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仮住まい 後段

 九州の叔母さんには3人子供がいて、上二人が女の子、一番下が男の子、お袋は二人の娘の中で、下の女の子は器量良し(6歳で死亡)だが、上は不細工と揶揄していた。一体に、お袋を含む5人姉妹は、九州の叔母さんを除いては皆美人だ、お祖父さんに似たのだ。しかし、九州の叔母さんだけお婆さんに似たので器量が悪い。


 で、会ったら、お袋の予想通り少し不細工だ、しかし彼氏は男前だったので、そのアンバランスに驚いた。聞けば、彼女は20歳で実家に戻り、バス会社の西鉄に勤め、バスガイドとして働いていた時、バス運転手の彼氏と知り合って結婚したので、新婚旅行がてら乗用車で名古屋に遊びに来た


 私は、親が苦心して高等学校に行かせて呉れたが、団塊世代は一部を除いて、中学卒業後は集団就職するのは当たり前の時代、九州の若者は、大部分が大阪、名古屋で働き、従姉妹のように福井県で働くことも珍しくなかった。叔母さんも最愛の娘を親元から遠く離すことに、密かに涙したこともあっただろう。


 幸い、その娘は実家に戻り、地元で働き、優しくてしかも飛切りのハンサムの彼氏と一緒になった。本当に性格の優しい青年で、しかも私達より2歳下、何と従姉妹は姉さん女房だ。


 お袋と九州の叔母さんは気が合うのか、九州と名古屋、遠く離れていても連絡を取り合っていた。しかし、不思議に思うのは、どうやって連絡を取り合っていたのか、勝川でのアパート暮らしの時代も、私が自衛隊生活で少し多めに仕送りしていたことから、何かに付けては九州にお袋は遊びに行っていたが、その連絡方法をどうしていたのだろう。


 叔母さんの所電話あったかな、その記憶はないが、現実こうして従姉妹夫婦が此処に来ているので、それしかないか、または、昔は電話を持っている家に、時々電話を借りるなどして互いに便宜を図っていたので、その手もあるかもしれない、だが絶対に手紙はないな。


 そんなこともあったが、運転手の仕事も慣れ、トラックも2トンから4トンとなり、収入も安定し前借をするようなことも無くなった。また、迂闊にも親父が亡くなれば、お袋に遺族年金が入るのを知らなかったが、これも分かったので、その手続きをしたことにより収入が増えたことも嬉しかった。お袋の糖尿病も気になっていたものの、相変わらず左程気にせず暮らしていた。


 そして7月、春日井市の高蔵寺ニュウタウンで入居希望の案内を何かで知ったので、お袋に相談したら、是非移りたいという。


 実はお袋は、この生活には飽き飽きしていた。家賃が安い分、生活環境は良いと云えない、二部屋借りているが、共同便所ではゆっくりと用も足していられない、銭湯も少し遠い、日当たりも良いと言えない、また、老朽化した建物群が空を蔽っているので閉塞感と、大勢が暮らしているので何時も騒然した雰囲気が漂っていた。


 毎月着実に貯金していた事に加え遺族年金も入ったので思いきって引っ越しすることとした。その前に団地の部屋を確認して置き、必要な家具も整えたので、会社に高蔵寺に引っ越すことを伝えた。会社は、それなら4トントラックはその団地に留置き、そこから仕事先に向かえば良いと便宜を図って呉れた。勿論、引っ越しには自分のトラックを使って良いので、大した荷物もなかったが積み込んで8月の日曜日実行した。


 思えば、自衛隊でどじを踏んで平家の落人さながら流れ流れてこの襤褸アパートに辿りつき、心機一転やり直す気持ちで臨んだ働き先も二度しくじり、もう挫折感で押し潰れそうになっていた時、お袋の一言で、この会社に勤めたことが、私に転機をもたらした、親とはつくづく有り難いものだ。


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