初デート
初デート
それがデートと云えるかどうか分からないが、高校入学時から勝川のアパートで暮らし始めてから3年が過ぎ、卒業後は中区栄の研磨会社で働くようになったある日、同年の彼女と会う約束をした。
彼女は同じアパートで隣室の若夫婦と同居していた。奥さんの妹だが、若夫婦と一緒に暮らす年頃の娘、今思うと何とも不思議だ。彼女は中学卒業後デパートの店員として働いていた。
それを知ったのは、私も働くようになった時だったのかどうか記憶は曖昧だが、引っ越して間もなく若い娘が若夫婦と暮していることは分かって来た。狭いアパート、私は専ら台所付きの玄関3畳間に机を置き寝起きしていたが、彼女が何処で寝ているかは聞いたことがない。
狭いアパート、直ぐ彼女の存在を知った、同じ歳であること、若夫婦と暮していること、しかしそれだけしか知らなかった。色気が付いてきた高校生、同じ歳の女性が近くにいるのをどうしてあまり意識しなかったのだろう
高校から柔道部に入り、1年夏の合宿(実際はなかったが)時であわや死にそうになったが、曲がりなりにもそれに打ち込み、また高校3年では夏冬自転車旅行したり、学校が休みの時は親父が清掃会社に勤めていたのでそのアルバイトをしたりと何かと忙しく、だからなのか彼女を格別意識したことはなかった。でも、時には近くの境内で腰掛けて話をした記憶はある。
彼女は背が高かった、でも目はどうだったか、大きいのか普通なのか、髪は長かったのかショートカットだったのか。
そして、どうして会う約束をしたのか、それも分からない、でも仕事を終えた私は彼女が働くデパートの職場に行き、彼女が仕事を終わるのを待って一緒に帰った。帰り途、ポケットの板チョコを彼女に渡そうとしたが、ぐちゃぐちゃになっていたので恥ずかしくなり、それでも欲しがる彼女の願いを無視した記憶はある。
その1回だけ、そうこうしている内に家出や自衛隊入隊、港区での襤褸アパート暮らし、と、彼女と会うことは2度となかった。一度だけ遠くで彼女を見掛けたことはあった。その時、私は結婚していて、妻と買い物をしていた時だった、彼女が若夫婦と一緒に歩いているのを見た、彼女も私に気付いたが、互いに目礼しただけで話すことはなかった。




