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ダンプ追突 前段

ダンプ追突


 結婚後も通信教育を学びながら懸命に働いた。子供も年子で男の子3人の子宝に恵まれ、お袋が時々糖尿病で入院するものの、何とか生活は成り立っていた。


 通信教育を学びながらの長距離運転は辛いものがあるが、昼間の集配業務だけでは生活費は足りない。週2回は長距離をこなした。日曜日は会社に内緒で団地住人の引っ越しをやってこっそり稼いだこともあった。


 小さな運送会社だが、その分家族的だ。入社仕立てで明日の米にも困ることがあった時は、お袋の入れ知恵で前借もした。が、経理を担当している社長の奥さんは嫌な顔ひとつ見せることはなかった。社長は時々厳しいことも言うがくどくはなく、私の数々のドジも深く追求することはなかった。


 仕事にも慣れ私も中堅社員として認められるようにもなった。しかし決して新車に乗ることはなかった。やはり社長は一抹の不安を抱えていることと、何よりそれは尤も稼働率の高い運転手に廻す方が会社の利益があがるためだった。


 だが私には不満はなかった、拾って貰ったという恩義がある。途方に暮れていたときに採用して頂いた。新婚旅行を終えて、妻の荷物を運ぶ時はトラックも貸してくれた。どの仕事も好不況の波があるが、オイルショックで仕事が無い時も最低ではあるが日当もつけて呉れた。だから社長の指示に逆らったことは入社してトラック運転に慣れない頃を除いては一度もない。


 そんなある日、クリーニングの機械を運ぶ仕事が来た。小さな会社だったが、堅実な経営手法は信頼もあり色々な仕事が入ってくるので、我々運転手にとって常に仕事があるのは有り難かった。


 クリーニング機械の構造そのものは分かる筈もないが、運転手にとって嬉しいのは荷が軽いことだ。木枠で梱包され、2・5メートルと背は高いが重量は1トン未満程か。4トン車にとって正しく美味しい荷物だ、運送料金も良い。時々近県に配送していたが、ある日社長から、鹿児島行きを命じられた。


 そう、九州鹿児島県鹿児島市、それまで秋田県の大館市まで引っ越し荷物を運んだのが一番遠かった。西は広島迄行ったことがあるが、その先はない。勿論現在の中国自動車道は影も形もない、利用する国道は2号線のみ。高校3年の冬休み期間中、自転車で7泊8日要して2号線を駆け抜けた以来の九州行きだった。


 遠くに運べば運ぶ程歩合給が良い、久しぶりに美味い仕事に有りつけた。鹿児島に行く途中福岡県飯塚市も通り道だ、そこは私が幼少期育った町で、お袋の2番目の叔母さんと、従姉妹も住んでいる。従姉妹の知恵子は西鉄バスに勤める二枚目の旦那さんと、同じ飯塚市内で所帯を持っている。


 連絡を付け、途中立ち寄ることにした。知恵子夫婦とは、私が港区の襤褸アパート暮らししていたとき、新婚旅行を兼ねて名古屋に遊びに来て以来久しぶりに会う。


 気を付けてね、妻が送りだす笑顔を胸に抱いて出発。片道1000キロ以上の旅だが、荷が軽い分運転も楽だ。名神自動車道も神戸迄利用出来る、その先はひたすら西へ西へと向かう。尾道を通り過ぎる、そう云えば自転車で旅した時、石段を登って境内から尾道港を眺めたなあ、真冬だったが瀬戸内の海は穏やかだった、そんなことを思い出しながらトラックは軽快に走って行く。


 九州の地に入った、思えば自衛隊時代、親父とお袋と3人で4泊5日の九州旅行をした。阿蘇に向かう途中、レンタカーが故障し、親父達は仕方無く最寄りの駅迄歩いて行った、其の駅では親父達が歩いてくるのを駅員が見ていて、暫く列車を停めて待っていてくれた。


 レンタカー会社が手配した別車両で遅く宿に到着したとき、私に労いのビールを注ぎながらその様子を面白く語っていた親父、笑顔がこぼれていた。


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