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吸血鬼の夜 中編

(エルバアル視点)


 礼拝堂を抜けて墓地へと入る。

 管理する者はとうに亡く、伸びきってしまった草がところどころ立ち枯れしている。


 その中の一角。墓石の無い墓を掘り返すと、鉛の棺がでてくる。

 苦労して重い蓋を外し……そしてついに俺達は目的の人物と対面した。


 



「くぅぅぅぅぅ。すぅぅぅぅぅぅ。ぴぃぃぃぃぃぃぃぃ」


 棺の中にはちんちくりんの金髪幼女が横たわっている。

 ……相変わらず生前のクセで呼吸の真似事なんかしているのか。鼻提灯まで作って……


 俺は水筒の水でハンカチを濡らすと、そっと彼女の口と鼻のうえにそれを被せた。


「ふぐっ……ぬ……ぅ……び…………ぶはぁぁぁぁっ!? かぁ、ぺっぺっ! こ、殺す気かぁ!!?」


 突然彼女は髪を振り乱して跳ね起きた。目覚めは良いようだ。


「おはようカーミラ。目覚めは良いようだな」


「な、なにものなのだ貴様! 我は黒い骸骨に知り合いなんぞおらぬのだがな?!」


「俺だよ俺。ポコだよ。まぁちょっと聞け」


「……はぁぁ? ポコォ???」


 そして俺はカーミラにこれまでの経緯を話した。






「ぶひゃーっひゃっひゃっひゃ! そ、それでお主、仲間に裏切られて惨殺された挙句。一族郎党皆殺しにされたと言うのか!? ざまぁぁぁぁぁぁぁwwwwwwwww」


 俺の話を聞いてカーミラは笑い転げた。俺の顔を指さし、目には涙を浮かべ……って、笑いすぎだろこいつ!


「やかましい! 笑いごとじゃないんだよ」


「ふひひ、す、すまぬ……プー、クスクス。 だが、話はわかった。王国の連中とかつての仲間に復讐したいと言う訳なのだな?」


「まぁ……そんなところか……」


「よし、久々に笑かせてもらったことに感謝しよう。それでは我は寝るのであとは頑張ってくれ。じゃあの」


 そう言ってカーミラが再び棺の蓋をしめようとしたので、俺はムカついて棺に蹴りを入れた。


ガコッ!


「なにをする! 我はこれから寝るのに忙しいのだがな!」


「いいから聞け! ただで協力しろとは言わん…… これから俺達は定期的に集落を襲うようになる。その中から特別に美しい処女がいたらここに連れてこさせる。最低月に1人以上は約束しよう。それでどうだ?」



 俺の提案を受けて、カーミラは渋面を作って考え込んだ。


「う、う~む。それは確かに魅力的ではあるが……だがしかし……」


「なんだ? なにかここを離れられない理由でもあるのか?」


「いや、そういう訳ではないのだがな……正直に話すから怒るでないぞ?」


「ん? あぁ、勿論だ。どうしたんだ?」 



「我……お主に協力するのめんどくさい……」



 ………………殺すぞこいつ。

 

 いや、ダメだ。こんなのでもドラキュラに次ぐ高位の吸血鬼なんだ。一個大隊連れてきても勝てる相手じゃない。


「はぁ…………わかった。もうお前には頼まん。だが、あの子が吸血鬼になれそうかどうかだけでも見てやってくれないか?」


 そう言って俺はシンシアに向かって手招きした。万一の時のことを考えて物陰に隠れさせていたのだ。



------------------------------------------------


(シンシア視点)



「あ、あの。初めまして……」


 こうして私は件のカーミラさんと相対しました。

 それにしてもなんて可愛らしい人なんでしょう……

 満月よりも黄色い金色のストレートロングに、お人形さんみたいな黒のゴシックドレス。

 身長は私よりも更に小さいのですが、それと尊大な態度がミスマッチしてもう……抱きしめちゃいたい可愛さです。


「ほう? …………ほうほうほう?」


 先ほどまで御主人様のお話に訝し気な顔をしていらっしゃったカーミラさんが、私を見た途端急に瞳を輝かせて歩み寄ってきました。


「なるほどなるほど……ふむ、ちょっと嗅いでみてよいか?」


「ん? 構わんぞ」


 一瞬、この二人が何を話しているのか理解できませんでした。そして次の瞬間、いきなりカーミラさんが私の首筋に鼻先をくっつけて匂いを嗅ぎ始めたのです。


ピトッ スンスン スンスン


「へっ!? ひっ! うっ……!」


「ほほう、これはこれは。なるほど、なるほど……」


 スンスン フンフン スンスン

 

 カーミラさんの鼻先は私の首筋からキャミソールの肩紐を通って肩、脇へとまわり……その、ふ、服の中にまで入ってきます。


 スンスン スンスン


「あ、あの御主人様!? こ、この方いったい何を……ひっ!?」


「あー、大丈夫大丈夫。気にするな」


 気にするなと言われても無茶というものです。くすぐったいのです!




「ハァ……ハァ……」


 その後、散々色んなところの匂いをかがれてからようやく私は解放されました。


「うむ……まだ覚醒してはおらぬが潜在的な魔力は相当高い。魅了の魔眼を使うのに申し分ない容姿。そしてなにより……幼いながらも心に闇を宿しておる」


 カーミラさんはうんうんと頷いています。私はその間に息が荒くなってしまっているのを誤魔化そうとして必死でした。


「合格だな。文句のつけようがない。これだけの逸材であれば……我が直々に進化の儀をとりなしてやってもよいぞ?」


「ほんとうかっ!?」


 御主人様はそれを聞いて、それはもう渾身のガッツポーズをなさいました。恥ずかしかったけど、嬉しそうなご主人様を見て少しだけ報われた気分です。




「では早速始めるとするぞ。お主、吸血鬼に進化する手順は知っておるのか?」


「え、えっと……確か吸血鬼の人に血を吸ってもらって、反対に血を吸い返せば良いと……」


「なんだ、知っておったのか。では舌をだすがよい」


「はい…………え、舌?」


 なんだかまた嫌な予感がして私は聞き返しました。なぜ、舌を……?


「ふっふっふ。なんだ、聞いておらぬのか? グールにする時はどこでもよいが……女同士で吸血鬼に成る時は、舌に牙を突き立てて唾液を流し込むのが慣習なのだぞ?」


「え、そ、それじゃあ口と口が……」


「うむ、がっつり絡み合うな!」



 ……………………



 どうしましょう…………大ピンチです…………



 私の体はお世辞にも清らかなんて言えません。お尻には屈服させるための烙印まで押されています。

 でも、だからこそ……僅かに残された乙女の部分。それだけは大事にしたかった……


 私は思わずご主人様の方を振り返ってしまいました。

 でも、なんと声をかければいいのでしょう?



『初めてのキスはご主人様としたいので、私とチューしてもらっていいですか?』



 ……駄目です。言い切る前に絶対に死にます。絶対に! 死にます!!!


 大体、私にとっては初めてでも、御主人様からすれば私とキスする理由なんて何もないのです。


 

 あぁ、でも、でも……このままじゃファーストキスの思い出が女同士の結構がっつりいっちゃう系のディープキスに塗りたくられてしまう……



 そして私は禁断の扉に足を踏み入れてしまいました。

 例え悪魔に魂を売ってでも、この瞬間だけは後悔する形にしたくなかったのです。



「あ、あの御主人様! 大変恐縮ですが……お耳を貸していただいてよろしいでしょうか?」


「ん?」


 御主人様がしゃがんで高さを合わせてくださいます。

 これから私がする事は明らかな不敬行為です。

 御主人様は子供に甘いので許してくれるかもしれません。でも、それに甘えるつもりはないのです。

 罪を背負う覚悟とともに、本当に欲しいものへと手を伸ばす……



チュッ



「…………へっ?」


 左の頬骨にそっと唇で触れる。こんなのがファーストキスなんてただの詭弁でしょう。

 それでも構わない。だって世界中の誰がなんと言おうと。私は胸を張ってこの思い出の価値を誇れるから!


「失礼しました! もう悔いはありません!」


 私は踵を返してカーミラさんの元へと駆け寄りました……



-----------------------------------------



「お待たせ……しました……」


 目を閉じて口を半分開けて、舌を突き出します。

 本当はまだ少し恥ずかしい。でも大丈夫。私には思い出が……


「……お主はなにをしておるのだ?」


「……ふぇ?」


 カーミラさんはまるで不審者を見るような目で私を見つめていました。一体どういうことでしょう?


「え、だって。口から血を吸うって……」


「冗談にきまっておるだろう? お主は吸血鬼を変態かなにかだと思っておるのか?」



 …………………


 …………………


 …………………


 …………………


 にぎゃぁぁあぁぁぁぁ!! なにしてくれてんですかぁぁぁぁ!!!


「ご、ごしゅじんさま! さっき! さっきの記憶を消してくださいぃぃ!」


「え? いや……大丈夫。可愛かったぞ」


「そういう問題じゃないんですよぉぉぉぉぉぉ!!」


 一生大事にしようと決めたキラキラな思い出が!

 一瞬にしてただの勘違い。恥ずかしい黒歴史にぃぃぃぃぃ!!!





(…………死にたい……)



 この時の私はもうどうにでもなれと思っていました。

 でも、黒歴史はまだ幕をあけたばかりだったのです……

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