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最初の選択とシンシアの乙女心

「みんなちょっと聞いてくれ」


 第一陣が遺跡に到着し、少し離れた場所につくった簡易休憩所に俺達は集合していた。

 屋根も壁もないただの空の木箱で作った椅子とテーブルがあるだけだが、それでも地下よりは過ごしやすい。


「ちょっとこれを見て欲しいんだが……」


 テーブルの上に3枚の指名手配書を出す。


「これから大軍を迎え撃つために遺跡の中を拡張しなければならないんだが、その前にきちんとした設計図の作成と工程管理の出来る技術者を確保しなければならない。下手に手を入れると岩盤に亀裂が入ってしまって迷宮そのものの耐久力を下げてしまうからな……

 そして何よりも、賢者の石の使い方について協力者が必要だ。そのうえで特にめぼしい3人を候補として挙げさせてもらったんだが……どいつもこいつも一癖ある連中でな。お前達の意見を聞きたい」


「……ん? まるで知ってるみたいな口ぶりじゃねぇか?」


 話を聞いていたタロスが片方の眉をあげる。


「……実は三人とも知り合いだ。懸賞金の低い連中は役に立たん。高ランクの者の中で知性があるやつとなるとどうしても数が少なくてな……」


 ブラックファイルも隅まで見させてもらったのだが、明らかに問答無用で攻撃してきそうなヤツが多くて候補にあげられなかった。

 こちらの要求する能力を保持し、なおかつ連絡がついて一応話の通じる相手となると結局こいつらしか……妙なところで世間の狭さを実感させられた形だ。



「まず1人目だが……魔女マグダレーネ。世界最高の魔術師にして最強の魔法使い。人類に敵対している人外勢力の中で、その最たる存在と言っていいだろう」


 1人目の手配書を指で指し示して注目を集めると、タロスが眉間にしわを寄せて固まった。


「け、懸賞金……金貨10万枚!? 冗談だろオイ? 王国の金貨全部集めたってそんなにねぇだろ」


「勿論現金での支払いは無理だろうな。世界政府会議による共同声明だから、手形を発行した後になんのかんのと会議を重ねて各国で支払い義務を押し付け合うんだろう。もっとも、討伐出来る者が現れれば、の話だが……」


「普通に戦争の火種になりそうな額だよな。それだけ人類にとって脅威ってことか……」


 タロスが神妙な顔で顎をさする。俺はみんなの顔色を伺いながら説明を続けた。

 


「魔術の世界において三大禁術と呼ばれるものがある。人体錬成(死者蘇生)、魔女の大釜、そして悪魔召喚。マグダレーネの持っている魔女の大釜はあらゆる合成生物、魔法薬、魔道具を生み出す事の出来る秘宝中の秘宝。空間魔法の使い手でもあり、こいつがいればいくらでも好きにダンジョンを広げることが出来る」


「……もうなんでもアリだな。本物の化け物って事か……」


「まぁ喋ってるガイコツの俺が言うのもなんだが、我々の常識は一切通用しないと思ってくれ。その分、協力してもらえるならメリットは計り知れない。だが……」


 自然と声のトーンが落ちてくる。思い出しただけで頭が痛くなってくるな……思えばよくあの家から生還出来たものだ。


「色々と問題のあるヤツでな……まずこいつと手を組んだ場合。王国だけでなく全世界の人類、及びあらゆる人外勢力の全てを敵に回す事になるだろう。だがまぁそこはメリットと相殺出来るので大した問題にはならない。

 本当に問題なのは……マグダレーネ本人が非常に危険な人物だと言う事だ。俺達が殺されてしまう可能性が非常に高い」


「…………ヤベェ奴なのか……?」


「……変なやつだ……」


 話を理解していない勇者を除いた3人が重苦しい沈黙に包まれた。


「そ、その……会った事ねぇからなんとも言えねぇけどよ。もうちょいまともなのはいねぇのか?」


 俺はタロスの言葉を受けて次の手配書に指を移した。




「3人の中で一番まともなのがこの人だ。フランケンシュタイン博士。人体工学のスペシャリストで、自身が製造した人造人間のヴォイドと言う男を従えている。

 ヴォイドが生まれた時に不幸な事故があったせいで、世間から隔離された生活を送ってはいるが……当人達はとても紳士的な人物だよ」


 人体の合成手術は拒否反応との戦いだ。俺は以前回復魔法を活かして博士の研究に協力していた事がある。マグダレーネよりはよほど協力を得やすい相手と言えるだろう。


「博士の協力が得られれば様々な技術的なサポートを受けられるはずだ。まずヴォイドが図面の作成や地質調査など工事の手伝いをしてくれる。

 更に、高度な拷問によって捕虜から情報を引き出す事も出来る。あとは……本人が許すなら改造手術によってタロスの戦闘力を飛躍的に伸ばす事が出来るだろう」


「……なんか拷問とか改造手術とか聞こえてくる時点でまともな人物に思えないんだが……」


 改造手術と言う言葉にタロスは苦笑いを浮かべたが、俺は博士の腕前を信用しているのでそっちの心配はあまりしていない。


「強制はしない。だが博士は偶然とは言え、繋ぎ合わせた死体から自律思考出来る人造人間を造り出した程の天才だ。間違いなくその分野で右に出るものはいないだろう。

 ただ、問題があって……住んでる場所が雪山の奥のとても不便な場所にあるんだ。討伐隊がくるまでに行って帰ってくる事は出来ないから、遠征隊と守備隊に分けなければならない」


「うーん。つってもアニキと俺が遠征隊なんだろ? と、なるとスケルトンも動けない訳で。ちょっと守備隊の方がなぁ……」


「そうなんだ。だからこの人に関しては一度派手に討伐隊を追い返すなりして、時間を作ってから後で伺っても良いと思う。最悪、他に誰の協力も得られなかった場合はこの遺跡を放棄して全員で博士の元に向かう手も考えられるが……」


 しかしあの肉団子は俺にとって特別な意味を持つ。出来れば避けたい状況だ……


「あ、あのごめんなさい。私が戦力にならないばっかりに……」


 すると、それまで黙って聞いていたシンシアがちょっと申し訳なさそうに肩を小さくした。


「ん? いやいや、シンシアが謝ることなんて何もない。そこのアホは少し気にして欲しいが……」


「んえ?」


 チラリと視線を向けると勇者がアホ面を向けてくる。話ちゃんと聞いてるのかこいつは?



「ただ、そうだな。シンシアの力になれるとすればこいつだろうな……」


 そう言って俺は最後の手配書の上に指を置いた。


「吸血鬼カーミラ。古いノスフェラトゥで、吸血行為によって配下を増やすことが出来る。古代の魔法にも精通していて賢者の石の使い方について何か教えてくれるかもしれん。

 ただこいつ、かなり性格に難があってな…… ものぐさな引きこもり体質なんで本人がここに来てくれることには期待出来ない。そこでお前らに聞きたい事があるんだが……


 この中に童貞。もしくは処女っているか?」


「…………にゃ”っ!?」


 ガタンッ!


 少しきわどい内容の質問にシンシアが驚いて椅子をひっくり返してしまった。


「すまんな、言いにくい内容だとは思うが……この中の誰かが吸血鬼になれば、カーミラをここに呼ばなくてもお手軽にグールを増やす事が出来るんだ。ただ、誰でも成れる訳じゃなくて……まず才能のある童貞か処女が吸血鬼に血を吸われる。それからそいつが吸血鬼の血を吸い返して初めて新しい吸血鬼が生まれるんだ」


「え? え? え?(ど、どうしよう。本当に言いにくい内容を……)」


 シンシアが顔を真っ赤にして周囲をキョロキョロと見回す。タロスも気まずそうだ。



「僕は違いますよ」


「だろうな。お前には何も期待していない」


 まず勇者が平然とした顔で答えた。こいつは本当に役に立たんな……


 次にタロスがおずおずと手をあげる。



「いや……あの……軍に入りたての頃に先輩に連れられてなぁ……」


 あぁ、素人童貞と言うやつか。ああいう集団で酒が飲めないやつと女を知らんやつはナメられそうだからなぁ……


「いや吸血鬼になれる資格があるかどうかが知りたいだけなんで、そんな生々しい報告はせんでいい。……残念ながら俺はこの体なんでそもそも論外だ。と、なるとやはり……」


 全員の視線がシンシアに集まる。彼女は顔から火が出そうなくらい真っ赤になって俯いた。


「あ、あの……ノーコメント……です……」


 あれ、確かに言いにくいだろうがそこまで隠すことだろうか?

 もし処女だった場合。彼女の年齢で経験がない事は何も恥ずかしい事じゃない。むしろ普通だろう。

 もし違った場合。それは多分合意の上での行為じゃない。あの賞金稼ぎの男に殺意は湧いても、シンシアのことを汚らわしいなどと思う事は絶対にあり得ない。


 ……と、そこまで思い至った時点で気が付いた。

 待てよ。たとえシンシアに何の罪もなかったとしても、女の子として言いにくいこととかあったりするのか?


「あ、しまった! すまん、デリカシーのないこと聞いてしまっただろうか!?」


 慌ててシンシアに駆け寄ると、彼女は顔を真っ赤にしたままで黙ってコクリと頷いた。


「あ~、そうかそうか。そりゃこんな男連中の前じゃ答えにくいだろうな」


 俺はシンシアを抱き寄せて頭を撫でながら耳元にそっと囁いた。


「わかった。あとで俺だけにこっそり教えてくれ。それなら恥ずかしくないだろ?」


「う、うぇぇぇえぇぇぇ!?(ご、御主人様に教えるのが一番恥ずかしいんですけど!?)」


 シンシアが驚愕の表情で見上げてくる。


「そ、それはどうしても報告せねばならない事でしょうか?!」


「え? いや、う~ん。まぁ……」


 頭をポリポリとかいて周囲を見回す。タロスはなにやら微妙~な苦笑いを浮かべていた……

毎度お読みいただきましてありがとうございます!

ボツ原稿が多くてなかなか投稿時間も安定せず、ようやく最初のルート分岐地点までこれました……

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