須成町の襤褸アパート 中段
まもなく古希となるが、九州の地に生まれ、縁も所縁もない名古屋で育ち、退学させられそうになった高校も何とか凌ぎ、自衛隊就職で無難な人生を過ごすかと思いきや躓き、運送屋から大手警備会社に就職し、定年まで働くつもりが、これまたずっこけの人生、思えば波乱万丈、もう少し慎重だったらと悔やむ時もある。
さあ心機一転、いつまでも凹んでばかりいられない。バイトで人生終わる訳にはいかない、お袋は糖尿病でもう働けない、俺が頑張るしかない。そう決めて港区の運送会社に応募した。
幸い、自衛隊で大型免許を取得したので、すんなり就職が決まった。暫くは助手としてベテラン運転手に付く、しかしひと月で辞めることとなった。それは長距離でいつものように、ある中年の運転手の助手をしたのだが、どうもこの運転手初めて会った時から、ずっと私の事が嫌いなようだ。
到着してトラックのシートを畳んでいたとき、暴言を吐いたので言い返したら、胸倉を掴んで、私の股間を蹴って殴り掛かってきた、そんなパンチを貰う程、柔ではない私は難なくかわしたが、喧嘩慣れしている野郎と、一緒に仕事は出来ない、私は近くの駅から電車で会社に戻り、その状況を話して、辞めると伝えた。
決意も新たに頑張ろうとしたものの、年明け早々この躓き、ついてない私は一体何処に流れていくのか、こんな辛抱がない私を見ても、お袋は何も言わなかった。
で、偶々買った新聞の求人欄で、ある観光会社の社員募集の広告が目に入った。場所は中区栄、繁華街だ、何か面白そうに思えた。観光会社だから、旅行関係と思っていたら、案に相違して、サウナ会社だった。面接は30代前半の支配人で、これもあっさり採用された。
ま、23歳という若さだけで、要するに誰でも良かったのだろう。仕事の内容は、ずばりボーイだ、もっと簡単に云えば下働きのお兄さん。
サウナで汗を掻いた客は、浴場で身体を洗い、さっぱりした後は思い思いに休憩室で過ごすが、更に身体の疲れを取る為マッサージを頼む客が居る。
実は、それがこの会社のウリで、そのマッサージをするのは若い女性だ。ブラジャーとパンツ姿のマッサージ嬢が、マッサージ台に横たえた客の身体を揉みほぐす。繁華街にあるこのサウナの利用客は様様だが、皆金廻りが良さそうだ。何故なら、入浴料は一般大衆が利用する銭湯代と比べはるかに高い。
それと、殆どの客がマッサージを頼む、馴染の客は好みのマッサージ嬢を指名するが、その使命料も高い
主役はそのマッサージ嬢だ、殆どが20代だが、30代の女性もいる。独身女性が多いが、中には子育てしながらの女性もいる。マッサージ台が数十台並ぶ広い部屋でマッサージするが、静かにマッサージをして貰いたい客には個室もある、そこで好きなマッサージ嬢と会話も楽しめる。
私の仕事は、浴場や休憩室の清掃、少し慣れたら、銭湯の番台のような所に腰掛けて、利用客がマッサージを頼んできた時は、マッサージ嬢に連絡することだった。40名程のマッサージ嬢の収入源は、勿論マッサージ料金と指名料金、そのマッサージ料から幾ら会社が引くか、若造の私には分からないが、皆一所懸命働いていた。
身なりは、ビキニ姿だが、悪戯に欲情をそそる程でもなく、飽くまで健全さが売り物だから、純粋に客はマッサージを楽しんでいた。しかし、若い私には、その女性達は刺激的だった。約3年半の自衛隊生活では、当然女性と接触する機会はなく、それが突然このような魅惑的な職場で、暫くは戸惑っていたが、それも段々と慣れ、あまり意識することはなくなったが、やはりそれは若い男、好きな女性と目が合うと顔が赤くなった。




