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妻と紡ぐ風景

 名古屋での警備員時代、常駐警備から機動隊に異動し、思いがけず昇任試験に合格し、40歳にして人生初めて4人の部下を持つ方面隊長になった。担当は千種区、名東区、そして長久手町と東西に通称広小路通りが貫く。


 その東から始まる街に城山町がある。そこに有名な作家が住んで小説を書いていた。そう、ペンネームは城山三郎、“総会屋錦城”始め数々の経済小説で鋭く企業の闇を暴きだした作家だ。


 だが、このことを私は知らなかった。この情報は、今でもお付き合いさせて頂いている、“先輩”と呼んで心から尊敬している内田さんからの受け売りだ。


 そして、先輩から城山三郎が如何に妻を愛していたか、そのエピソードを教えて頂いた。


 ある日、城山の妻は買い物に出掛けた。未だ無名作家の城山の生活は苦しい。買い物も最低限度必要なものだけ購入する慎ましい生活だ。


 そして家で待っている城山が見たものは、妻が抱えていた牡丹の花。


 怪訝な顔をする城山、そして妻は一言、あまりにも綺麗だったので。城山はそう呟く妻の心を愛で、大輪の花を求めし妻のよろしき、と詠んだ。


 これが今なら、大概の男が怒るだろう、馬鹿かお前はと口汚く罵るだろう、その日の食べ物にも困る生活、食べ物を買ってくると思っていたら、花を買ってくる、今日どうするのだ。


 だが、花を買い求めた妻も城山がお腹を空かせていることは勿論分かっている。綺麗だからと花を買う妻、妻こそこんな貧乏な暮らしを強いている夫に愚痴を言いたいだろう。


 貧しさは罪ではない、しかしその貧しさに負ける心は罪だ。貧しさに負けぬ妻の強い心を知った城山、男はそのような妻が傍にいて呉れるだけで百万倍の勇気を貰える。


 私の趣味は折り紙、立体の薔薇や花火、独楽、その他色々なものを手掛けている。事の発端は妻からの要請だった。妻は郡山市内のクリーニング店で働いている。そう、折り紙は、子供連れの母子や欲しい人へのささやかな贈り物。


 私の仕事が休みの時は、本宮で勤務していた時は車で5分程なので、昼に戻って食事の世話をして呉れる妻と会話を楽しんでいたが、郡山で勤務するようになってその楽しみが奪われた。


 休日のある日、私はふと妻の職場を覗いて見ることにした。独楽を始め、桜、薔薇、コスモス、紫陽花、花火、ペンギン等様々な物が飾り付けられているのを、妻が携帯で見せて呉れているので、一度直に見たくなったからだ。


 店はスーパー店内にある、スーパーのレジ近く、カメラ屋と花屋に挟まれクリーニング店がある、洗濯が終わった製品のハンガーが所狭しと吊り下げられている。


 妻に悟られぬようにそっと店を覗いていると、子供を連れた母親がレシートを妻に見せていた。妻は、品物を母親に渡すとともに子供に何か聞いている。子供が指差す方向に独楽が飾ってある。どうやら好きな模様の独楽を聞いているようだ。


 そして、その飾り棚からふたつ独楽を取って子供に渡した。貰った子供は嬉しそうに母親の顔を見ていた。


 それを優しく見守る妻、良かった、この妻で良かった。城山三郎も良い妻を得たが、私も良い妻を得た。


 人生、良い妻を得る程こんな幸せはない。思えば、妻と知り合った時、私はトラック運転手、しかも病気を抱える母との母子家庭。こんな男と良くぞ結婚して呉れました、有難う、本当に有難う。

 妻も古稀となったがまだ働いている、でも時々私は愚痴をこぼす。その時は反論しないが、私がそのことを反省している頃を見計らって反撃してくる。妻の気性か、東北女性共通の辛抱強さか分からないが、最早太刀打ちできない、今後愚痴を言わないよう心がけます。

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