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戦利品押収

 翌日、俺は徹夜でスケルトンの生成を終わらせてから壱号を呼び出していた。


 スケルトンは筋肉ではなく、骨と骨の接合面にある魔力塊で動いている。

 だが全ての関節が使える訳ではないので、動きが人間に比べて不器用だ。


 今後使える物資が増える事もあって、壱号には更に任務の幅を広げてもらう必要がある。

 そこで賢者の石から魂を10人分ほど使って、彼をスケルトン・ウォリアーに進化させていた。

 これでほとんど人間と変わらない動きが出来るようになり、筋力も大幅に増すはず。


「よし、出来たぞ……今日からお前はスケルトン・ウォリアー壱号だ!」


「…………(カタカタカタ!)」


 敬礼する壱号に兵士用の防具を渡す。


「着けてみてくれ。今なら動けると思う」


 槍。盾。ヘルメット。ブレストアーマー。ガントレットにレッグガード。

 うん、いいぞ。随分兵士らしくなった。


「いいか、壱号。まずは偵察用の小隊を組織して付近の哨戒にあたって欲しいんだ。俺もこの辺の地理にそこまで明るい訳じゃないからルートはお前に任せる。

 衛兵の詰め所は好きに使ってくれていい。地図なんかもそこだ。その小隊は今後、食料調達なんかの強襲任務も兼ねる精鋭部隊だ。一番動きの良いやつに5人声をかけろ。近衛の事はタロスがいるから気にしなくていい。好きに選べ。わかったか?」


 再度壱号が敬礼をする。いいぞ、似合ってるじゃないか!


「平スケルトンはまだ防具は着けれないと思うから武器だけでいい。じゃあ、頼んだぞ!」




 次は宿屋に向かう。


「おはよう。みんなもう朝食は済ませたか?」


「あ、おはようございます。先に頂いております」


「おぅ、おはよう!」


「ふわぁ……おはようございます……」


 よし、みんな揃ってるな。



「まずは改めて昨日の大戦果と君達の活躍について礼を述べさせてもらおう。現在この村は我々の支配下にある。だが、昨日も述べた通り、ここを防衛拠点とするつもりはない」


 この村は防衛には向かない。スケルトンの動きが悪くなる日中に包囲されれば、屋内に立てこもるしかなくなる。

 そうすればあとはもう火を放たれておしまいだ。

 生活空間としてはこちらの方が良いのだが……やはり大軍を迎え撃つ事を考えれば地下に帰らざるを得ないだろう。


「なので昨日の晩から物資の運び出しを行っている訳だが……そろそろ日差しが強くなってスケルトンの屋外での活動が鈍る。そこで君達にはスケルトンが運び出した物資を受け取り、屋外での積み込み作業を行って欲しい。

 シンシアは現金を。タロスはとにかく鉄を集めてくれ。農具でも調理器具でもなんでも構わん。マルス。お前は荷車の方を回って帳簿をつけろ。これが台帳だ。あとあとこれを元にして作戦を立てるから真面目にやれよ? いい加減な記載が見つかったら処罰する。

 今晩第一陣を出立させるから、15時ごろになったら全員一度仮眠をとっておいてくれ。何か質問あるだろうか? なければ解散とする」


「わかった。力仕事なら任せろ」


「わかりました!」


 若干早口で説明してしまったが、問題ないようだ。振り返って次の仕事に取りかかろうとすると、勇者が手をあげた。


「あの、エルバアル様?」


「なんだマルス」


「僕、文字書けませんけど大丈夫ですか?」


「え?」


「え?」


「えっ!?」







 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? はっ? えっ? はぁぁっ!?


 ウッソだろお前。えぇぇぇぇぇえ!!?



「マジかお前!?」


「勇者なのに……」


 マルスが元勇者なのは周知の事実だ。タロスとシンシアも驚いている。


「いや、ちょっと待てお前。以前王城の一室で本読んでただろうが。仕事サボりたくてウソついてたら今度こそ殺すからな?」


「あぁ、見てたんですか? 違います。あれはただの趣味なんですよ」


 ……んん? 本読むのが趣味なら読み書きできるだろ? こいつは何を言ってるんだ?


「…………何を言ってるのかよくわからん。俺にもわかるように説明しろ」


「あれ? わかりません? えぇっと…………まず、こんな感じでソファーにゆったり腰かけるじゃないですか?」


 勇者は手ごろな椅子をひいてくるりと半回転させると、座ってテーブルに背を預けた。


「で、こうやって本を眺めていると……カッコ良いんですよね……僕が……」



 …………頭が痛い。誰か助けてくれ…………


 隣を見るとタロスが絶句している。シンシアは可愛らしい苦笑いを浮かべていた。



 いや、思い当たるフシはあったんだ。

 魔王討伐の旅に出ていた頃。いちいち発言が薄っぺらくて会話が噛み合わないと思ってたんだ。

 こいつ看板とか碑石とか何も読めてなかったんだな……そして多分サラもシャルロッテもその事に気付いていた。

 あの視線はそういう事だったのか……



「わかった…………お前はタロスと一緒に積み込みの手伝いにあたれ……」


 この……役立たずのクソ野郎が!


「えぇっと、シンシアって文字の読み書き出来たりとかは……」


「ご、ごめんなさい、すぐ覚えます……」


 シンシアが顔を赤くしてうつむく。いや、いい。君が教育を受けてこられなかったのは君のせいじゃない。

 ちゃんと賢い子だから教えればすぐに覚えるだろう。


「いや、お前は気にするな。わかった。帳簿は俺がつけよう。他に何もなかったな? 解散」


 クッソ、今日中に調べたい事があったのに……勇者め。

 今度こそ退出しようとすると、今度は別のヤツが手をあげた。


「あ、あのよぅ、アニキ……俺が帳簿つけようか?」


「え?」


「え?」


「えっ!?」


 え、こいつ読み書き出来るのか!?


「えぇぇぇえぇぇぇ!? ウッソだろお前!? その図体で!?」


「な、なんだよ、デカイのは関係ねぇだろ……」


 あ、いかん。声に出してしまった。俺の精神値がやばい。


「あ、すまん。失言だった」


「山賊になる前に軍に所属してたって言ってただろ? 力が強かったもんで兵站部隊に配属されてたんだよ……」

(※補給部隊の事。ここが奇襲を受けると軍全体が麻痺するので、前線の兵士以上にエリートが配置されていた)


「そ、そうなのか……わかった。じゃあよろしく頼む」


 そして今度こそ解散して各自作業に移っていったのだが……


-----------------------------



「おーい、そこのカバーちょっと待ってくれぃ。え~っと、これとこれと……よし、大丈夫だ」


「…………」


 ぐっ……タロスが帳簿に記載していくと、羽ペンが小さすぎてまるでオモチャみたいに見える。

 大男が背中をまるめて仕事してる姿がシュール過ぎるが……本人はいたって真面目にやってくれているのだ。笑ってはいけない。


「うぐっ……か、可愛い……」


 ふと見るとシンシアも笑いを堪えていた。よし、この手でいこう。



「タロス」


「あぁん?」


「これを着けてみてくれ」


「なんだぁ? 壊れた眼鏡? …………レンズ入ってねぇじゃねぇか。こんなもん役に立たねぇぞ?」


「いいから」


 タロスがしぶしぶ眼鏡をかけたのを見届けて、シンシアの方に向かう。


「シンシア」


「ふぐっ……な、なんでしょう御主人様」


「あれを見ろ」


 しゃがんでシンシアの背中に手を回し、タロスの方を指さす。


「おっきいクマさんが眼鏡かけてるみたいだろ?」





「……ぶほっ!?」


 決壊した濁流はとめられない。更に追撃を入れて畳みかける。


「ちょ、やめてください御主人様! 反則! 反則です!」


 ツボに入ってしまったシンシアをくすぐり倒す。

 この子は意外と笑いの沸点が低いな。まさに赤子の手をひねるようなものだった……

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