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タイヤパンク、ジャッキ傾く

序章


 運送業に足掛け10年従事し、幸い大きな事故は起こさず何とか無事に終えたが、思い返せばあわやという場面に幾つも遭遇し経験した。


 昨今交通事故は減少傾向にあるが、当時は国鉄の長期間のストを発端に運送業界も大きく転換した時代で、私が勤めるこの小さな会社もその影響をもろに受けた。運送業に携わる多くの運転手が時代の変革に翻弄され大きな事故が発生し、その結果運転手が大勢犠牲になる時代でもあった。仲間が傷つくことほど悲しいことはない、それを纏めました。




タイヤパンク、ジャッキ傾く


 トラック輸送の仕事にも慣れ、季節も初夏、今日は朝から荷積みして金沢の日通まで荷を運ぶ。先ず一斗缶(18キロ)200個を荷台に敷き詰める、その上に雑貨を、シートを二枚掛け、しっかりロープを結ぶ。


 総重量8トン弱、私のトラック4トン車、積載オーバー、だがそんな事構っていられない、運べと言われれば運ぶ、運んだだけ私の取り分は大きくなる、長距離手当も付く。


 アクセルをゆっくり踏む、重い。加速には時間が掛かる、ブレーキの利きも悪くなるので慎重な運転が求められる。一宮インターチェンジから米原インターチェンジまで高速に乗る、インターチェンジに入ったら前にダンプがのろのろ走っている。


 追い越しを掛けた途端、ボンという異様な音が、左のミラーを見れば後輪のタイヤが傾いている、慌てて路側帯に寄せる、時刻はまだ昼頃。タイヤ交換も慣れた、荷が重いのでタイヤもパンクしがちだ。最初は大変だと思っていたが、なに慣れてしまえばたいした事はない。


 予備のタイヤを外し路肩に置き、ジャッキで持ち上げ先ず外側のタイヤを外す、パンクしたのは内側、ナットを緩めようとしたその時、ジャッキがアスファルトにめり込み傾いた、思わず後ずさりする、途端に恐怖を覚えた、もう俺では無理、高速道路備え付けの緊急電話でJAFを呼ぶ。


 暫くしてJAFが到着、流石プロ難なくタイヤ交換が終了。さあ遅れを取り戻そうとするが、二度とパンクは御免、折角の高速道路も60~70キロ、嗚呼何の為の高速だよ。幸い高速パトロール隊には発見されなかったので、兎に角米原インターチェンジで降り敦賀を目指す。


 そう云えば、高校生の夏の自転車旅行、この敦賀がターニングポイントだった。此処から小浜、舞鶴を抜け山陰地方へ行くことも思ったが、野宿と殆どがパンと牛乳の食事ではもう根気と体力が限界(たった1週間だが、それと用意の所持金2000円も残り僅かでは)、そこで道は米原へ、あれからもう7年か、俺も歳をとったなあ(ちょっと大袈裟か)。


 しかし、この敦賀の登り降りが大変だった、想像して見て下さい、私は今平成30年、2018年でこの話を書いているが、この時25歳の私の時代は昭和48年、西暦1973年、その時北陸自動車道など陰も形もありません。


 北陸への主要道路は国道8号線。今はホームの荷卸し作業だが、若い頃は花形の大型運転手だった方から、昔は東海道も箱根越えが大変だった、と話をして頂いたことがあった、昭和40年代の敦賀はかっての箱根越えの状況だった。この敦賀には冬大変お世話(酷い意味で)になった、これはまた後程。


 急坂を登るのも大変だったが、それより大変なのが下る方だった。加重が掛かりとても通常のギアでは加速がつく、しかも急カーブの連続、止む無くセカンドに落としてもまだ加速が、ついにはロウギヤに落として怖々降りて行った、生きた心地がしなかったのを未だに覚えている。これではとても時間通りには到着出来なかった。ま、事故が無かっただけで幸い、本当に過積載は恐ろしい。


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