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フォークリフト輸送 後段

 無事1件目は終了し、次はディラーへ。前に加重が掛かっているので、ハンドルも重い、到着して荷降ろしに入る。今度は地面に直接降ろす、会社で積み込んだ厚板を荷台に設置する。リフトに腰掛けてエンジンを始動する。が、此処で私は視線の高さに動転した。


 トラックの荷台の高さは90センチ程、リフトの打席の高さはこれも90センチ程、そこに座る私の視線は更に70センチ、しめて約2.5メートル。しかも頼りの板の幅は40センチ程、何より致命的なのはこのリフトの荷降ろし作業は初めてだった。


 今なら、こんな板を掛けただけで降ろす事などある筈もないが、何もかもが運転手の腕に寄りかかっていた時代、経験も体験も何もない、やったことがない、そんな屁理屈は通用しない。


 タイヤチェーンの装着だって僅か5分の説明だけ、普段リフトを扱っている、ただトラックから地面に降ろすのに何の説明が必要なのだ、会社はそのように思っていた。また、現に皆やっている、運転歴も1年、2年の初心者じゃあるまいし、もう3年もやっている、何を今更。


 しかし、地面との視線の高さに動転している私にもう気持ちの余裕はなかった。顔が紅潮し手が汗ばむ、皆が見守る中リフトを動かす、ブレーキを踏みながら慎重に動かすが、ハンドルを両手で握っておれば良いものを上の突起部分を右手で握って操作したので、リフトが下がり始めたその時、右手に握りしめた突起を右に大きく廻してしまった。


 途端リフトは板から外れ右にそのまま横転した。ヘルメットは被っていない私、放り出され悪ければリフトの下敷きになるかと思われたが、運よくリフトとともにそのまま横倒しとなった。


 そして咄嗟に右手で横受け身をしていた。頭も打つ事がなく、右手も骨折しなかった。驚いた皆が取り囲み助け出して呉れた。リフトは右のミラーが破損しただけ、幸いエンジンからの燃料漏れもなく、これも整備工場から大型リフトを動かして横倒しとなったリフトを起こした。


 その先は、もうお詫びをするだけで一目散にディラーを後にした。この失態を会社に報告することなく、もう帰りたい、の一心だけで。会社には既にその失態が報告されていた筈だが、社長は何も言わなかった。


 あれから40年、今冷静に考えて見るとやはりあの作業には無理があった。リフトを降ろす作業を見る機会も度々あるが、リフトを運ぶ運搬車は傾斜角度が付く特殊車両を用いている。荷台も低い、勿論それなりの技術の習得と訓練も積んでいるだろう、いきなり初めてということもないだろう。ベテランに付いて何度か経験もするだろう。で、なければ新品のリフトは扱えない。


 小さな運送会社、何もかもが運転手頼りというか放任しているのが現状だ。一人ひとりの運転手に構っているほど会社は暇でもないしそんな余裕もない、私も無論分かっている。


 若い人が成長するには時間が掛かる、で時間を掛ければ成長するかというとそれは一概には言えない、何が正解か、それはどの企業、社会そのものが分からない。


 しかし、一言、それは辛抱だ、私は数々の失敗をした。でも面と向かって罵倒されたことはない、それは社長の人柄か、それとも辞められたら困るからか、今思えば矢張り人柄だと思う。しかし、横浜の失敗同様この仕事は二度と廻って来なかった。


 山田社長、数々の失敗をした私をよく辛抱して使って頂きました。本当に有難う御座います。で、これだけの失敗で終わったのか、否、まだあります。


 あるの、あります、それは次回に


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