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死を考える

死を考える


 警備会社を辞めてから坂道を転げ落ちるばかり、何をやっても続かない。ある日死のうと思った、確か親父は首を吊って死んだが、天井の梁にぶら下がって死んだのではなく、窓の手摺りにロープを渡し、それを首に巻き付け、背中をずらしながら徐々に首を圧迫して死んだ。


 よし、やってみようと茶の間で試した。時間は掛かるが死ねない事はない、だが死ねなかった。まだ生きたいという欲望が強かった。




ホテルの駐車場係


 こうして死ぬ勇気もないまま、時折バイトをやりながら何とか凌いでいた、だが家の中で孤立していることに違いはなかった。思えば、無断で警備会社を辞めたときは、妻は何も言わなかったが無職となった私に対し猛烈に怒っていたことは間違いない。こうして平成17年も過ぎ、平成18年となっても相変わらず細々とバイトをしていた。


 6月になったある日、冷蔵庫に張り紙があった。妻の字で、これからは各自銘々で生きていくようにと。その張り紙を見て、いよいよ来るべき時が来たかと内心覚悟した。


 幸い、駅前にあるビューホテルアネックスの駐車場係員の仕事を得た。月15日の夜勤専属員だが贅沢は言っておられない、車はもう手放しているが、自宅から歩いて2キロ程、通勤には便利な距離だ。

 



そして誰も居ない


 8月のある日、夜勤を終えて家に帰ると家の中が雑然として誰も居なかった。荷物を運び出したような乱雑さだ、そして冷蔵庫には妻の字で、振込先の銀行の張り紙があった、しかし其処には引っ越し先の住所は書いてなかった。


 当てがあるから妻は長男と、四男と一緒にこの家を出たのだ。深く詮索しても仕方がない、大した収入でもないから多くは送金出来ないが誠意は見せよう、幸い家があればあとは食うだけ、何とかなるさ。


 しかし、乱雑なままにして置けない。それから3ヶ月間毎日毎日掃除をして家を片付けた。汚いもの、不要な物は全部捨てた、時には30袋程纏めて捨てた。2階建の家屋と物置、あるわ、あるわ、捨ててもすててもある、それと家の中は埃まみれだった。雑巾を掛けて隅々まで綺麗にした。


 そして、茶の間から8畳間に引っ越した。実に広々として気持ちが良い。家族は居なくなったが、何故かほっとした。


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