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発車のベル

美しい福島県


 捨て身の覚悟で飛び込んだが、義父母の懐の深さに抱かれて妻との結婚を許され気持ちは日本晴れだ。後は式の日取りだが、この私に何のプランも有る筈もなく、これは全てお任せすることとなった。


 この年はスクーリングに行かなかった。結婚費用を貯めるという名目だったが、実は懐事情は余り良くなかった。義母からスクーリングの費用は負担するからと言って頂いたが、そこまで厚かましくはなれなかった。


 3月下旬秋田県の大館に引っ越し荷物を運ぶ仕事が入った。会社の社長には、来年あたり結婚する、相手は福島県郡山市の女性ひとだと云う事を告げていた。


 仕事の帰途寄り道したいがと言うと、許して呉れた。高蔵寺のニュウタウンに引っ越して間もなく、4番目の叔母さんの娘の中学1年になった千鶴子が来て一緒に暮らしていたので、千鶴子に一緒に行くかと言うと行きたいと云う。


 馴染の国道8号線を北上する、敦賀峠越えも引っ越し荷物だから左程緊張することもない、排気ブレーキで充分。いつも荷が軽ければ良いが、そうはいかないのが渡世人の辛いところ(おっと、寅さんになっていました)、長旅だが今日は退屈しない、中学3年になった千鶴子と歌を交互に歌いながら、左に日本海を眺めひたすらアクセルを踏む。


 千鶴子は5歳位までは本当に可愛くて、一緒に電車やバスに乗っていると誰もが振り向く程だったが、父親の影響か、中学になると少し太り気味となり折角の器量が損なわれていたが、それでも今が可愛い盛り、その妹を連れての旅と、帰途は妻を訪ねるので気持ちは遊び気分だ。


 無事荷を降ろし、国道4号線に合流し南下する、しかしまだ東北は春に入ったばかり、桜もこれからだろう。郡山に到着、正月以来久方ぶりに妻の顔を見る、嗚呼早く結婚したいが、準備が整っていない、もう少し辛抱か。


 翌日はトラックで妻と千鶴子と一緒に猪苗代湖を見に行った、その頃まだ猪苗代湖に入るためには中山峠を越えていかなければならなかった。


 峠は結構急で、カーブの連続だが初めて見る猪苗代湖は大きく、磐梯山は勇壮で、これだけでも福島県の美しさが良くわかった。




発車のベル


 歌手秋元順子さんの曲、“愛鍵”の一節で、映画だったら、発車のベルにあなた飛び乗り抱きしめるはずね、とある。これは男が飛び乗るほうだが、それと逆で妻が飛び乗ってきた。


 それは秋頃のこと、3月仕事の序に寄ったものの、あれからもう半年以上も会っていない、顔を見たくなり連絡を取り合って東京で落ちあうことにした。


 朝一番の新幹線に乗って東京駅で待ち合わせた。一日中東京都内で遊び、夕食後、妻が東京駅で見送ってくれることとなった。しかし、発車のベルが鳴ったとき、妻が列車内に飛び込んで来た、と同時にドアが閉った。だが、これは私の思い込み、私が別れ難く手を引いてしまった


 思いも寄らぬことになってしまったがもうこうなっては仕方がない、そのまま高蔵寺の自宅に連れて行った。到着後、義母に経緯を説明すると、結婚前だから辛抱してねと、言われた。妻とはまだ男女の関係はない、それを義母が心配してのことだが、お袋もそれを察し、妻はお袋や千鶴子が寝ている部屋で一緒に寝た。


 このこともあり、千鶴子は卒業したら住み込みで理容店に就職するので、翌年4月に式を挙げることになった。



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