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「牛頭」のタロス 中編

 一方その頃、迷宮内に動揺が走っていた。


「た、大変ですエルバアル様! 化け物みたいな侵入者がやってきて、槍も炎もまるで効きません!」


 哨戒と伝令に走っていたシンシアが息を切らしながら報告する。


(バカな! もう来たのか!?)


 エルバアルは焦った。勇者パーティーの女戦士が乗り込んできたと思ったからだ。


「そいつは赤いポニーテールをした女戦士だったか!?」


「いえ、ライオンのたてがみのような頭をした大男です」


 侵入者が女戦士ではない事がわかって、エルバアルが少しだけ安堵する。


(最悪の状況ではないのか……しかし、サラ以外にもそんな化け物がいるとは)


 敵が因縁の相手ではなかったとしても、脅威であることには変わりない。

 こちらの主力であるスケルトン、スケルトンメイジ、急ごしらえの簡易トラップはまるで通用していないと言う話だ。

 勇者の力を覚醒させようにも魂が足りない。シンシアは流石に戦力外過ぎる。


 頼みの綱は「壱号」の通称で呼んでいる最初に作ったスケルトンだ。

 他の固体より若干命令に対する理解力が高く、先日の迎撃戦でもうまく火を扱って作戦を有利に導いてくれた。


「居住区に向かう。スケルトンメイジは撤退させてくれたのか?」


「はい! 後方に下げさせています」


「ありがとう。あれを潰されると手痛いからな」


 シンシアに礼を述べてエルバアルは走った。





「壱号! 壱号! 部屋の使用準備は出来ているか!?」


 ドアの前でエルバアルが叫ぶと、コンコンカンコンと音による合図が送られてくる。問題なしの合図だ。


(部屋は使えるのか……しかし、位置的にこっちの通路はただの寄り道だ。どうやって誘導すれば……)


 エルバアルが急いで手順を組み立てていると、勇者が走りこんできた。


「4番通路突破されました! 弓がまるで効かず、素手でバリケードを吹き飛ばされました。し、侵入者は化け物です!」


 報告に来た勇者に全員の視線が集まる。


「え、な、なんでしょう?」


「そうか……お前にも働いてもらう時がきたようだな。マルス」


 そして地下通路に悲鳴があがった。


--------------------------------



 一方その頃、タロスは激怒していた。

 落とし穴にハマったところに投網を被せられ、槍やら剣やらでめった刺しにされたからである。常人なら大怪我をしているところだ。


「なんだこいつら……ガイコツの化け物?」


 スケルトン達は壁に叩きつけられると、粉々になってしまった。如何に地の利を得ようとも、所詮タロスの敵ではない。


「おーい! 誰かいないのかー? 金貨3枚くれるってよー!」


 タロスは更に奥に進むと、地面に妙なものがついているのを発見した。血痕である。


「んん……? なんだこりゃ?」


 血痕は分かれ道を右に点々と続いていた。だが……


「……まぁいいか」


 タロスは特に気にする事もなくそのまま奥へと進んで行った。



-------------------------------


 エルバアル達は動揺していた。


「ダメです! こちらへ向かってきます!」


 血痕は勇者が斬り付けられたものだった。居住区へ誘導するつもりだったが、目論見が外れたのだ。


「ちょっと! 斬られ損じゃないですか僕!」


「全く、クソの役にも立たんなお前は!」


「僕のせいですか!? アハハ。ご冗談でしょう?」


 今は勇者に構っている暇はない。急いで次の手を判断しなければ。とは言っても……


(これは……まずいな……)


 もはや賢者の石の中の魂をほとんど全部勇者に譲渡して、自分の回復魔法で援護しながら戦うくらいしか選択肢はない。

 だが勇者が裏切ったらその時点で詰み。仮に真面目に戦ってくれたとして、少ない魂の力でどこまで戦力になるか……


 退却させたスケルトンもスケルトンメイジもすべて出して、甚大な被害を覚悟してもなお分の悪い戦い。

 エルバアルが苦渋の決断を下しかけたその時、シンシアが主の手をひっぱった。


「あ、あの! 私行かせてください!」


「ダメだ! 危険だぞ!」


「私が残ってもどうせ何の戦力にもなりません。行かせてください!」


 シンシアが唇を噛みしめて強い眼差しで見上げてくる。議論している時間はなかった。


「……わかった。だが、いざとなればこちらでなんとかする。無茶はするなよ」


「わかりました! ありがとうございます!」


 そう言うとシンシアはトタトタっと、体の軽さを思わせる足取りで引き返して行った。


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「うぇぇぇぇぇん! うぇぇぇぇぇん!」


「うおおぉぉぉ!?」


 タロスは驚いた。心臓が口から飛び出るかと思った。

 暗い地下迷宮で、いきなり女の子の泣き声が聞こえてきたからだ。


 骨の化け物ならまだいい。叩き潰せば済む事だ。だが、幽霊はちょっと……


 先ほどまでの勇ましい足取りが一転、おっかなびっくりとした忍び足で進むと、通路に女の子を発見した。


(ホッ……どうやら幽霊の類じゃねぇみたいだ)


 相手に実体のあることを確認して安堵する。


「おい、どうした嬢ちゃん! こんなとこにいたら危ないぞ!」


 タロスはうずくまって泣いている少女に声をかけた。


「うぐっ、えぐっ……お父さん……お父さんを助けて……」


「なんだぁ? 親父さんがここにいるのか?」


 冷静に状況を判断すればかなり矛盾した言い分なのだが、愚か者のタロスにはそこまで考えがまわらなかった。

 まるで村の中で迷子の少女を見かけたかのように話を聞く。


「畑で仕事をしていたら、骨の人に無理矢理連れてこられたの……お父さんはあっちの部屋に……」


 少女はタロスがやってきた方の分かれ道を指さす。



「あぁ、あれか……」


 タロスは血痕の事を思い出した。


「よし、お嬢ちゃんはここにいな。おじさんがちょっと見てきてやろう」


 もしかするとこの子の父親は殺されているか、酷い目にあっているかもしれない。

 少女にそんな光景は見せられないと思ったのである。



 血痕は扉の前まで続いていた。

 ドアノブをひねるが開かない。どうやら扉と壁の間に布が挟まれていて、密閉されているようである。


「しゃらくせぇ!」


 タロスがドアを蹴飛ばすと、簡単にバラバラになって消し飛んだ。


 部屋の中は丸焦げであった。ベッドの燃えカスがいくつも散乱していて、どうやら火事があったらしい。

 奥の方には魔術師風のローブに身を包んだ人影が、壁に背を預けてうなだれている。息があるのかどうかはわからない。


「おい、アンタ! 大丈夫か!?」


 とりあえずこれで金貨6枚になればいいな……

 そう思ってタロスは部屋の奥へと歩いていき、そのまま意識を失った……

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