異性
異性
異性を意識するのは一般的には男性の方が遅いのかどうか分からないが、小学校3年で他人の家に間借りした先で同学年の女の子がお転婆だったので良くからかわれた。その頃の私は、臆病もので、にも関わらずお袋が、怪談映画が好きで、無理やり映画館で見せられる時は、手で顔を隠して見ないようにしてはいたが、それでも目に入って来る怖い場面は、子供心にあの世は何て恐ろしいところだと思った。
名古屋は都会とは云え、昭和30年代は通りも暗く、所々にある電柱の電灯はかえってその暗さを強調するだけで、しかも夏になると、ご丁寧にもそこに怪談映画の看板がおどろおどろしく立て掛けてある、小心ものの私にはその傍を通るだけでもう魂が潰れるような恐怖心を抱いていた。
そのお転婆は直ぐ私の弱点を見抜き、悉く悪さを仕掛けてくる。狭い家の中、便所に行く時すれ違い様、彼女は私の名を呼ぶ。振り向くと、上瞼がひっくり返り白目となっている。それを見た途端、腰を抜かしそうになった。味をしめた彼女は、何度も何度も波状攻撃をしてくる。
しかし、小心者と云え、こちらも男、そうそうやられてばかりはいられない。もう、そんな脅しにはのらないぞ、腕力をみせてやる、とうとう取っ組み合いとなり、襖が破れる始末。
手酷く叱られたあとは暫し休戦となったが、この戦いは約2年間続いた。もうこうなると彼女が女であることは全く意識しない、どころかもう完全に敵だ。話さない、目を合わさせない、しかし憎たらしい、で、脅かすつもりが頭を負傷するしまつ(ちょっと笑える悲しい話1、赤チン)。
しかし、5年になると状況は一変した、私は変らなかったが彼女が変った。もともと痩せぎすで目ばかり大きい(だから白目が恐ろしい)女の子だったが、幾分肉が付いた分ふっくらしてきた。
と、今は勝手に想像しているが、当時の私には分からないことだ。何故そう思うかというと、ある日彼女がこっそり私を階段下に呼び、秘密を打ち明けた。それは向かいの家に住む大学生からキスをされた、と。
キスそのものが何を意味しているのか分からないが、顔を近づけてくる彼女の顔を見た時、不思議なことに彼女が女であることを意識した。
私は相変わらず外遊びが好きで、汚れた足で廊下にあがってくるので彼女の母親から何時も叱られていたが、平平凡凡だった学力も担任の先生が熱心に指導して頂いたお陰で学力も急激に向上し、それを認識した母親から彼女の勉強を見てくれと言われるようになった。
キスしたことを聞いたが、だからというのが私の感覚で、それからは彼女が女であることを認めたが、格別意識したことはなかった。最初に、男の方が異性を意識するのは遅いかどうかと書いたが、それは人それぞれで多分私は遅いのだろう。
彼女が成長して中学3年生になった時は、ますます背が高くなり大きな瞳と伸び伸びとした手足は魅力的となり、そこでやっと意識するようになった。
何故、それ程彼女を意識しなかったかと言うと、実は彼女には2歳上のお姉さんが居て、私としては同学年の彼女より、お姉さんの方が魅力的だった。所謂年上の女性に憧れるというものだ、と書くとやはり異性を意識していたことになり矛盾しているが。




