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川瀬君

川瀬君


 24歳でトラック運転手となって1年経ってから、友達が出来た、川瀬君だ。


 川瀬君は私より一つ上で、冒頭で会社の状況を述べたが、社長にとって義理の弟になる。家は農家で、川瀬君の父君が元気なので、川瀬君は農業を手伝う傍ら運送の仕事もしていた。中学卒業後直ぐ働きはじめ、酒もたばこもギャンブルもしない真面目一筋、清廉潔白を絵に描いたような好青年だ。


 4トントラックも自分で働いた金で購入し、それを会社に持ち込んでいた。また2歳下の弟にも買い与え、兄弟二人会社から仕事を貰っていた。若者が大半を占める賑やかな仕事場だが、皆、勿論私もそうだがお金を稼ぐだけが主目的であとはその日が楽しければ、と特に何の目標もない集団の中で、私は川瀬君から少し変っていると捉えられたようだ。


 話せば、雑学ながら他の若者にない知的な面を有しており、話が尽きない、今まであったことがないタイプだと。また、愛知県でも有数な進学校卒ながら、何故か運転手をしている、そんなギャップにも驚いていた。


 話す内、互いの家庭環境も分かり、歳も1歳違い忽ち親友と呼べる仲となった。私は自衛隊でトラブルを起こしての経緯は伏せ、親父の死後病気のお袋を抱えてなので、実入りの良いこの運転手の仕事をしていると一部嘘をついた。


 この歳となって自衛隊での不祥事も遠い記憶となり、起こした事実は事実、もう隠す必要もないとこの紙面で正直に書いたが、当時は24歳、とてもそんなことを他人に言う勇気はなかった、妻にさえ長く隠してきた。 


 高校の頃検察官になりたいと思ったことがある、大学の法科に進みたいと考えていたが、学力不足と経済的理由で断念した。


 しかしこの会社で働くようになり高蔵寺ニュウタウンにも移れた。まだそんなに経済的に余裕はないが通信大学なら何とかなりそうなので、もう一度勉強しようと思っていると話したら、大いに賛同してくれた。川瀬君にとって自分の廻りにそのような志を持つ若者は皆無だったのだろう、私の話に身を乗り出して聞きいってくれた。 川瀬君との付き合いはこうして始まった。


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