血を吸われてカーミラが崩れ落ちた。


 シンシアが牙を離してケフっと息を吐く。



「お、おたすけぇぇぇぇ……」


 カーミラが背を向けて逃げ出す。だが、歩くこともままならないのか、四つ這いでよろよろとハイハイを覚えたての赤ん坊のようになっている。


「待てぇ……」


ガシッ


 追いかけるシンシアがカーミラに手を伸ばして……えっと……パンツを掴んだ。


ズルゥッ! プリンッ!


「ヒィッ!?」


 白い臀部があらわになり……


ガブッ!


「んひぃぃぃいぃぃぃぃ!!?」(※ 血を吸われているだけです)



 牙が突き刺さったところから赤い血がにじみ出て……まるでへびのようにシンシアの赤い舌先がチロチロとそれを舐めとっていく。



「んひっ! ひっ! ち、チロチロすりゅなぁぁぁ!!」



 カーミラは上半身を支える力もないのか、顔を地面につっぷして尻を突き出したままビクビクと痙攣している。もはやシンシアのなすがままだ。


ゴロン


「にゃ、にゃにを……」


 シンシアは牙を離すと、カーミラをひっくり返して両膝を開かせた。そのまま中央に顔が近づいていく……



「や、やめ……そ、そんなとこから吸って……吸ってしまっては……!!」




 あ、今更だけどこれは……俺が見ていいものなんだろうか?

 俺は反対の方を向いて三角座りになると、両耳を塞いで素数を数えだした。





「ひぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」(※ 血を吸われているだけなのでやましい事はありません)




 背中の方からカーミラの絶叫が聞こえてきたような気がしたが、俺には何も聞こえない。

 なぜなら俺は素数を数えていたのだから……



------------------------------



「ハァ、ハァ、ハァ…………ハッ!?」


 突然、我に返ったシンシアが勢いよくこちらに振り向く。


「あ、あの……御主人様!」


「はい、なんでしょう?」


 特に意味はないのだが、無意識的に顔を背けてしまった。


「わ、私途中から訳がわかんなくなって……ハァ、ハァ……もしかして、とんでもなくはしたないことを……」


 顔を上気させて尋ねてくる。まだちょっと目が恐い。


「んん? すまないが私にはわからないな。素数を数えていたものでね」


「素数を……そうですか……」


 あぁ、良かった。素数を数えていて。


 なんとかこっちは切り抜けられそうだ。問題は……



ピク……ピク……ピク……


「おーい。生きてるか~?」


 それから俺達は……

 この、白目を向いて両手でピースサインを作って痙攣する偉大な吸血鬼の介抱に半日近くを要した……

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