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お菓子の家の魔女 後編

 やがて演奏は終わり、動物達はそれぞれの家に帰る。

 お菓子の家は自身の姿を未だに覚えないが、適当な大きさにさえ戻ればそれを咎めるものは誰もいなかった。


「んっふっふ~♪ やっぱ好きだなぁ、こういうの。あ、おかわりいる?」


「あ、すまんな。ありがとう」


 テーブルに座って紅茶を飲んでいると、魔女が頬杖をつきながらニマニマと眺めてきた。


「ねぇ……こうしてるとなんだかドキドキしてこない?」


「ぶっ!!?」


 思わず紅茶を噴き出す。


「お、おまえ! 何を入れた!!?」


 だがもう飲んでしまっている。慌てて抗議の声をあげると、魔女が心外そうな顔をした。


「あー! ひっどーい! そういうのじゃなくてー。良いムードだねって言いたかっただけなのにー」


「…………本当だろうな……」


 あれは忘れもしない5年前。当時黒魔術に凝りだしたマグダレーネがチョコレートに自分の血を混ぜたのだ。

 そうとは知らず口にした俺達は……膨大な魔力塊を体内に入れた事で三日三晩強烈な魔力酔いに晒され、生死の境を彷徨った。

 結果。死亡4人。動物に変身したのが1人。怪物になってしまったのが1人。無事に生還出来たのは俺だけ……

 のちに「血のバレンタイン」として語られる凄惨な事件は、未だに俺の精神に深い傷跡を残している。



「ぶーぶー。デリカシーのないお兄ちゃんでちゅねー」


 そう言って彼女は黒い骸骨のぬいぐるみの手足を閉じたり開いたりした。いつの間に作ったんだ……



「…………なぁ……」


「ん?」


「……いつまでこんな生活続けるつもりなんだ? 別に姿を変えたり魔力を隠したりなんて造作もないことだろ?」


「ん~。そうだね~……」


 魔女はぬいぐるみの上にあごを乗せて天井を見上げた。

 彼女の美しい黒髪に窓からの日差しが反射して、柔らかな光沢が輝いている。


「人間の中に紛れ込む事は出来るよ。でも、それじゃ私は私だって名乗れない。ウソをついて誰かに認められても、それで認められたのは私に関係のないただの張りぼてなんだよ。

 だから私はずっとここで待ってるの。いつかありのままの私を受け入れてくれる人が現れるまで……」



 ……そうやって彼女はどれほどの月日を待ちぼうけしてきたのだろう。

 年頃の少女のままの精神を、時のさざ波にさらし続けながら。


「だから私は自分の見た目を魔法でいじくる事だけは絶対しないんだ~。ほーら、100%天然素材のおっぱいがたゆんたゆんだぞ~♪」


「こら。やめろ。座ったまま暴れるんじゃない」


 それでも彼女の心はその可憐さをちっとも失ってはいない。


 もしも俺に彼女の隣に立つ力があったなら……


-----------------------------



 それから俺達は他愛のない話をして時を過ごした。

 彼女は魔女の大釜の使用についてあっけないくらい簡単に許可してくれた。

 協力してあげるからいつでも来て良いと。



 そして……


「それじゃあそろそろ帰るよ。今日はありがとう。ご馳走様」


 立ち上がって外套を手に取る。


「………………は?」


 ここまでは何も問題なくいっていたと思っていた。順調過ぎるくらいだった。


 そして……世界がいきなりぶち壊れた。


「え、ウソ。ホントに言ってる? 泊っていくでしょ?」


「いや……仕事あるんで帰るよ。また来る。それじゃあな」


 そう言ってドアを開けて壱号と合流する。


「悪い。待たせたな。それじゃあ帰ろうか」


 そう言って二人で歩きだすと……


パチン


 誰かが指を鳴らす音がした。その途端


ザァァァァァァァァ!!


 突然、恐ろしく重たい雨が体に叩きつけられた。

 ヌルリとした鉄の匂い……血だ。血の雨が降っている。


「お、おぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 重い。重すぎて膝をついてしまう。

 押しつぶされそうになった俺は力を振り絞って壱号の手をとり、家の中に逃げ込んだ。逃げ込んでしまった。


「あらあらあら。大変、突然夕立が降ってきちゃったのね。コートがびっしょりだわ」


「待て、ふざけるなお前! お前が魔法で血の雨を降らせたんだろうが!」


「な、なんのことですかニャー? そ、それよりお風呂沸かしてるから入っていきなさいよ」


 魔女がグイグイと服をひっぱって脱がそうとしてくる。

 風呂……? 風呂ってまさか……!?


「ま、まさかお前。魔女の大釜で俺の肉体を……」


「まぁまぁまぁ。せっかくだから温まっていきなさいよ。色々と若返るかもよ?」


 ……やばい!


「壱号! 助けてくれ!」


カタカタカタ!


 しかし使い魔のミーが黒猫の姿から大きな影になって現れる。ミーは壱号を掴むとそのまま奥の部屋に引きずり込んでしまった。


「ねぇねぇ、泊っていくでしょ~? 泊っていくわよね? ねぇねぇ?」


「いやいやいや!」


「いやいやいやいやいや!」


グイグイグイグイ!


「ちょっと待てお前! お前さっきまで運命の人を待つみたいなこと言ってたくせに!」


「それとこれとは別腹なのだ!」


「やめろ! ……ッアー!!」



◆◆◆◆


 こうしてエルバアルは魔女の大釜で肉体を復活させられたあと、色々と絞りつくされてしまった。

 その後、彼の姿を見た者はいない……


 BAD END


 →選択肢をやり直す


◆◆◆◆

 実は壱号を身代わりにすることで、目の悪い魔女を騙して生還出来るルートもあったりするのですが……

 どのみちこの時点でマグダレーネを倒すことはまだ出来ません。

 いったん時間を出発前に巻き戻して別の選択肢に入ります。


 ちなみにタロスを連れてこの家にくると彼が死亡します。

 シンシアを連れて来ると大惨事になります。

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