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ダンプ追突 後段

 親父の突然の死後も一度、九州に来たことがあった。高蔵寺のニュウタウンに引っ越したときだ、生活も落ち着いたのでイセ叔母さんを訪ねながら、お袋と鹿児島、宮崎を旅行した。


 今こうして、トラックの運転手として生まれ故郷に来ている、まさかこんな形で来るとは。


 知恵子夫婦が住むアパートに寄り、久闊を叙した。叔母さんも、知恵子も二枚目の旦那さんも皆元気そうだ、知恵子の友達も来ていた。鹿児島配達時刻までまだ時間がある。麻雀でもするか、と、長旅の疲れを癒すことなく遊びに興じた。夕方になり、そろそろ出発するのでと挨拶し飯塚の地を離れた。


 福岡県から佐賀県の県境を越えようとするとき、後方のパトカーに停められた。何事かと降車すると、警官が車両ナンバーを照らすランプが消えている、と。交通切符を切られる、はるばる本州の愛知県名古屋市から来ているのに、無粋な警察官だ、そう心でののしりながら。


 しかし、長旅の疲れを癒すことなく麻雀で遊んでいたツケが廻ってきた。佐賀から熊本、そして鹿児島県に入ったとき、急に眠気が襲ってきた。時刻も深夜の2時、魔の時間だ。道は山道、照射するライトだけが山肌をぼんやり明るくする。


 一瞬眠ってしまった、はっと気付くとトラックは山肌に接触しそうになっていた。慌ててハンドルを戻す、危ない所だった。


 もう仮眠しよう。朝8時までにはまだ時間がある。そうして、危ない場面もあったが、無事荷物を届けた。長距離輸送は行きの荷を運ぶだけではその旨味はない、帰りの荷を貰うことも大切だ。荷台が空ではシャレにならない、我社は日本通運の下請けとしてトラックを持ち込んでいるので、荷卸し先の日本通運のターミナルに寄って荷物を貰う事が多い。


 しかし寄ったものの生憎何もない、そのまま鹿児島市内にトラックを停めていく訳にもいかない、仕方ない、帰ろう。


 益々軽くなったトラック、ドライブ気分だ。順調に、九州の地を離れ、本州の山口県に。もう、午後3時過ぎだ。とあるトンネルに入った、後方にダンプが見える、サイドミラーから確認すると何と急接近して来る。


 このままだとぶつかる、と思った途端ダンプが追突した。しかしあまりスピードが出ていなかったのが幸いしてか、左程の衝撃はない。トンネルを抜けた所で停車すると、ダンプも停まった。


 この野郎、ふざけやがって、運転席に向かい、降りてこい、と怒鳴りあげた。降りて来た男は、180センチ程の大男、身長170センチの私は思わず身構えた。殴りかかってきたら、背負い投げで投げ飛ばしてやる。だが、大男は厳つい身体に似合わず表情が虚ろだ。


 公衆電話が近くにある、警察に連絡する、男はそのままそこに立っているが、私に襲いかかってくる様子はない。間もなくしてパトカーが来た、私が事情を説明すると、警察官は、トラックは私達が運転して警察署に運搬するので、貴方はダンプを運転してくれないかと言う。私は自衛隊で大型免許を取得しているが、ダンプは運転したことはない。


 だが、職場の日通小牧ターミナルでは、積み替えが面倒な時は運転手さんに断ってそのまま大型トラックを運転したこともある、なんとか運転して警察署に運んだ。私のトラックは平ボディで、大した衝撃でもなかったので後部部分を閉めることは出来なかったものの、走行には支障がなかった。


 警察官が男を調べたところ、男は幾分精神に異常を来たしているとのこと、ダンプは形としては盗んだものの、それでどうこうしようとする意思はないとのことで、警察も困り果てていた。私とて困るが、その事情を会社に報告したら、トラックの走行に支障がなければ弁償費用は求めなくても良いから帰って来い、と。


 このような事が有って会社に戻ったが、社長は、文句は言わなかったものの憮然とした顔をしていた。それはそうだろう、帰りの荷は積んで来ない、トラックはぶつけられる、その修繕費用は自社持ち、とんだ赤字になってしまった。社長の顔にそう書いてあった。


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